インタビュー

離島の診療から生まれた「整形内科」―プライマリ・ケアで分かった地域の医療ニーズ

離島の診療から生まれた「整形内科」―プライマリ・ケアで分かった地域の医療ニーズ
白石 吉彦 先生

隠岐広域連合立 隠岐島前病院 院長

白石 吉彦 先生

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この記事の最終更新は2015年04月11日です。

白石吉彦先生は、平成10年から島根県・隠岐島にある隠岐島前病院で離島医療を守り続けています。
地域に寄り添い、あらゆる患者さんを診るうちに、次第に「腰がいたい」「肩がいたい」といった整形疾患の症状を訴える人が多いことが分かってきました。
しかし整形疾患とは言っても、そのような患者さんの大半は手術を必要としません。手術の必要がない整形疾患の患者さんと白石先生が向き合うなかで生まれたのが、「整形内科」でした。

私は元々、消化器内科を専門にしてきました。そのため、平成10年に隠岐島前病院に来たときから、内科をメインに診ながらも、胃カメラ大腸カメラを扱い、産婦人科や耳鼻科の症例も診ていました。しかしそのうち、島から小児科が引き上げてしまって、小児科診療もみるようになりました。そして次は外科も引き上げてしまい、残った外来診療もみるようになりました。結果として、内科系の総合診療医6名で、隠岐島前地域のプライマリ・ケアを担うことになりました。

すべての診療科の患者さんを幅広く診るのがプライマリ・ケアですが、プライマリケアや総合診療という言葉は分かりにくいですし、浸透していません。総合診療科という名前で外来を作っても、「内科がなくなった」「外科がなくなった」と言う人が島の中に出てくるでしょう。混乱をきたすことが目に見えているので、まだまだこれからです。結局、隠岐島前病院では内科外来のほか、処置系の外科外来を残しています。

隠岐島では、専門医にかかるためには本土までフェリーで3時間乗るか、非常勤で隠岐島前病院に来て下さる先生を待たなければなりません。専門医にかかりにくい環境ですが、その分、6人の医師がすべての科の患者さんを診療しているので、地域のニーズがみえてきます。

あらゆる患者さんを診ることで得た最も大きな発見の一つは、処置系の外来では整形関連の症例が50%もあるということです。これは高齢の方が多い隠岐島に顕著な傾向ではあると思いますが、実は全国の調査でも、運動器疾患をもつ患者さんの数は非常に多いと推測されています。国民生活調査に「自覚症状」という項目がありますが、その自覚症状の1位は「腰がいたい」で、2位が「肩こり」です。この調査の結果は、いかに運動器疾患を持っている人が多いかということを物語っています。

最も需要のある整形疾患。これに対してどのように向き合っていくべきか、長く考えてきました。大切なのは、整形的な原因で受診をする方のうち、手術室を使うような外科的な手術が必要な人は1%もいないということです。ほとんどのケースは手術の必要のない整形の疾患で、つまりこれは、整形的な疾患であっても整形外科ではない。むしろ「整形内科」と呼ぶべきなのではないかと考えました。

脳外科があって神経内科がある。消化器外科があって消化器内科がある。しかし整形外科があるにもかかわらず、整形内科はありません。そこで生まれたのが「整形内科」という名前です。一時は「ミニ整形」と提案していましたが、これはなかなか広まりませんでしたね。

手術はしなくても、適切な診断をして、簡単な処置までをする「整形内科」こそ、隠岐島に、そして今後高齢化が進む日本の社会に、求められる医療だと考えています。

「総合診療医は整形内科を学べ―整形内科が整形外科を助ける」に続きます。