インタビュー

総合診療医は整形内科を学べ―整形内科が整形外科を助ける

総合診療医は整形内科を学べ―整形内科が整形外科を助ける
白石 吉彦 先生

隠岐広域連合立 隠岐島前病院 院長

白石 吉彦 先生

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この記事の最終更新は2015年04月16日です。

白石吉彦先生は、平成10年から島根県・隠岐島にある隠岐島前病院で離島医療を守り続けています。
地域に寄り添い、あらゆる患者さんを診るうちに、次第に「腰がいたい」「肩がいたい」といった整形疾患の症状を訴える人が多いことが分かってきました。
しかし整形疾患とは言っても、そのような患者さんの大半は手術を必要としません。手術の必要がない整形疾患の患者さんと向き合うなかで白石先生が必要だと考えるようになったのが「整形内科」という診療科でした。

整形外科と整形内科はどう違うのか? 前回に引き続き、白石先生にお話を伺いました。

整形関連の疾患のうち、手術が必要な方はわずか1%です。手術の必要がない患者さんは一番近くにいる総合診療医が診て、実際に手術が必要になる患者さんは整形外科に紹介されればよいわけです。しかし、そのためには総合診療医が「腰がいたい」「肩がいたい」などの訴えに応えられるよう、しっかり勉強して、高いクオリティの診療を提供しなければいけません。そうした問題意識から、「整形内科」を提唱するようになりました。

整形疾患を抱える患者さんは、まずは整形内科で診察をし、手術が必要ない場合はそこで治療は完結します。手術が必要な患者さんは整形外科に紹介します。

必ずしも整形外科医がいない離島医療で整形内科が必要なのは言うまでもありません。しかしそればかりでなく、整形内科医は、整形外科を助ける役割を果たすこともできると確信しています。

全国で30万人ほど医師がいる中で、整形外科医は1万8000人程度しかいません。一方患者さんサイドからみると、整形疾患のニーズは膨大なので、整形外科医は常に手が回らない状態です。さらに言えば整形外科医は手術室においては「出来栄え」が要求される医師でもあり、サイエンスに加えアートの研鑽にも励まなければなりません。このことがさらに整形外科医を手一杯にさせています。

このため、総合診療医が整形内科を学べば整形外科医を助けることにつながります。つまり、手術の必要のない患者さんを整形内科医が診ることで、整形外科医は手術により専念することができるようになるのです。

整形内科医に必要とされるのは、まずは痛み止めの薬を使いこなすことです。2010年頃から薬の種類がずいぶん増えました。どれも効果がありますが、副作用がありますし、飲んでいただくタイミング、副作用予防、あるいは薬を止めるタイミングなど、知識が必要になります。

患者さんが痛みを訴えている場合でも、神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう:神経に何らかの障害があるために発生する痛み)なのか、侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう:痛みを感じる侵害受容器が刺激されて起こる痛み)なのかで薬の使い方は変わってきます。患者さんが訴える痛みを慢性的なもの(慢性疼痛(まんせいとうつう))に移行させないための診断能力と治療能力が整形内科には必要です。

患者さんの痛みがひどく、CRPS(複合性局所疼痛症候群)にまでなってしまうと、相当苦しいはずです。しかし医師がブロック注射を打つことができなければ、その痛みを取ってあげることもできません。私はブロック注射から徐々に治療の幅は広がって、今では硬膜外麻酔など、従来は手術室でするようなこともやっています。

総合診療医の範囲を越えた治療ということでは、例えば星状神経節ブロック(痛みを和らげるために神経に対して麻酔薬を注入する治療法)をやらなければならないこともあります。しかし、エコー(超音波検査機器)を使えば神経節が見えるので、安全に行うことができます。実は、整形内科とエコーは切っても切り離せません。次回は整形内科において重要なエコーについて、お話したいと思います。