インタビュー

てんかんの治療のゴール――「発作ゼロ、副作用ゼロ、将来への不安ゼロ」

てんかんの治療のゴール――「発作ゼロ、副作用ゼロ、将来への不安ゼロ」
中里 信和 先生

東北大学大学院医学系研究科 てんかん学分野教授

中里 信和 先生

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この記事の最終更新は2015年04月13日です。

てんかんを真の意味で完治させる方法は、ごく一部の例外を除くと残念ながらまだありません。しかし、適切な治療を行えば、発作をうまくコントロールすることが可能です。その第一歩が薬物療法です。

てんかんの治療方法には、1)薬物療法、2)外科的治療(手術)、3)食事療法(ケトン療法)などがあります。基本は、てんかん発作を抑える薬の服用です。発作を減らすことが治療のゴールだった時代もかつてはありました。現在は、「発作ゼロ、副作用ゼロ、将来への不安ゼロ」という「3つのゼロ」を目指すべきです。

発作が半分に減っても患者さんの人生は劇的には改善しません。発作が年に1回でも運転免許は取得できないでしょう。発作を完全にゼロにすることは治療目標の第一です。

発作が治まったとしても、治療薬による副作用があれば治療にとっての理想的なゴールとは言えません。服薬を断念せざるをえない重篤な副作用もありますし、そこまで重篤でなくとも副作用がつらすぎれば生活の質は落ちます。患者さんが自覚できないような体質の異常が水面下で進行していることもありえます。副作用ゼロは治療目標の第二に位置します。

発作ゼロかつ副作用ゼロでも、人生に対する不安や悩み事があれば、治療のゴールに達したとは言えません。将来起こりうる発作の再発への不安、薬剤の副作用出現への不安、女性の場合は妊娠した際に子どもへの影響が出てくる不安など、医学的な問題や悩みもありますし、偏見や差別で学校や職場でつらい思いをしている方も少なくありません。なかには家族や自分自身が、てんかんについて偏見や差別を持っているために、患者さんの自尊心が保てないケースもあるのです。こうした問題は、医師が1人で解決できるとは限りません。多くの職種の協力のもと、医療資源や社会資源を組み合わせつつ、解決していかなければならないでしょう。

はじめに、てんかんの薬物療法で用いる薬は「発作を抑える」薬であって、「てんかんを治す」薬ではないことを心にとどめておいてください。てんかん発作を抑えるための薬を服用し続けるというのが薬物療法の基本となります。

これまでのてんかん治療ガイドラインでは、成人の場合、局在関連てんかんの第一選択薬は「カルバマゼピン」、全般性てんかんの第一選択薬は「バルプロ酸ナトリウム」となっています。基本は「単剤治療」といって、 1種類の薬だけで治療を行うのが基本です。そして、単剤治療では効果がみられない場合には、別の薬に切り替えて最終的にはやはり単剤治療を目指すのが標準です。

しかし最近、新薬として登場した「ラモトリギン」と「レベチラセタム」は、発作抑制効果が強いものの長期に服用する副作用が小さいために、カルバマゼピンやバルプロ酸ナトリウムに代わって最初から第一選択として使われるようになってきました。

「ラモトリギン」は局在関連てんかんと全般性てんかんの認可、「レベチラセタム」は局在関連てんかんにのみ認可が下りていますが、実際には両者共に、どちらのタイプのてんかんにも効果を発揮します。むしろ、てんかん治療の初期段階から 「ラモトリギン」もしくは「レベチラセタム」を使い、もし両者を試しても効果が十分でない場合にはじめて、局在関連てんかんならカルバマゼピン、全般性てんかんならバルプロ酸ナトリウムを用いる、という方法が広まりつつあります。

てんかんの薬物療法では、最初の薬剤で約5割の人で発作が抑えられるといわれています。2番目ないし3番目の薬剤で発作が抑制される場合は、さらに追加の1〜2割といわれ、それ以上は追加の効果を期待できないのが普通です。ここまでの薬剤調整は通常1年以内に終了しますので、もし薬剤療法で発作がゼロになる見込みがないのなら、早めに専門医を紹介してもらうべきです。その場合、外来診療を繰り返していても大きな変化は期待できませんから、できれば入院のうえ、長時間ビデオ脳波モニタリング検査を実施してもらえる施設に紹介してもらいましょう。

 

2017年3月25日(土)に仙台で世界的なてんかん啓発活動「パープルデー」イベントを開催します。

 

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