「イリザロフ法」とは、骨折が治るときのメカニズムを利用して、骨を修復したり延長したりする手術のことを言います。低身長の患者さんの治療・骨の変形矯正・事故などにより失われてしまった部分の骨の再生などに対して行われています。
たとえば、低身長の方の場合は、骨を人工的に切ることによりわざと骨折の状態を作り出します。さらに、下図のような装具を用いて外から固定する(「創外固定」といいます)ことにより、一定の力を加えていきます。装具を用いるのは、きちんと正しい方向に骨を伸ばしていくためです。そこから、骨が徐々に伸びていきます。
このようなイリザロフ法の第一人者である、関東労災病院副院長・整形外科統括部長の岡﨑裕司先生にお話をお聞きしました。
イリザロフ法では、「骨折が治るときのメカニズム」を利用します。ここでは、具体的にどのようなことを行うのでしょうか?
骨折が治る際には、くっつく骨と骨の間に「仮骨」という柔らかい骨が作られます。この仮骨がしっかりとくっつくことにより骨となり、骨折が治っていくのです。人工的に骨を伸ばすためには、一度骨を切断し、くっついていく部分を少しずつ引き離していきます(その際には目指す最適の長さで調整し、固定します)。すると、引き離された部分で仮骨が次から次へと作られます。その部分が骨となります。こうして、結果的に骨が伸びていくことになるのです。
この方法により、奇形や事故などにより変形してしまった骨をまっすぐに治すこともできます。この際に、一定の方向に適切な張力をかけ続けて正しい方向に伸ばしていくことが大切です。そのために装具を使います。
イリザロフ法によってできた骨は、正常なものとほとんど変わりません。どの部分がイリザロフ法でできたものかも、数年経つとわからなくなるほどです。また、骨の伸びに伴い筋肉や血管、さらには神経も伸びてきます(さまざまな組織を作ることができるため、「複合組織形成術」という言葉が使われます)。
これは究極の再生医学でもあります。つまり、細胞自体の持っている潜在能力をフルに活用して、すべての組織を再生させてしまうのです。また、この再生のカギとなっているのが血流です。再生の過程で、骨髄の中に血管がどんどん増えていくのが分かります(「髄内血行の新生」といいます)。それにより皮膚も延長され、筋体積も増えていきます。最終的には神経も含め、血流が豊富になることによりあらゆる組織が伸びてくるのです。これは分子生物学的にも証明されつつあります。
イリザロフ法では、装具を用いることにより、骨をどれくらい伸ばしていくかを調節することができます。若い人の場合は1日に1mm伸ばすことができると言われていますが、実際は0.5~0.7mm程度が理想です。あまり一気に伸ばしすぎると、神経など他の組織の伸びが追いついてこないからです。1日に2mm以上伸ばすと、神経麻痺などが起きてしまうと言われています。
イリザロフ法の対象となるのは、主に以下のような方々です。
また、特に年齢制限はありません。100歳の患者さんに対して行った例もあります。100歳でも骨は伸びるのです。しかし、一般的には55歳を超えると骨の伸びが悪くなります。また、これより若い場合でも、肥満の方・糖尿病の患者さん・免疫不全の患者さんなどは骨が伸びにくくなります。
次の記事「イリザロフ法のメリットとは。プレート治療との比較」では、「プレート治療」という方法とイリザロフ法を比較して、イリザロフ法のメリットを挙げます。
福島県立医大 外傷学講座(寄付講座) 教授
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