インタビュー

脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の治療―ブラッドパッチ

脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の治療―ブラッドパッチ
高橋 浩一 先生

山王病院(東京都) 脳神経外科 部長

高橋 浩一 先生

目次
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この記事の最終更新は2015年07月04日です。

脳脊髄液減少症低髄液圧症候群)」という病名を聞いたことはあるでしょうか? 日本ではあまり知られていない病気であり、この病気に関しては原因の解明から治療方針に至るまで、さまざまな議論がなされています。

脳脊髄液減少症にはどのような治療をしていくのでしょうか? 長年にわたり脳脊髄液減少症の診療に携わってきた、山王病院脳神経外科副部長の高橋浩一先生にお話をお伺いしました。

「保存的治療」とは安静と水分補給のことをいいます。保存的治療は、発症早期に行うと有効です。

例えば、頭を打った直後、もしくはしばらくして(1か月以内)、脳脊髄液減少症と同様の症状が起きることがあります。このような場合には、安静と水分補給だけで治ってしまうことが多いです。しかし、無理に動いてしまうと悪化します。ここが通常のむち打ち症とは、異なる点です。

脳震盪(のうしんとう)でも同様で、頭を打った後、特に頭痛やふらつきなどの症状を訴えている間は慎重に対処すべきです。

脳脊髄液減少症に対して有効な治療として、「ブラッドパッチ」と呼ばれるものがあります。正式には「硬膜外自家血注入療法(こうまくがいじかけつちゅうにゅうりょうほう)」と言われます。ブラッドパッチは、記事1で書いたようなさまざまな原因の脳脊髄液減少症に有効です。

ブラッドパッチとは、血液が固まることを利用して、硬膜から髄液が漏出している部位を塞いでいく方法です。血液(ブラッド)で穴を防ぐ(パッチをする)ため、ブラッドパッチと呼ばれます。

まずは、髄液が漏出している付近に針を挿入します(硬膜外穿刺と言います)。その針から硬膜外腔に血液を注入していきます。すると、そこから硬膜外腔に広く血液が広がっていきます。こうすることで徐々に血液が固まり、硬膜の穴を塞いでいきます。

脳脊髄液減少症のうち、「特発性低髄液圧症候群」が原因になるもの(典型的な起立性頭痛があり、MRIでびまん性の硬膜増強効果を認めるもの)に関しては、およそ95%が保存的治療、またはブラッドパッチで改善します。また、腰椎穿刺後頭痛に関しても、1回ブラッドパッチ治療を行うだけで治癒することがほとんどです。

脳脊髄液減少症の場合、大人ではブラッドパッチを2~3回くらいで約75%の方が、15歳以下の子どもは1~2回くらいで90%以上の方が改善します。以前より、小児期、学童期発症例の方が治癒率が高いというデータが発表されていますし、他の施設からも同様に若年発症例が予後良好であると報告されています。なお、4回ブラッドパッチを行っても効果がないときは、別の理由を考慮する場合があります。

ブラッドパッチの有効率は、典型的な特発性低髄液圧症候群が約95%改善するのに対して、脳脊髄液減少症は約75%程度です。このことも、脳脊髄液減少症の診断や病態に対して議論となっている点です。

ブラッドパッチ治療をするにあたっては慎重に診断をおこない、メリットとデメリットをよく検討した上で実施する必要があるでしょう。

また、MRIや血液検査など諸検査で異常を認めないものの、頭痛・倦怠感・朝が極端に弱いなどの症状のために不登校になってしまい、精神疾患・怠け癖・不登校と言われている子どものうちの一部には、脳脊髄液減少症が隠れている可能性があります。もしも自分の子どもが突然前記事のような症状を発症し、理由もなく不登校になって家で怠けてしまっている場合などは、脳脊髄液減少症を疑ってみてもいいでしょう。

小児脳脊髄液減少症症例に関する参考文献

(1) 高橋浩一,美馬達夫 小児期に発症した脳脊髄液減少症9例の検討 ―臨床像とその対応―. 小児の脳神経 2008;33:462-468.

(2) Koichi Takahashi, Tatsuo Mima. Cerebrospinal fluid hypovolemia in Childhood and Adolescence: Clinical Features and Outcomes. Nervous System in Children 2011;36:552-559

(3) 高橋浩一 視点 小児の頭痛の新しい考え方ー脳脊髄液減少症.小児保健協会 Vol. 73 No. 4:527-530, 2014

硬膜外穿刺は、麻酔において硬膜外麻酔という形でよく行われている医療行為です。しかし、一定の合併症、副作用が生じます。以下に合併症、副作用を挙げます。

・注入部の痛み(放散痛)

・脊髄神経や脊髄自体の圧迫による症状(痛み・しびれ・知覚低下・尿失禁など)

頭痛

・ 微熱

・ 嘔気・嘔吐

・ 硬膜穿刺に伴う髄液漏出(穿刺針が硬膜を貫通する)

・ 感染

・ 複合性局所疼痛症候群

・ 徐脈

・ 脊椎硬膜下血腫

など

これらの合併症はほとんどが一時的です。また、長期間の症状悪化につながる合併症は1%くらいの割合で生じます。この他にも、けいれん・繊維性筋痛症などが起こるときがあります。それでも相対的に考えると、全身麻酔で手術するときよりは合併症が少ないと考えることができます。

現状の課題は、この治療法が保険適用になってないことから、ブラッドパッチを行わない施設が多く、特発性低髄液圧症候群脳脊髄液減少症の認知度が極端に低いことから、「適切に診断されない」「精神疾患など他病態と判断される」といった事があります。

またブラッドパッチ施行にて改善が期待できる症例であっても、長期にわたり経過観察されている場合も少なくありません。さらに、保険適用で治療可能な手術と、先進医療に認定されていない医療機関では、混合診療にて同時にブラッドパッチができません。

(注.2016年4月より保険適応となるケースもあります。主治医にご確認ください。)

例えば、慢性硬膜下血腫を合併した特発性低髄液圧症候群がそれにあたります。慢性硬膜下血腫は「穿頭ドレナージ」という頭の手術が必要になります。これは保険適用になっています。しかし、脳脊髄液減少症のブラッドパッチは多くの医療施設では自由診療です。これらふたつの手術を同時に混合診療として治療することはできません。その結果、罹病期間が長期化したり、症状が悪化してしまい、最悪のケースでは生命に危機が及ぶことがあります。 

このように、保険適用になっていないことで深刻な弊害が出てしまっています。

※現在、山王病院は先進医療認定を受けており、ブラッドパッチを保険診療とほとんど同等に行うことができます。また現在、40以上の医療機関がブラッドパッチ治療に関して、先進医療認定されています。

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