インタビュー

血管性認知症(VD)の検査・診断は?

血管性認知症(VD)の検査・診断は?
板東 邦秋 先生

ばんどうクリニック 院長

板東 邦秋 先生

目次
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この記事の最終更新は2015年08月10日です。

認知症はメディアでたびたび取り上げられており、世間でも有名な病気です。認知症と一言で言っても、アルツハイマー病・血管性認知症レビー小体型認知症と様々な種類があります。これらの認知症はどのように分類されるのでしょうか。脳神経外科専門医でありばんどうクリニック院長の板東邦秋先生にお話をお聞きしました。

最もポピュラーな分類は、「NINDS-AIEREN」(1993年 表1)の分類です。

(表1)

血管性認知症(VD)は、

  1. 大血管多発梗塞性認知症 
  2. 小血管による認知症 
  3. 戦略的部位の単一的梗塞(栄養血管の選択的閉塞) 
  4. 低灌流 
  5. 出血 
  6. その他

のように分類されています。また、小動脈や細動静脈、毛細血管に影響を及ぼす病理所見を包括した脳小血管病(SVD)の概念に立った分類(Pantoni 2010、表2)も注目されています。

(表2)

加齢や高血圧が原因となるI型SVDは脳出血の原因として、脳アミロイド血管症(CAA)であるII型SVDは皮質下出血の原因として知られていますが、認知症に関連しては、むしろラクナ梗塞や白質病変、微小梗塞、微小出血などが重要です。

また、2000年のKALARIAらの分類では、NINDS-AIRENの6番目の項目・「その他」を「アルツハイマーを有する脳血管障害」という表現に変更しアルツハイマー型認知症と脳血管障害との関連性を明記しています。

血管性認知症(VD)の診断はアルツハイマー病と表裏一体のため、分類が非常に難しいとされています。そのため特定の検査だけでは血管性認知症(VD)と判断しづらいのが特徴です。
ただし、臨床診断基準として、血管性認知症(VD)は

  1. 認知症がある
  2. 脳血管障害がある
  3. 1と2に因果関係がある

の3点を満たしていることが前提です。

具体的な血管性認知症(VD)の臨床診断基準には、NINDS-AIREN(①)のほかにDSM-IV(②)、ICD-10などがあります。
脳血管障害と認知症の因果関係について、NINDS-AIRENでは血管障害発症から3か月以内の認知症出現を条件にするなど、それぞれの診断基準は少しずつ異なります。したがって、どの基準を用いるかにより診断率も大きく異なってきます。

①NINDS-AIRENの血管性認知症のタイプ別分類

1 多発性梗塞性認知症…主幹動脈閉塞により生じる大脳皮質と白質を含む比較的大きい多発性梗塞による
2 戦略的部位の単一梗塞による認知症(strategic single infarct dementia)
  高次脳機能に直接関与する部位の病変
  皮質性
  a 角回症候群
  b 後大動脈領域梗塞
  c 前大動脈領域梗塞
  d 中脳大動脈領域梗塞)
  皮質下性
  e 視床性認知症
  f 前脳基底部)
3 小血管病性認知症
  皮質下性
  a 多発ラクナ梗塞
  b Binswanger病
  皮質性
  脳アミロイド血管症
4 低灌流性脳血管性認知症
5 脳出血性血管性認知症
6 その他(遺伝性、その他)

②DSM-IVによる皮質下血管性認知症(SVD)の診断基準

<臨床徴候>
1 以下の全てを満たす
  A.遂行機能障害と記憶障害(おそらく軽度)の存在と社会生活活動の以前の水準からの低下
  B.以下の両者を含む脳血管障害の存在。すなわち画像診断による関連する脳血管障害の証拠と神経学的症候の存在あるいは既往
2 支持する徴候
  a.上位運動ニューロン徴候
  b.早期からの歩行障害
  c.不安定性及び頻回の転倒
  d.泌尿器疾患でない早期からの尿路症状
  e.構音障害嚥下障害、錐体外路徴候
  f.精神行動異常(抑うつ、人格変化、感情失禁)
3 支持しない徴候
  a.画像所見で対応する病変がないにもかかわらず早期からの記憶障害が出現する。
   または記憶障害、失語、失行、失認などの認知機能障害が進行する
  b.CT、MRIでの関連する脳血管病変の欠如

<画像診断>
  A.CT:半卵円中心に達し、少なくとも1個のラクナ梗塞を含む著明な白質病変の存在、
   および、皮質の大梗塞・出血、水頭症多発性硬化症のような特殊な白質病変の除外
  B.MRI:
  1.白質病変優位型:10mm以上のPVH、25mm以上の連続する白質病変の存在、または
  2.ラクナ優位型:基底核領域の5個以上の多発性ラクナと中等度の白質病変、
   および、皮質の大梗塞・出血、水頭症や多発性硬化症のような特殊な白質病変の除外

(Roman GC, Tatemichi TK, Erkinjuntti T, et al. Vascular dementia: diagnostic criteria for research studies. Report of the NINDS-AIREN international workshop. Neurology 1993;43:250-260 より)

たとえば、NINDS-AIREN(30%が血管性認知症(VD)と診断された)とADDTC(90%が血管性認知症(VD)と診断された)では診断率に3倍の開きがあります。このように、ピュアな血管性認知症(VD)と診断することは非常に難しく、アルツハイマー型認知症との混合型など、境目が曖昧になってしまっているのが現状です。もっとも一般的に利用されているのはNINDS-AIRENの診断基準です。

なお、皮質下の小血管性認知症(VD)に関しては、NINDS-AIRENの診断基準作成メンバーであるErkinjunttiらによって「皮質下血管性認知症(VD)(SVD)の診断基準」が提唱されています。(③)

③Erkinjunttiらによる皮質下血管性認知症(SVD)の診断基準

<臨床徴候>
1 以下の全てを満たす
  A.遂行機能障害と記憶障害(おそらく軽度)の存在と社会生活活動の以前の水準からの低下
  B.以下の両者を含む脳血管障害の存在。すなわち画像診断による関連する脳血管障害の証拠と神経学的症候の存在あるいは既往
2 支持する徴候
  a.上位運動ニューロン徴候
  b.早期からの歩行障害
  c.不安定性及び頻回の転倒
  d.泌尿器疾患でない早期からの尿路症状
  e.構音障害、嚥下障害、錐体外路徴候
  f.精神行動異常(抑うつ、人格変化、感情失禁)
3 支持しない徴候
  a.画像所見で対応する病変がないにもかかわらず早期からの記憶障害が出現する。
   または記憶障害、失語、失行、失認などの認知機能障害が進行する
  b.CT、MRIでの関連する脳血管病変の欠如

<画像診断>
  A.CT:半卵円中心に達し、少なくとも1個のラクナ梗塞を含む著明な白質病変の存在、
   および、皮質の大梗塞・出血、水頭症や多発性硬化症のような特殊な白質病変の除外
  B.MRI:
  1.白質病変優位型:10mm以上のPVH、25mm以上の連続する白質病変の存在、または
  2.ラクナ優位型:基底核領域の5個以上の多発性ラクナと中等度の白質病変、
   および、皮質の大梗塞・出血、水頭症や多発性硬化症のような特殊な白質病変の除外

(Roman GC, Tatemichi TK, Erkinjuntti T, et al. Vascular dementia: diagnostic criteria for research studies. Report of the NINDS-AIREN international workshop. Neurology 1993;43:250-260 より)

全例頭部MRIまたはCTを施行します。脳梗塞や出血、その瘢痕などを認めることもありますが、小さなラクナ梗塞や広範な白質の虚血性変化を認めることもあります。脳幹や小脳の病変の有無も丁寧に観察します。正常発水頭症慢性硬膜下血腫を認めることもありますが、これらは手術によって認知機能が改善する可能性があります(治療可能な認知症)。

さらに、MRAを施行して、頭蓋内や頚部の血管狭窄や閉塞、異常血管(動静脈奇形など)、動脈瘤の有無を観察します。
他の認知症との鑑別や脳虚血の有無を調べるために、SPECTやPETを施行することもあります。この際、頭蓋内主幹動脈の狭窄や閉塞が認められる際は、潜在的な虚血巣を確認するために脳血管予備能(アセタゾラミド負荷やCO2 負荷検査)を追加します。
頚動脈の狭窄が疑われるときは頚部エコーも施行します。糖尿病患者ではIMT(頚動脈内皮)の肥厚が疑われるため特に重要な検査になります。

根底に生活習慣病が存在し、高齢者ではロコモティブシンドロームも認知症の予後を左右しますから、一般的な血液検査、血液凝固能、DDダイマー、甲状腺機能、心電図、PWV、骨密度などもスクリーニングに検査します。
認知機能検査は、MMSE、HDS-R、MOCA-Japan(モントリオール認知機能検査日本バージョン)、などの簡易検査や経過観察や薬効の判定目的でADAS-j cog(DTナビ)もやっております。
患者ご家族に改定クリクトン尺度の冊子をお渡しして、毎月の生活障害の変化を記録して頂き、診療の参考にしています。

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