インタビュー

神経性食欲不振症(AN)の症状・検査・診断は? 食行動の異常が第一観点

神経性食欲不振症(AN)の症状・検査・診断は? 食行動の異常が第一観点
津久井 要 先生

港北もえぎ心療内科・もえぎ心身医学研究所 院長

津久井 要 先生

この記事の最終更新は2015年08月01日です。

「食事」は、誰もが毎日当たり前に行う行為です。
人間の三大欲求にも含まれている「食事」は、私たちが生きていくうえで欠かすことのできない本能的行動です。しかしその食事、すなわち「食べること」がうまくできなくなってしまうのが、摂食障害(神経性食欲不振症(AN)・神経性過食症(BN)という病気です。それでは、神経性食欲不振症とはどのような病気なのでしょうか。また、神経性食欲不振症にはどのような症状が現れ、どのように診断していくのでしょうか。横浜労災病院心療内科部長であった津久井要先生(現港北もえぎ心療内科・もえぎ心身医学研究所 院長)にお話をお聞きしました。

神経性食欲不振症の症状は多岐に渡りますが、第一に食行動の異常が確認できます。具体的には細かく刻んで少しずつ食べる、油ものを避ける、料理の油をティッシュペーパーなどでふき取る、特定の食べ物に対する強い嫌悪感とこだわりがある、同じものを同じ時間にしか食べられない、食事開始まで時間がかかるなど、独特の食べ方をするようになります。また、食べたと偽って実際は捨てる(否認が多くなるのも神経性食欲不振症の特徴)や盗み食いなど、食事に対してあらゆる面で自ら制限と拘束を強いるようになります。

同時に自分自身の体重に対する執拗なまでの執着と、異常なまでの肥満恐怖が確認できます。そのため神経性食欲不振症では、体重が減少しているにもかかわらず、太ることへの強い恐怖に基づく種々の行動(過剰運動や絶食など)が認められます。その他には不安・強迫などの症状が特徴的です。
いずれにしても神経性食欲不振症の患者さんは自己コントロールをすることで精神的な安定を保っているため、体重が増えることで自己コントロールができなくなってしまうことを極端に恐れているとも解釈できます。

さらに、排出型の神経性食欲不振症の場合、バイタルサイン、心・循環器・呼吸器系、肝機能障害、血液系(白血球が極端に減少し、低血圧・貧血を起こす)、消化器系(胃がものを消化しない状態が長く続いたため、消化器系の運動機能が著しく低下する)、筋力低下・骨折所見、皮膚症状(寒さから身を守るため、背中などに産毛が密集して生えてくる)、内分泌・代謝系(無月経になる)、腎・泌尿器系(尿・汗が出ない)、唾液腺・口腔内所見など、身体的な症状も全身に及んでいきます。

やせが著明な場合、当然、飢餓状態が続いており体では異常事態が起きていると判断しているため、何とか栄養素を全身に補給しようと体は最終的には筋肉の破壊や骨の空洞化を進めます。肝機能が低下することによって毒素の解毒もできなくなり、体温調節機能も狂ってしまうため、歩くことすら困難な状態になったり、何枚服を着重ねても寒いと訴えたりすることがあります。このように、やせが顕著になってくると生命にまで危険を及ぼします。
神経性食欲不振症が原因で死亡する患者さんは6~20%と報告されており、これは数ある精神疾患のなかでも高い確率です。

神経性食欲不振症に対する特別な検査はありませんが、まずは除外診断(ほかの病気が原因で痩せているのではないことを確定する)が必要です。それに加えて、本人が「痩せているにもかかわらず体重が増えることに対して極度な恐怖感を持っている」か、「痩せているにもかかわらず太っていると感じる」ボディーイメージの歪みなどを問診にて診察します。また、栄養状態が不良だと肝機能の低下や白血球の減少が見られることがあるため、血液検査によって重症度を判断できることもあります。心理テストなどを行い患者の精神状態を把握しておくことも必要です。

摂食障害のように“心”や“行動”に関わる病気の場合、血液やCTなどの検査結果の数値やレントゲンだけで病気を診断することはできません。医師が患者さんの病状を聞き、日常生活での食行動の状況をヒアリングするとともに、現在の身体症状や体重と照らし合わせて判断します。

神経性食欲不振症の中にはやせ願望や肥満恐怖を否定し、“太りたい”と主張する患者さんも少なくありません。しかし、実際には“やせ”を維持するための行動が止まらない・あるいは体重を増やそうとする行動が容認できないことから、神経性食欲不振症の診断が可能です。実際、そのような患者さんは、そう言っていながらも食事を制限していたり、元々「食べている」と判断するベースラインが低く、自分では食べているつもりでも実際は1000キロカロリーも食べていなかったりということもあります。しかし、心の根底にはやせ願望があるため、神経性食欲不振症の患者さんに対していきなり通常の方と同じような食事をさせるのは無理があり、徐々に食べることに慣れさせていくことがポイントとなります。

また、DSM-5などの国際的な診断基準にのっとって診断されることもありますが、現在のところは日本では厚生労働省の診断基準にのっとることが一般的です。

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