インタビュー

「PET」で分かるがん、分からないがんとは?―部位別にみるPET検査の効果

「PET」で分かるがん、分からないがんとは?―部位別にみるPET検査の効果
井上 登美夫 先生

医療法人 沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院 先端医療センター センター長

井上 登美夫 先生

この記事の最終更新は2015年10月05日です。

引き続き、横浜市立大学放射線医学教授・横浜市立大学付属市民総合医療センター病院長であり日本核医学会理事長を務められている井上登美夫先生にお話をうかがいました。今回は、PET検査がどのように活用されているか、がんの種類と部位別に紹介します。

非常にFDGが強く集まる腫瘍の代表で、PET検査が有用です。なかでもdiffuse large B-cell carcinomaやホジキン病とよばれるものは、FDGが特に強く集まって検査結果がはっきりわかることと、治癒可能であることが特徴で、治療前と治療後の効果判定のためにPETを行うことが推奨されています。しかし治療後のPET検査で陰性であっても、2割弱は画像検査では見えないがん細胞が眠っていると判断されます。治療後にFDGの集積が高い場合は治療後の生存確率が低い(予後不良)というデータもあります。また、悪性リンパ腫の場合、FDGの集積度(SUV)によって悪化の早さを判断することができます。SUVの値が10を超えると悪化が早く、アグレッシブな腫瘍であると判断されます。

ステージング(がんの進行度の判定)、再発の診断、治療効果の判定に有用だとされています。場所が頸部リンパ節で、大きなしこりの割にFDG集積が強くない場合には一般的に、炎症が起きているだけで転移があるわけではないと判断します。また、頭頸部のがんは重複が多いとされ、FDG-PETで全身像を撮像すると肺など他の部位にがんが見つかることもあり、全身を撮影できるPETは有効性があるといえます。

この部位は生理的な集積(病気がなくてもFDGが集まること)が少ないので、PETではっきり結果が出れば、病変があると判断することができます。特に、胸の真ん中に集中している場合は食道がんが疑われます。ただ、5ミリ以下のごく小さな転移が多いので、細かくリンパ節への転移を調べたいときは、PET-CTの検出でも限界があると言われています。また、予期できない転移は全体の4%ぐらいあると考えられています。

進行度や再発の診断に有用です。1cm以下の結節(しこり)については良性・悪性を判断することは困難だといわれています。また、手術可能であるかを判断する際、肺がんについては、がんがある側の反対側の肺のリンパ節に転移があるかどうかを調べる必要があり、PETはこれを調べるのに有用です。ただし、リンパ節の大きさがあまり大きくない場合には、判断が難しい場合もあります。

ある程度進行してリンパ節転移や全身転移がある場合、また再発診断が必要な患者さんには有用性があると言われています。乳がんには骨転移が多いのですが、なかでも造骨型とよばれるタイプの転移がんの場合にはFDGは集積しにくいと言われており、骨シンチグラフィでの検査のほうが適しています。

有用性があるかどうかはやや疑問の残るところです。例えばスキルス胃がんの場合、かなり進行していてもFDGの集積度は低いという報告があります。予期せぬ転移の検出は全体で6%ほどあるとの報告があります。また、繰り返しになりますが、早期がんへの検査は保険適用外です。

再発腫瘍の検出感度が高いといわれています。PETで検査し、吻合部(手術でつないだ部分)の周囲や、仙骨の前方に集積がある場合は再発に注意が必要とされます。集積が限局性(一箇所に固まっている)の場合と腸管にそっている場合があり、前者でがんの可能性が高いとされます。また、大腸、直腸では予期せぬ転移の検出頻度は高いということが報告されています。

糖尿病に合併して起こるがんが多く、がんへのFDG集積が弱い傾向があります。原発巣(がんが発生した部位)で、どの程度がんが組織に食い込んでいるか(浸潤度)を診断する精度については、PETよりも造影CTのほうが良好だとされています。

FDGの集積の程度と悪性度が相関するといわれています。1箇所でがんの広がっている範囲の大きさを調べる能力はMRIのほうがすぐれています。ただ、播種(腹水の中をがん細胞が移動して腹膜に付着し増殖する)や遠隔転移があるかどうか、再発の診断を行う場合にはPETが役に立ちます。

原発巣の診断精度そのものはあまり高くないと思います。「嚢胞性腫瘤」というタイプで、さらにその中に「充実性成分」とよばれる成分がある場合に限って、PETで検査した際にFDGの集積がみられます。ただし、排卵期から黄体期に検査を行うと、正常な卵巣でもFDGが集積するため、生理が終わって1週間以内ぐらいの時期に撮影するのが適切だとされています。ですから、閉経後の女性でFDGが明らかに卵巣に集まっている場合などはがんを疑う根拠になると思います。

泌尿器科にかかわるがんの検査については、あまり有効性は感じられないというのが実情かと思います。ただし、筆者の所属する大学など、一部の泌尿器科では、分子標的薬の治療の効果を評価するために有用であるという結果も出てきています

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