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食道がんの内視鏡治療とは
従来、食道がんの手術治療は外科的なものが主でしたが、近年になり内視鏡による治療が可能になるケースが増えてきました。この記事では、内視鏡治療の対象になる食道がんや内視鏡治療の種類、また食道がんにお...
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食道がんの内視鏡治療とは

公開日 2015 年 09 月 26 日 | 更新日 2018 年 04 月 02 日

食道がんの内視鏡治療とは
藤城 光弘 先生

東京大学医学部附属病院 光学医療診療部 部長

藤城 光弘 先生

従来、食道がんの手術治療は外科的なものが主でしたが、近年になり内視鏡による治療が可能になるケースが増えてきました。

この記事では、内視鏡治療の対象になる食道がんや内視鏡治療の種類、また食道がんにおける内視鏡治療の合併症について、東京大学医学部附属病院で光学医療診療部部長・准教授を務められている藤城光弘先生にお聞きしました。

食道がんの治療

食道がんの治療においては、内視鏡治療、外科的治療、放射線治療、化学療法(抗がん剤による治療)などを組み合わせて行っていきます(これを集学的治療といいます)。

この中でも内視鏡による治療が「究極の局所治療」であり、「一番からだにやさしい治療」といわれます。食道がんは胸の奥深くに位置しているため、手術をするときにはさまざまな臓器を切り開きながら進んでいかねばなりません。「究極の局所治療」という言葉は、そうした体への負担を軽減できるということを意味しています。しかし、内視鏡治療が対象になるのは厳格にごく早期のがんに限られています。

どのような食道がんが内視鏡治療の対象になるか

食道がんのうち内視鏡治療の対象となるのは、基本的にごく早期のがんです。日本食道学会の治療ガイドラインを参照にすると、内視鏡治療が絶対適応になるのは「粘膜固有層までにとどまる癌であり(m1、m2)、リンパ節転移の可能性がほとんどなく、腫瘍が一度で切除できる大きさであること。同時に、内視鏡で切り取れる部位にあること」となっています。

以前の食道がんガイドラインでは、周在性が2/3周以下であること(食道を輪切りにした場合のがんの占める範囲が240度(全周の場合が360度)以下であるという意味)、という条件が加えられていましたが、この条件が2015年のガイドラインからは撤廃されました。しかしそれでも、周在性が3/4周以上になると治療後の狭窄(狭くなること・詳しくは後述)の頻度が極めて高くなります。食道がんの内視鏡治療では、治療後の狭窄への対処ができる体制で治療にのぞんでいくことが望まれます。

図から分かるように、唯一食道がんにおいては早期がん(m1、m2、m3)が粘膜内にとどまるものを指し、胃がん、大腸がんでは粘膜下層までにとどまるものとしていることと一致しません。

絶対的な内視鏡治療の適応となるのは、早期食道がんのうち、m1、m2の病変ですが、実際は「相対的適応」という形で、m3やsm1でも場合によっては内視鏡治療を行うことがあります。さまざまな状況を勘案した結果、内視鏡治療のほうが相対的に小さいリスクで治療の効果(ベネフィット)が得られると考えられる場合です。

早期食道がん

食道がんの内視鏡治療の種類

内視鏡を使った早期食道がんの治療方法の代表的なものとして、内視鏡的粘膜切除術(EMR)があります。これに加えて、近年開発された内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があり、治療方法はこの2種に大別されます。食道がんの内視鏡治療のメリットは、なんといっても患者さんの体の負担が少ないということです。前述のように、これが「究極の局所治療」といわれる所以です。「EMR」「ESD」では口腔から内視鏡を挿入しますので、体にメスを入れる必要がありません。したがって術後の回復が早く、社会生活にも負担がかかりにくくなります。

また、食道がんの内視鏡治療は胃がんの内視鏡治療に比べ難易度が高く、より熟練した内視鏡医が治療をする必要があります。通常は静脈麻酔を使って内視鏡室で行いますが、食道がんの方はお酒が強い人が多いため、静脈麻酔が効きにくいこともあり、全身麻酔で行うこともあります。

食道がんにおいては小さな病変、つまり1.5cm以下のものはEMRで切除することもあります。それを超えるような病変はESDで切除します。また、深部浸潤の可能性がある「相対的適応」の m3-sm1(前項の図参照)では、小さな病変であってもESDを行っておいた方がよいと考えられています。EMRは上からつまんでとる治療であるため、ESDでなければ深い部分を取り残してしまうことがあるからです。

これに限らず、内視鏡の診断には常に不確かさが伴うと考えられています。内視鏡治療は常に「診断的治療」という立ち位置にあるのです。つまり、食道がんの外科的治療はとても侵襲性の大きい治療であり、手術に踏み切るという決断は重大なことです。そこで手術か内視鏡治療かの判断がグレーゾーンになるときには、最初から手術をしてしまうのではなく、内視鏡的治療を行います。これによって組織をしっかり採取すれば、病理診断(顕微鏡でとった組織を調べる)をすることができます。その上で必要であれば手術するという「手術の前段階としての治療」という意味合いがあるのです。これらの「組織を回収する内視鏡治療」が行われるのは、そのためなのです。

・EMR(Endoscopic Mucosal Resection

内視鏡的粘膜切除術(EMR)

EMRとは、ループ状のワイヤー(スネアと呼びます)をかけて、ワイヤーをしぼり高周波電流を流してがんを焼き切る内視鏡治療です(イラストでは、生理食塩水をがんに注射して隆起させて、焼き切っています)。内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、短時間で行えて治療自体の安全性は高くなりますが、切除できる大きさに限界があり小さながん組織の取り残しを起こしやすいという欠点があります。そのため、食道がんでもほぼ次に説明するESDという治療に移行しています。

※胃がんはほぼ全部ESDに移行している一方で、食道がんではまだおおよそ1割程度はEMRで治療されています。

・ESD(Endoscopic Submucosal Dissection

ESDは、電気メスを用いて病変周囲の粘膜を切開し、さらに粘膜下層の剝離をして切除する方法です。治療の手順ですが、まずがん周囲をマーキングし、どこを切るべきなのかを明確化します。その後で病変部をヒアルロン酸やグリセオールなどで浮かせて、穿孔しないように食道壁を厚くします。病変周囲の粘膜を電気メス(この場合はSplash M knife)で全周性に切開し、粘膜下層を直接観察しながら、少しずつ電気メスで剥離して切除します。この方法には、大きい腫瘍やひきつれを伴う瘢痕合併例などでも切除できるというメリットがあります。一方で、EMRに比べて熟練した手技が必要で、治療時間がやや長くなるというデメリットがあります。

Splash Mナイフ(東大とHOYAペンタックスが共同開発した電気メス)を用いた食道ESD

 

左上から

  1. 食道がんがどこにあるかを調べる
  2. 食道がんの周囲をマーキング
  3. 粘膜の切開
  4. 粘膜下層の剥離
  5. 切除完了後の食道
  6. 食道がんの摘出

食道がんの内視鏡治療の合併症

メリットが多い内視鏡治療ですが、基本的にこの手術が可能なのは早い段階で見つかった食道がんの患者さんだけです。すべての患者さんに内視鏡治療を実施できるわけではありません。

・食道がんの内視鏡治療の合併症とは?

合併症で問題になるのは狭窄(狭くなること)と穿孔(穴が開くこと)です。

まず狭窄についてご説明します。食道の管腔がもともと細いものであるため、術後の狭窄が問題になります。狭窄になると食道が狭くなり、食事を飲み込みづらくなるなどの症状が出ることがあります。食道がん治療ガイドラインにも記載されていますが、全周の3/4周以上の食道がんを切除すると狭窄はほぼ必発と言われています。そのため、狭窄を起こさないような管理を適切にしていく必要があります。

まず、狭窄が起こりそうになったら内視鏡を用いて狭窄部にバルーンを挿入することによって拡張していきます(内視鏡で風船のようなものを入れて狭くなっている部分で膨らませ、狭くなった食道を広げていく治療です)。

従来は、あまりに狭窄がひどくなると上記の治療を長期にわたって何度も繰り返さなければならないケースもありました。しかし今では、内視鏡でがんを削った「粘膜欠損部」に対して、PGAシートという狭窄を予防するためのシートを貼り付けたり、ステロイド剤を注射して、狭窄を予防することができるようになりました。もちろん、これでも狭窄を完全に予防できるわけではありません。さまざまなトライアルが行われています。

さらに、内視鏡治療中や治療後に食道の壁が穿孔してしまうと、これは非常に大きな問題になります。胃がんのときにはさほどの問題にはならなかったのですが、この点が食道がんの場合の大きな違いとなります。

食道の外側には「漿膜」という膜がありません。胃の場合は漿膜に覆われているので少し筋層が露出して、傷ついても内視鏡から送られる空気(CO2:炭酸ガス)が外にもれることはありませんでした。しかし、食道の場合には外に漿膜がありません。さらに、食道には隣接臓器として肺や心臓という大切な臓器があります。そのため、食道が穿孔して炭酸ガスや空気が外にもれると、肺を圧迫することがあり、それが致死的になることがあり十分に注意が必要なのです。

ここまでさまざまな合併症について述べてきました。なかには危険なものもあります。しかしそれでもなお、食道がんの治療において、ほかの外科的治療などに比較した内視鏡治療のリスクははるかに小さくなります。

1970年生まれ。1995年、東京大学医学部を卒業後、東京大医学部附属病院研修医。96年より、日立製作所日立総合病院研修医、国立がんセンター中央病院消化器内科レジデント等を経て2005年、東京大学医学部附属病院消化器内科助手(助教)。2009年、現職に至る。内視鏡機器や処置具の開発から携わることで患者の負担を減らし、かつ、早期発見・的確な診断、治療が行える方法の研究を続ける。

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