インタビュー

耐性菌を防ぐための医療従事者の取り組みとは

耐性菌を防ぐための医療従事者の取り組みとは
本郷 偉元 先生

関東労災病院 感染症内科 部長

本郷 偉元 先生

この記事の最終更新は2015年10月04日です。

抗生物質が効かない耐性菌に対して、医療の現場ではどのような取り組みがなされているのでしょうか。武蔵野赤十字病院感染症科副部長の本郷偉元先生に、耐性菌を防ぐための医療従事者の取り組みについて引き続きうかがいました。

耐性菌を増やさないために医療従事者全体として取り組まなければならないのは、ひと言でいえば抗生物質(抗菌薬)をいかに適切に使用していくかということになります。

その中でも私たち感染症科が果たすべき役割は、他の診療科での抗生物質(抗菌薬)の使用状況をモニタリングして、施設全体での適切な使用を働きかけていくことであると考えます。さらには自分たちの診療科の患者さんたちだけを診ていればいいというのではなく、社会全体を守るという視点で診療を行なっていく、いわばセーフティネットとしての役割が求められています。

抗菌薬の適切な使用とは、言い換えれば、より「狭域」な、ターゲットを絞った薬剤の使用ということになります。細菌にはそれぞれ固有のユニークな性質があり、それに応じた抗菌薬の立ち位置というものがあります。

第一に考えるべきことは、必要のないときに抗菌薬を使わないことですが、それがクリアできたら次にはより狭域な薬剤、細菌の特性に合わせた最適なものを使っていくべきです。しかし、実際の医療の現場では必ずしもそうはなっていないという現実があります。多くの医師が使い慣れているという理由などで抗菌薬を選択しているのではないでしょうか。

また、幅広い菌種に有効な広域抗菌薬から、より狭域な薬剤に変えるためには、本来であれば「培養検査によって起因微生物を同定する」という努力が必要です。しかし、施設内で培養ができる病院や診療所はどうしても限られます。

そこで、ひとつの考え方として、一定以上の規模の病院では細菌の培養検査を院内で行うことを制度として推進していくというような施策も考えられるのではないでしょうか。

ただし、A群溶連菌の迅速検査であれば培養の必要はありません(関連記事「抗生物質とはなにか」参照)。このようなインフラが整備されなくても実践可能なところから始めていくということは充分可能であると考えています。実際、講演会などの機会があれば必ずこの話をしています。また患者さんの側からも検査を希望する声が多くなれば、地域の開業医の方々も検査の必要性をあらためて認識されることと思います。

私が米国から帰国したのはもう10年ほど前のことになりますが、当時は日本国内での感染症対策がまだまだ遅れているという印象をもっていました。たとえば、採血時に手袋をすることや針刺し事故防止の対策など、今でこそかなり浸透していますが、当時は実施している施設は少なかったように思います。

代表的な耐性菌であるMRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)でいえば、保菌者を含めた患者さんをケアするときには、必ず袖が手首まであるガウンを着用するといった必要性もあります。われわれ医療従事者自身が耐性菌の運び屋になりうるという意識を持っていれば当然必要なことなのですが、現在でもまだ実施されているところは少ないと思います。

耐性菌とは別の話になってしまいますが、ワクチンに対する考え方もそうです。日本の社会全体として、ワクチンによる集団免疫(ある集団内に免疫を持つ人を多くすることで、病気自体の流行を起こりにくくすること)という認識がほとんど浸透していません。医療従事者に限っても、施設として職員一人ひとりのワクチン抗体価を把握して管理しているところはまだまだ少ないかもしれません。

しかしながら、かつて米国や主要な先進国に比べて感染症対策が遅れていたとはいえ、日本人は元来勤勉な国民性を持っていますので、今後ガイドラインや制度が整備されて必ず良くなっていくものと期待しています。

たとえば、第三者機関による病院機能評価制度の普及にともない、広域抗菌薬の使用届出制を採用することが感染対策の要件として定着しつつあります。このように、耐性菌の増加に歯止めをかける上で重要な感染対策を評価し、後押しする制度が今後も整備されていくことが望ましいと考えます。

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