インタビュー

人工内耳とEAS―難聴治療の最前線(1)

人工内耳とEAS―難聴治療の最前線(1)
岩崎 聡 先生

国際医療福祉大学 教授

岩崎 聡 先生

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この記事の最終更新は2015年09月19日です。

従来は治療が困難だった高度難聴についても、医療機器の助けによって聞こえにくさを補う人工聴覚手術が可能となっています。これまで300例以上の手術を手がけている人工内耳のスペシャリスト、国際医療福祉大学三田病院 耳鼻咽喉科の岩崎聡先生に、最先端の人工聴覚器についてお話をうかがいました。今回は人工内耳とEAS:残存聴力活用型人工内耳についての話題です。

人工聴覚器は、補聴器が使えない方や、補聴器で充分聞こえが改善しない方が対象になります。補聴器が使えない方には、具体的には下記のようなケースがあります。

  • 慢性中耳炎などで耳漏(耳だれ)がある
  • 耳がかゆくなる、違和感がある
  • 長時間使っていると頭が痛くなる
  • 先天的に外耳道がふさがっている、狭いなど

補聴器が正しく使えていても、解決できない問題もあります。構造上どうしても耳がふさがっている感じや、外からの音に比べて自分の声が強調されるといった違和感があります。また、音の歪みや子音の聞き取りにくさ、見た目の問題などもあり、これらの点では人工聴覚器のほうが優れているといえます。

人工内耳は外部からの音を電気信号に変換し、内耳にある蝸牛という器官に埋め込んだ電極の刺激で音を聞き取る仕組みです。

従来の人工内耳の手術では、人工内耳と引き換えに蝸牛の組織を傷つけてしまい、元々残っていた聴力は失われていました。しかし最近の人工内耳手術では、蝸牛の組織を温存したまま人工内耳を使うことができるようになり、手術前の聞こえの状態(残存聴力)を維持することが可能です。

特に小児の場合は、成長してからさらに進んだ技術で再手術をすることも充分ありえます。そのような可能性を考慮すれば、内耳の組織を傷つけることのない手術を行なっておくことをおすすめします。

人工内耳の適応はガイドラインで定められていますが、現在の日本の基準は米国に比べるとより厳しいものになっています。

  • 難聴の度合い:日本は90dB以上、米国は70dB以上
  • 補聴器使用時の言葉の聞き取り:日本は50%未満、米国は40%未満

今後は日本も米国並みの基準になっていくかもしれません。そうなれば、現状で人工内耳手術の対象になっていない方も将来的には手術ができるようになるのです。患者さんには決してあきらめずに、最新の情報に注目していただきたいと考えます。

また、人工内耳の手術はこれまで、左右両方の耳で難聴のある方にしか行われていませんでした。しかし、片側の耳にのみ難聴のある方は、周囲の想像以上に不便な生活を強いられています。大勢が多方向から話しているときに方向感がつかめないといったコミュニケーション上の不都合だけでなく、難聴側から車のクラクションが鳴っても聞こえづらく反応が遅れるなど、命に関わる問題さえあります。

そこで、近年では片側のみ難聴のある方に対する人工内耳手術が行われ始めています。結果は良好で、患者さんのQOL(Quality of life:生活の質)改善に大きく寄与することが明らかになってきています。しかし、現状では保険適応にならないため、先進医療として行えるよう準備をしているところです。ゆくゆくは保険で受けられる治療として、患者さんの希望が叶えられるよう努力していきます。

EAS(Electric Acoustic Stimulation)はハイブリッド型の人工内耳です。人工内耳は両側とも90デシベル以上の高度難聴が適応となりますが、低い音の聞こえにほぼ問題がなく、高い音の聞こえだけが高度難聴という高音障害型難聴は適応になりません。

そこで、高音部は人工内耳で聞きとり、低音部は直接耳から音として聞きとる残存聴力活用型人工内耳(EAS)という新しい方式が開発されました。補聴器からの音と人工内耳による電気信号の両方で聞こえを改善します。

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