インタビュー

腰椎すべり症の治療、手術

腰椎すべり症の治療、手術
山崎 隆志 先生

藤枝駅前クリニック 院長

山崎 隆志 先生

この記事の最終更新は2016年01月04日です。

腰椎すべり症とは」で、腰椎すべり症は、分離による脆弱性による腰椎分離すべり症と、長年にわたる負荷で腰椎自体が変性して起こる腰椎変性すべり症に大別できることを解説していただきました。どちらの疾患も疾患が進行すれば、腰痛の悪化、下肢のしびれ、尿や排便の障害などといった重い症状が現れることがわかっています。本記事では、引き続き武蔵野赤十字病院整形外科部長の山崎隆志先生に、腰椎すべり症の手術や治療について解説していただきます。

一般的な腰痛の場合、腹筋を常に意識して使うことや、腰痛が出た時に医師の指導に従ってストレッチすることなどが通常の予防法となります。しかしながら、「すべり症」に関しては効果のはっきりした予防法がありません。

症状が現れた場合は、すぐに手術を選択することはせず、以下の治療法で改善を図ることが一般的です。

腰痛に対して消炎鎮痛薬や筋弛緩薬などを処方して、症状の軽減を図ります。脊柱管狭窄によって馬尾神経が圧迫されて生じる下肢痛やしびれなどの症状に対しては、馬尾神経の血流を促進する末梢循環改善薬が処方されます。

温熱療法とは、文字通り腰部の筋肉を温め、様々な症状の改善を図るものです。また牽引療法とは、縦方向に腰部を引っ張る医療機器で患者さんの腰部を伸ばし、様々な症状の改善を図る治療法です。ただし、温熱療法・牽引療法には医学的なエビデンスがありません。しかし症状が改善する患者さんも少なからずいますので、実際の臨床においては日常的に行われています。

神経ブロック療法
神経ブロック療法

疼痛がある場所に局所麻酔薬を注入し痛みをとる治療法です。腰椎すべり症で行われる神経ブロック療法には2種類あります。

ひとつは、椎弓内を通っている脊柱管内の硬膜外側に注入する「硬膜外ブロック療法」です。もうひとつは、脊柱管から枝分かれしている神経根という神経に局所麻酔薬を注入する「神経根ブロック療法」です。

神経ブロック療法は、薬物療法で効果が得られない場合、痛みが強い場合などに行われます。神経根ブロック療法の場合、患者さんにうつぶせに寝てもらった状態でレントゲン透視を行い、神経根の部位と方向を確認しながら慎重に注射を行います。

ただし、これらの治療法については、医師の間で疑問視されている点があります。

医学的にみて、局所麻酔薬によって痛みが軽減するのは1時間程度です。しかし患者さんの中には、あきらかに局所麻酔薬が切れても痛みが起きない方が多数いらっしゃいます。

エビデンスはないのですが、局所麻酔薬が切れても痛みが起きないのは「痛みの悪循環」が断ち切られるために起こるのではないかと考えられています。

一般的に、馬尾神経や神経根を刺激する症状が表れた場合痛みが起きます。それを回避するため、不自然な姿勢を取って筋肉が収縮してしまい、痛みが持続しやすくなってしまう可能性が考えられます。そこで局所麻酔薬を投与して痛みがおさまると、体の力を抜いて自然な姿勢を維持できるようになります。そのため、物理的に神経を刺激しなくなり、局所麻酔薬の効果が無くなっても痛みが再燃しなくなるのではないかと考えられています。

非特異性腰痛という疾患がよく知られるようになりましたが、腰痛を訴える患者さんの痛みが腰椎すべり症が原因となって起きているのかを診断することは非常に難しいのが現状です。

腰椎すべり症のため腰椎が不安定になり痛みが起きている患者さんの特徴としては、体を動かすと激しい痛みで体がこわばるような症状(ペインフルキャッチ)が現れることが挙げられます。これは、腰椎の一部にぐらつきなどの不安定性があるためとされています。このような症状が続く場合は、不安定な腰椎を固定する手術(固定術)を行えば痛みが消失する可能性が高いとされています。ただし腰痛の原因は実に様々ですので、他の治療法や生活習慣の改善を試みた上で、腰痛が改善しない場合に手術を検討するのが最良の方法といえます。

薬物療法や、理学療法(腰椎の牽引・温熱療法)、神経ブロック療法などを行っても症状が改善せず、以下のような症状が出る場合は、脊柱管狭窄症による神経の障害が進行していることを意味しますので、手術を検討します。

・下肢の筋力低下の出現

・安静にしていても下肢がしびれるなどの症状が出る

・膀胱直腸障害(陰部に痛みが出る。歩くと、尿が漏れそうになるなどの症状が出る)や下肢のしびれが起こる場合

・陰部や肛門周囲のしびれや違和感

これまでに述べてきたように、手術は最終的な手段です。したがって、手術を行うかどうかはメリット・デメリットを理解した上で決めていただく必要があります。ただし、手術をすべき時期があるのも事実です。安静にしていても下肢のしびれが出るようになった場合、手術を行っても安静時にある症状は改善が難しい場合が少なくありません。医師に相談して早期に手術を検討するほうが望ましいといえます。

手術は腰椎の「ずれ」や「動き」の程度によって、神経の圧迫を解放する(除圧術)の場合と、除圧に追加して腰椎を固定する場合(固定術)があります。

椎弓に穴を開けて、神経の圧迫を解放する除圧手術です。侵襲の小さいな手術方法で、症状の改善が期待できます。時に除圧不足が起こることが欠点です。

これは私が開発した術式です。開窓術による除圧不足が起こらないよう十分な術野が確保でき、一度切離した棘突起を元の位置に戻せるので開窓術と同様に椎弓を温存できます。

棘突起反転式椎弓形成術では、全身麻酔の状態で腹臥位(うつぶせ)に寝ていただき、1つの椎間が患部である場合、腰部を3cmほど切開します。その後、棘突起を温存しながら、椎弓の一部と肥厚した黄色靭帯だけを取り除きます。そして手術用の顕微鏡を用いて脊柱管を広げ、神経の圧迫を除圧します。一箇所だけの場合は手術が40分程度で終了するうえ、出血量が少ないです。

この手術も、私が開発した術式の一つです。腰椎の内側には、黄色靱帯と呼ばれる組織があります。

腰椎すべり症が進行し、腰部脊柱管狭窄症になると黄色靱帯が肥厚して椎弓の中を通っている脊柱管の神経組織を圧迫します。

黄色靱帯浮上術は、黄色靱帯が脊柱管の馬尾神経を圧迫して足のしびれや直腸・膀胱などの障害が出る際に有効です。椎弓の一部を切除して、黄色靱帯を露出させ、肥厚した黄色靱帯を温存し菲薄化させ、脊柱管の除圧を図ります。棘突起は上記の棘突起反転式椎弓形成術で温存されます。

黄色靭帯浮上術
黄色靭帯浮上術

腰痛が強い場合やすべりの程度や不安定性が強い場合は腰椎固定術が行われます。除圧術だけの手術より侵襲が大きくなりますが、腰椎の安定性が症状改善に必要だと判断される場合に必要になります。通常、除圧術と固定術は同時に行います。固定術では腰椎にスクリューを刺入してそれをロッドで連結します。椎間板にスペーサーを挿入することも多いです。

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