インタビュー

集団精神療法とは―治療的なグループの重要性

集団精神療法とは―治療的なグループの重要性
白波瀬 丈一郎 先生

東京都済生会中央病院 健康デザインセンター センター長

白波瀬 丈一郎 先生

この記事の最終更新は2015年10月12日です。

慶応義塾大学ストレス研究センター副センター長の白波瀬丈一郎先生は精神療法をご専門とされ、KEAP(KEIO Employee Assistance Program)という、職場復帰支援を中心としたメンタルヘルス支援プログラムを開発されました。今回は集団精神療法について、ご自身の体験を交えてお話をうかがいました。

精神療法の中には、集団がいかに機能的に動けるようになるかを考える「集団力動」という考え方があります。この考え方の応用として、たとえば精神科の入院病棟は大きなストレスが生じる場ですが、そこにいる看護師さんや主治医、そして患者さんからなる集団を、いかに治療的なグループにしていくかという取り組みがあります。私は病棟医長という立場でその取り組みに長く携わった経験があります。

コンサルテーション・リエゾン精神医学とは、病院の中で精神科以外の領域、外科や内科など他の診療科の患者さんや病棟のスタッフの支援をするものです。

私は慶應義塾大学病院の中で、血液内科と長年一緒に仕事をし、その中で骨髄移植の患者さんをいかにサポートするかという取り組みをしてきました。骨髄移植がどういうものかご存じない方も多いと思いますが、患者さんだけでなく、その医療スタッフのストレスも非常に大きいところです。

当初は患者さんが無菌室に入られた際の拘禁反応(こうきんはんのう・長期間動きを拘束されることによる心身の異常)の他、がんにより人生の見通しがネガティブな方向に大きく変わったことに伴うメンタル的な問題のサポートが中心でした。しかしその後、移植チームの機能をいかに高めるかといった相談を受けるようになりました。すると、これまでにも増して内科の医師たちから評価をもらうようになりました。

当時、総合病院の中の精神科医は、精神科の病気しか診ない医者であるとみなされる傾向がありました。たとえば、がんになって精神的に落ち込んでいる患者さんを診てほしいと言われても「この人はうつ病ではありません、癌になって落ち込むのは正常です」と言って終わってしまうようなこともあり、他の診療科からは孤立している部分が少なからずあったのです。

移植チームのサポートでは、移植がうまく行かず落ち込んでいる患者さんを見て、周囲にいる若い看護師さんや医師がまるで我がことのように落胆しているのを、どうやって力づけるかといった相談に乗ることもありました。

また、一流企業で高い役職に就いているような患者さんの場合、治療の辛さやうっぷんが高じて、まるで部下を叱りつけるかのように看護師や医師の不手際を責め立てるといったことがあり、言われた方も精神的に参っていました。

このようなチームをどうサポートしていくかといった課題に取り組んでいるうちに、精神科医として、患者さんを手助けするだけではなく、集団をサポートしていくという役割を担うことにも意味があると考えるようになったのです。

次に取り組んだのが学校保健です。附属高校に精神科の専門医として赴き、教員やスクールカウンセラーと一緒にさまざまな問題に対処していました。

実際に学校に行くのは月に1〜2回でしたが、スクールカウンセラーが専門医の意図を汲んで通訳のような、いわばインターフェースの役割を果たしてくれました。たとえば私が何か学校に対してアクションを起こそうとすると、誰を介してどこに話を通せばいいかをアドバイスしてくれるなど、有機的なやりとりができるチームとして機能していました。

月に1、2回、専門医が学校に顔を出して報告を受け、それに対して指示を返すというような通り一遍の仕事ではなく、皆で連携してひとりの生徒に対して何がしかの支援ができたという経験をもつことができたのです。

このような体験を通して、精神科医の役割として、個人だけではなく集団を支援するということをより意識するようになりました。それと同時に、産業の場での精神科医のあり方として、このままではいけないという思いが重なり、この経験を応用してもう少し職場に関わりながら支援することで、今までと違うことができるのではないかと考えるようになったのです。

それまで私が産業の場に関わっていたとき、問題の責任を企業の側に転嫁するような考えを持っていた時期がありました。問題意識を持ってさまざまな提案・提言をすると、人事担当の方たちは、いったん受け入れてはくれるものの、それが実際に実行に移されることは一向になかったからです。

そのことが当初私の目には、会社や人事が本気でやろうと思っていないからだと映っていました。しかし、よくよく考えてみれば、私たち医師が臨床の仕事をしながら病院の経営のことを考えろと言われるのと同じように、人事担当者や職場の上司にはそれぞれ果たすべき職責があり、その中でメンタルヘルス不調になった人のことを考えろといっても無理があるのは当然のことです。

そこで前述の学校保健での関わり方を応用することを考えました。精神科医は企業に関わる時間を多くは持てませんが、スクールカウンセラーと同じようにインターフェースとなってくれる優秀な臨床心理士がいてくれれば、チームとしての機能をもっと高められるのではないかと考えたのです。この発想が、KEAP(KEIO Employee Assistance Program)という、職場復帰支援を中心としたメンタルヘルス支援プログラムにつながっています。

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