インタビュー

カプセル内視鏡による検査のこれから―小腸から大腸へ

カプセル内視鏡による検査のこれから―小腸から大腸へ
塩谷 昭子 先生

川崎医科大学  消化管内科学 教授

塩谷 昭子 先生

この記事の最終更新は2015年12月01日です。

小腸は胃カメラ大腸カメラでは届かない部分であるため、今までは検査をすることが難しく、そのために小腸には病気がさほど起こらないとされてきました。しかし、カプセル内視鏡の開発により、小腸のさまざまな病気が明らかになってきました。近年注目を集めているカプセル内視鏡という検査機器はどのような機器なのか、今後どのように使われていくようになる見込みなのか、川崎医科大学消化管内科学教授の塩谷昭子先生に解説していただきます。

現在、小腸カプセル内視鏡を用いる場合には、約2cmの小腸カプセル内視鏡を患者さんに飲んでいただくことで、全長6~7mもある長い小腸の粘膜を観察することができるようになっています。小腸カプセル内視鏡の開発によって、今まで原因がわかりにくかった消化管出血や腹痛の診断について、患者さんの負担なく検査できるようになっています。

2007年10月からは日本でも保険適用となったため、専門医のもとで多くの患者さんが検査を受けられるようになりました。川崎医科大学でも2018年3月までで、900人以上の患者さんが小腸カプセル内視鏡による検査を受けています。カプセル内視鏡は飲むだけで行える検査であり、患者さんの立場からしてもとても簡単に検査をすることができるのです。

PillCam® SB 3 カプセル(提供:コヴィディエン ジャパン株式会社)

小腸のカプセル内視鏡が保険対象となる患者さんは、「小腸に病変があると疑われた患者さん」です。具体的にどのような場面で用いられているのかについてお話していきます。

カプセル内視鏡の保険適用疾患の中で頻度の高い病気のひとつとして、「クローン病」があります。クローン病は、その病態の詳細は不明ですが、免疫の異常により小腸の病変ができてしまう病気です。クローン病においては現在、免疫系を抑え込むために、生物学的製剤という薬が積極的に使われます。カプセル内視鏡は、クローン病の病変の範囲や病状の強さおよび生物学的製剤を投与するタイミング、薬の効果判定のために用いられます。

このクローン病は若い人に多い病気です。では、高齢の患者さんに対してのカプセル内視鏡はどのような病気で用いられるのでしょうか。高齢の患者さんには、抗血栓薬を飲む方が増えてきています。抗血栓薬は血液をさらさらにする効果がある薬であり、脳梗塞後や心筋梗塞の予防に飲んでいます。こうした薬は胃・十二指腸潰瘍や消化管出血を起こしやすいことが知られていました。最近では、小腸潰瘍や小腸出血を起こすことがカプセル内視鏡で確認され、注目されています。これらの薬剤を内服し、消化管出血を来した際に、胃カメラや大腸のカメラで出血源を認めず、小腸出血が疑われた際に、カプセル内視鏡を用いて検査をします。

先述したように、カプセル内視鏡が現在もっとも良く使われている場面は、出血の原因になる病変がどこにあるのかを検索する場合と、クローン病などの小腸の病気が疑われ病変を評価する場合です。

しかし、クローン病では小腸に狭窄を来すことが多く、カプセル内視鏡が狭窄部の手前の小腸に滞留する危険性があります。つまりカプセル内視鏡が小腸に詰まってしまうということです。これを避けるために、狭窄がない場合や狭窄が疑われる患者さんに対してはダミーのカプセルである「パテンシーカプセル」を最初に飲んでもらうことによって、カプセルが通過することができるかを確認していきます。パテンシーカプセルは時間の経過により徐々に崩壊するため、この確認を安全に行うことができます。

明らかに狭窄が強い患者さんではパテンシーカプセルにより腸閉塞を誘発する可能性があるのでカプセルの検査は通常行われていないのが現状です。

開通性判定の仕組み(提供:コヴィディエン ジャパン株式会社)

 

小腸は従来、あまり研究されていない臓器でした。しかしカプセル内視鏡が登場し使われるようになってきたことで、さまざまなことが明らかになってきました。

たとえば先述したように、小腸からの出血が従来認識されていたよりも頻度が多いことが分かってきました。つまり小腸に潰瘍病変や血管病変が多いことが認識されるようになりました。特に、薬によって小腸に病変を来してくることが研究され、腸内細菌が小腸に対してさまざまな影響を及ぼしてくることも報告されています。

また、欧米同様に日本においてもアレルギーの病気が増えてきています。喘息蕁麻疹花粉症などは、どこの先進国でも同じように生活環境、衛生環境がよくなるにつれて増えています。そして実は、小腸にもアレルギーの病気があることがわかっています。

今後は、免疫異常やアレルギーが関与した小腸の病気が先進国を中心に増えさらに注目され研究されるようになりそうです。たとえば「食物アレルギー」、「好酸球性腸炎」や、日本では少ないですが「セリアック病」という病気があります。

大腸用のカプセル内視鏡というものも存在します。しかし、これはまだ広く普及するに至っていません。

大腸の問題は、小腸と比較して管腔が広い(太い管であること)ことです。また、糞便などの残渣もとても多くあります。そのため、前処置なしで行うことができません。ここでの前処置とは、下剤を飲むことです。大腸でカプセル内視鏡を用いるためには大腸カメラの場合の倍量(3-4L)の下剤を飲まなくてはなりません。そのため、小腸のカプセル内視鏡ほどに簡単にできる検査ではないです。

PillCam® COLON 2 カプセル(提供:コヴィディエン ジャパン株式会社)

大腸カメラの場合は、特に女性でどうしてもおしりからカメラを入れられるのが嫌で大腸癌検診(便潜血)で異常を指摘されても大腸カメラを受けない方がいます。大腸カメラを大腸の奥まですすめることが困難で、苦痛を伴いどうしても大腸全体を見ることができない場合(挿入困難が想定される、と言います)に大腸カプセルの保険適用となります。以前に大腸カメラを受け奥まで入らなかったという場合や、苦痛がかなりあった場合も適用となります。このような場合は大腸カプセル内視鏡がおすすめです。下剤を頑張って飲んでいただく苦痛がありますが、カメラ自体の検査による苦痛はほとんどありません。今後は、いかに下剤による前処置を楽なものにしていくかという点が、大腸カプセル内視鏡の普及のカギになりそうです。

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