インタビュー

医療で求められるコミュニケーションについて

医療で求められるコミュニケーションについて
中山 健夫 先生

京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学分野 教授

中山 健夫 先生

この記事の最終更新は2015年10月25日です。

前の記事(「Shared decision making」とはなにか)で「Shared decision making(シェアード・ディシジョン・メイキング」」-共有意思決定の重要性をご説明しました。「Shared decision making」が必要とされる機会は多くなってきていますが、その前提として患者と医療関係者の関係が良好であることが必要です。ここでは、「Shared decision making」とコミュニケーションの関係性について、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学分野 教授 中山健夫先生にご説明頂きました。

繰り返しになりますが、医療の進歩により「Shared decision making」が必要とされる機会は確実に増えつつあります。
診断ニーズとともに診断技術が進み、それにより昔に比べて向き合わなければならない病気が増えました。一般的には、診断技術と治療技術では、前者の方が先に進歩します。そのため診断と治療には必ずタイムラグ(2つの物事の間に生ずる時間的なずれ)が生じます。「診断はできるが治療ができない」という状態は分からないことが多く、不確実性が大きく、新しい病気であるがゆえに医者の経験も少ないため、医者の考えや経験だけでは適切に解決できません。

その場合には、その問題(病気)を抱えている患者さんの価値観に基づき、ともに病気に向き合い治療方針を考えることが必要になります。「分からない状況」に患者さんと医療者が共に向き合える関係をつくっていくことが、今の医療には不可欠なのです。

治療の進め方には以下のものが挙げられます。

  • パターナリズム:医者が全てを決めます
  • 消費者主権主義:医者には診断のみ行ってもらい、その後の治療の選択などは患者自身が行います
  • shared decision making:パターナリズムと消費者主権主義の中間とされます
    治療の進め方の関係性
     

    パターナリズムと「Shared decision making」の見極めは難しい場合があります。

パターナリズムでは、「この病気に対してはこの治療法が最良なのでこの治療法で良いか」ということを患者さんやご家族に説明して同意を得ます。これがインフォームドコンセントです。パターナリズムは上から目線で、今の時代に合わない古い考え方というわけではなく、医師の専門知識に基づくものですから、捨て去るべきものというわけでは決してありません。

一方、「Shared decision making」は医師の専門知識を以てしても分からない問題に向き合う場合です。つまり専門知識に基づくパターナリズムが機能しない場面ですから、医師が治療方針を決めて、患者さんに同意してもらうというインフォームドコンセントはできなくなります。そこで患者さんと医者との話し合いの中で治療法を決めていく「Shared decision making」が大事になってくるのです。これがパターナリズムやそれに基づくインフォームドコンセントと「Shared decision making」の違いです。

「Shared decision making」のためには、医療従事者には患者さんに合わせたコミュニケーションスキルや常に新しいエビデンスを勉強し続ける向上心が、今まで以上に強く求められていくでしょう。

「Shared decision making」の際、医療従事者と患者さんのコミュニケーションによって共有するものは情報・目標・責任です。

「情報の共有」というと、「医療従事者が難しい医療情報を患者さんに分かりやすく提供すること」と考えている方もいるかもしれませんが、これは半分正しくて、半分不十分です。医療従事者の方が患者さんの情報を知ることも「共有」なのです。コミュニケーションの価値は双方向であることです。医療従事者は多くの場合、患者さんの既往歴・家族歴・病歴などは知っています。しかし、その患者さんが今後どのように生きていきたいかといった、人生においての選択や価値観を聞く機会は少なかったように思います(もちろんここに重きを置いてきた医者も決して少なくはなかったでしょうが)。

どちらにせよ、患者さんの価値観を意思決定に反映できるようにお互いが分かり合うことが医療従事者と患者さんとのコミュニケーションにおいて重要であり、「Shared decision making」のベースなのです。

目標設定においても患者さんの価値観や考えを聞くことが必要になります。病気のゴールをどこにするかは、医者や患者さんで異なります。完治することができない病気に対して、患者さんが治してほしいと言うような場合など、必ずしも目標が達成できない場合もあります。その場合も、実現可能で、お互いが了解しあえるゴールを探すために、「Shared decision making」が必要になります。

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  • 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学分野 教授

    中山 健夫 先生

    東京医科歯科大学医学部卒業後、東京厚生年金病院(現在東京新宿メディカルセンター)や国立がんセンター研究所がん情報研究部 室長などを経て現在は京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 教授を務める。健康情報学を専門とし、公益財団法人日本医療機能評価機構Minds(マインズ)やEBM・診療ガイドラインに関する厚生労働科学研究にも携わっており、日本の医療情報の分野において大きく貢献している。

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