インタビュー

エイジング革命とは。高齢化社会の解決策を考える

エイジング革命とは。高齢化社会の解決策を考える
熊川 寿郎 先生

国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部 主任研究員(再任用)

熊川 寿郎 先生

この記事の最終更新は2015年12月22日です。

「エイジング」、つまり高齢化は世界中で進み、歴史的な第四の波ともいえる影響を私たちに及ぼし始めています。高齢化はもはや日本だけの問題ではなく、世界的な緊急事態です。エイジングが進むなか、特に少子高齢化が加速する日本人である私たちは何ができるのでしょうか。国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部主任研究官の熊川寿郎先生にお伺いしました。

未来学者のアルビン・トフラーによると、世界は農業革命(第一の波)、産業革命(第二の波)、そして情報革命(第三の波)の3つの大きな技術革新を経て大きく発展し、1980年代には脱産業社会に突入しました(“The Third Wave”, 1980)。このことに照らし合わせて考えてみると、現在人類が直面している高齢化への取り組み、つまり「エイジング革命」は第4の波として位置づけることができるほどの大きな変化です。

国連のデータによると、21世紀から22世紀に至る100年間で、世界の老年人口比率は劇的に変化してきています。世界平均で見てみると、世界はすでに高齢化社会(65歳以上が人口の7%以上)に突入しており、2040年頃には高齢社会(65歳以上が人口の14%以上)へ突入し、2090年頃には超高齢社会(65歳以上が人口の21%以上)に到達することが予測されています。なかでも日本は高齢社会のトップランナーとして走り続けています。

ここ100年の急速な高齢化は、人類の歴史上誰も経験したことのない全く新たな問題であり、人類社会にとっての非常事態と認識することができます。このような重要かつ複雑な大問題をすぐに解決する手段を見つけることは非常に難しいことです。非常事態については、非常時の考え方を導入して対応せざるを得ないのではと考えています。

一方で、2090年ごろには世界の老年人口比率の加速度的な急勾配がなくなり、老年人口比率はフラットになると予測されています。そのときには、全人口の約30~35%が常に65歳以上の高齢者となります。ですから私たちは、その時代において社会のあり方が持続可能となるような仕組みや制度設計を今の段階から考えておく必要があります。

いずれにしても、世界中の国が同じ経過をたどるわけで、日本は世界のトップランナーとして走り続けなくてはなりません。人類社会にとっての非常事態である急速な高齢化問題をどのように乗り越えるのか、またその後の健康長寿社会を持続可能なものにするためにどのような手を打つのか、世界中が日本に注目しています。

日本はあらゆる国のなかでも突出して高齢化が進んでおり、高齢社会の先頭を走っているともいえます。また、日本においては2025年問題、つまり団塊の世代が後期高齢者に到達し社会保障費が急増する問題も迫りつつあります。

日本の総人口は2004年の12779万人をピークにそれ以降減り続けています。また、2025年頃には65歳~74歳の前期高齢者の割合は頭打ちになりますが、75歳以上の後期高齢者の割合はまだまだ増加すると予想されます。

今日、高齢化対策として日本においては様々な制度改革が続けられています。これらの取り組みは、人類が経験したことのない急速な高齢化という非常事態に対応するものです。さらにこれからは、その後に到来する老年人口比率がフラットになったあとの持続可能な医療・介護サービスの提供体制についても、同時に考える必要があるでしょう。

このように刻々と変化する日本の人口構造と医療現場を考えたときに、診療所と病院のあり方を改めて見つめなおす必要があります。新しい一つの見方が地域医療ビジョンと地域包括ケアシステムにつながります。

地域医療ビジョンは医療機関の機能分化と連係の強化を推し進めます。地域包括ケアシステムは高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができることを目指しています。

  • 国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部 主任研究員(再任用)

    日本血液学会 血液専門医日本老年医学会 老年科専門医日本内科学会 認定内科医日本医師会 認定産業医

    熊川 寿郎 先生

    昭和大学医学部を卒業後、東京都老人医療センター血液科・免疫輸血科にて臨床に携わったのち、2003年に筑波大学大学院にてMBAを取得。その後、2004年に国立保健科学院経営科学部に就任し、2011年より同院医療・福祉サービス研究部部長、2015年より主任研究官。血液専門医として豊富な経験と知識を持つ傍ら、病院が組織として高齢化する未来に貢献していくためにはどうすればいいのかを研究し、医学と経営学の双方の観点から医療を見つめる、数少ない研究者のひとり。