インタビュー

統合失調症の診断(2)-除外診断とは

統合失調症の診断(2)-除外診断とは
針間 博彦 先生

東京都立松沢病院 精神科 部長

針間 博彦 先生

この記事の最終更新は2016年03月11日です。

統合失調症が疑われるケースの中には、精神症状をともなう他の病気や、何か別の要因が隠れている場合があります。これらをしっかりと見きわめるためにはどのような検査をしていくのでしょうか。精神科救急病棟と早期支援青年期外来を担当され、多数の患者さんと向き合っておられる東京都立松沢病院精神科部長の針間博彦先生にお話をうかがいました。

幻覚や妄想など統合失調症に類似した症状は身体疾患、脳器質疾患、アルコールや薬物の影響でも生じるので、これらを除外する「除外診断」が必要になります。これは統合失調症を診断する際には必ず行わなければなりません。そのため身体的な既往歴や身体的な所見を確認するほか、松沢病院では初診時に血液検査、入院時に頭部のCT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影)を必ず行い、必要に応じて脳波検査など他の身体検査も行っています。精神症状だけから身体的な除外診断を行うことはできませんので、身体的な検査を必要に応じて行うことによって、除外できる身体疾患や脳疾患は除外していくという作業が必要です。

身体疾患や脳疾患以外に考えなければならないのは、薬物・アルコールの影響です。これについては、患者さんが初対面の医師に最初から正確な使用状況を話してくれることは少なく、特に違法薬物の使用は否認することが多いという問題があります。また、尿検査で検出される薬物は覚せい剤、大麻など種類が限られますし、最近蔓延したいわゆる危険ドラッグは、脱法ドラッグと呼ばれていたほどですから、通常の検査では検出されません。

したがって、尿検査で検出されず、本人に訊いても「使っていません」と否定している場合、それでもその人の生活状況から考えて「もしかしたら薬物を使っているかもしれない」という疑いが拭い切れないようなときには、その疑いは残しておく必要があります。たとえば、覚せい剤は使用後48時間以内しか尿中に検出されませんので、実際は覚せい剤の常用者であっても、本人が覚せい剤使用を否認し、尿検査でも検出されない場合、統合失調症と誤診される場合があります。

他にはアルコールの影響もあります。違法な薬物とは異なり、アルコールは多くの方が飲むわけですから、どれくらいの量を飲んでいればアルコールによる精神病と判断するかという問題があります。したがってアルコールの影響を除外することはそれほど容易ではありません。薬物やアルコールが原因である精神病は、その使用を中止することが治療上もっとも重要ですから、統合失調症と診断する前に、その可能性を十分に考慮する必要があります。

若い方でお酒はほとんど飲まず、ドラッグの使用が疑われる生活状況でもない場合、身体的要因が除外されれば統合失調症を疑うところにたどり着くことができます。その際にしばしば問題となるのが、発達障害(最近は自閉スペクトラム症とも呼ばれます)との鑑別です。発達障害と統合失調症は、対人的な閉じこもりや独特のこだわりなど、一見似通った症状を示すことがあるからです。この場合、発達障害は知能や性格と同じようにその人の持つ特性であって、医学的意味での疾患ではない、という原則に立ち返る必要があります。

その人の特性とは、もともとの素質が環境の中で発展していくものであり、そこにはその人らしさの一貫性が保たれています。一方、統合失調症ではその人のもともとの特性から断絶した症状が現れ、その人らしさの一貫性が中断されています。だからこそ統合失調症は病気であって治療の対象となるのであり、その目標はいったん失われたその人らしさを回復することであるともいえます。統合失調症では、そうしたその人らしさを中断する症状が、幻聴であったり被害妄想であったりするわけです。発達障害では幻聴や被害妄想があるようにみえても、それはその人独特の考え方から出てきた、その人であればあり得ると思えるものであって、統合失調症とは似て非なるものです。

(※参考記事 本田秀夫先生「自閉症スペクトラムとは―特徴と症状、どんな人が当てはまるのか?」

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