インタビュー

低体温療法に伴う脳波検査の活用

低体温療法に伴う脳波検査の活用
海野 光昭 先生

聖マリア病院

海野 光昭 先生

この記事の最終更新は2016年01月04日です。

さまざまな治療を行ううえで、適応を見極めるということは非常に重要です。低体温療法を行うにあたっても例外ではありません。新生児など自ら症状を訴えられない場合は特に、何らかの方法で評価を行わなければなりません。低体温療法の適応の可否を客観的に評価するデバイスとして、また脳の成熟度の評価として「脳波」を活用している飯塚病院小児科の海野光昭先生に、これらの現状についてお話しを伺いました。

低体温療法を行ううえで重要なことは、赤ちゃんがいつ、どの時点で強いストレスを受けたのか、ということを客観的にとらえることです。

例えば、分娩の直前に胎盤早期剥離(胎盤が子宮の壁からはがれること)の所見(医学的な知見に基づいた判断)があるといった情報があればわかるのですが、そのあたりがはっきりしない場合も少なくありません。「生まれても泣かない」「何だか赤ちゃんの様子が変」「元気もないし顔色も悪い」などがほとんどです。「この子にはいつ強いストレスが起こったのか」という部分がなかなかわかりにくいことが多々あります。

こういったときに、脳の神経の客観的な評価を与えてくれるデバイスとして、脳波が非常に有効なのです。ただし、脳神経の機能をリアルタイムに評価することができる一方で、ノイズが入ったり、脳波の波形を読む判読者によって所見が異なったりするという難点があります。

今のところ、脳波を判読するための認定制度などはありませんので、どうしても施術者の主観が入ってしまい、医師によって結果が異なってくるという側面があるのです。そのあたりをどのように改良していくのかは今後の課題ですが、周産期施設での脳波の実態についてはアンケート調査などを実施して現状を把握したいと考えています。

またもう一つ、脳波の利点としては、脳の成熟度の評価ができるということがあります。例えば、27週~28週あたりの非常に早い週数で生まれた赤ちゃんがNICU(新生児集中治療室)で大きくなって、正期産(37週~41週)程度の体重になったとします。この際、体重は確かに正期産の赤ちゃんと変わらなくなったとしても、その子の脳の神経学的な成熟度はどの程度なのかということを評価しなければなりません。

40週までお母さんのお腹のなかで育ち、正期産で生まれた赤ちゃんの脳の神経と、早産などで早く生まれて母胎の外で28週から40週まで経過した赤ちゃんの脳の神経の成熟度とが、はたして同じなのか? この部分を評価するのに有効なデバイスが脳波なのです。

低体温療法は、最終的に赤ちゃんの頭、神経を守るというのが一番大きな目的です。そのために、飯塚病院では退院後も定期的に赤ちゃんの経過を診ていきます。低体温療法の治療を行った後も赤ちゃんの人生はその先70年、80年と続きます。そういう意味において、脳波はその後の赤ちゃんの発達を客観的に評価する、非常に大事なデバイスになるのではないかと考えています。

飯塚病院の新生児集中治療室では、早産や低体重児といった何らかのリスクがある可能性のある赤ちゃんには、基本的に退院の前に必ずルーチン(決まりきった検査)として脳波を撮るようにしています。 

また、もう一つのデバイスとして我々のところではポリグラフ(呼吸や脈拍、血圧などを同時に測定・記録する装置)の活用を行っています。私はNICUに勤務していますので、未熟児をモニターしているのですが、なかにはバイタル(熱・血圧・脈・呼吸など生命維持にとって必要な機能)の不規則な赤ちゃんも少なくありません。

無呼吸発作や睡眠時無呼吸症候群というと大人の病気だと思われるかもしれませんが、早産などで生まれた未熟児にはよくみられる症状です。予定よりも早く生まれた赤ちゃんは、脳の呼吸中枢が未熟だったりするため、睡眠中に呼吸が止まって、無呼吸状態になることがあるのです。もともとの出産予定日に近づくにつれて呼吸機能も改善されるのですが、改善しない子の場合は呼吸が止まってしまいます。

このような赤ちゃんの中には、生産期に達しても呼吸機能が未熟な子もいます。乳幼児突然死症候群が隠れている可能性もあります。乳幼児突然死症候群には、呼吸中枢が非常に未熟なため呼吸を止めてしまい、その結果として窒息死するのではないかという仮説があります。そういった赤ちゃんの病態を評価するデバイスとしてポリグラフが有効ではないかと考えています。

国内では、新生児に対するポリグラフを行っている施設がまだ少ないので、まだ研究段階ですが、今後はデータを集積していき、これらの疾患の早期発見や病態の解明に役立てられればと考えています。