インタビュー

摂食障害の治療と課題 一人ひとりに合わせた治療を考えるためには

摂食障害の治療と課題 一人ひとりに合わせた治療を考えるためには
石川 俊男 先生

いしかわストレスケアクリニック

石川 俊男 先生

目次
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摂食障害は精神疾患の中でも死亡率が平均7~10%と高く、放っておくと危険な病気の1つです。しかし、摂食障害の治療は非常に難しく時間がかかるため、医師と患者が双方で理解しあってじっくりと治療を進めていく体制を作り上げることからスタートします。摂食障害の治療について、長年臨床の場で多くの摂食障害の患者さんを見守ってこられたいしかわストレスケアクリニック(元・国立国際医療研究センター 国府台病院心療内科特任診療部長)の石川(いしかわ) 俊男(としお)先生にお話しいただきました。

※2021年2月現在、国立国際医療研究センター 国府台病院を定年退職したのち、いしかわストレスケアクリニックにて診療をしております。入院施設ではありませんので、低体重(35kg以下)の患者さんの診療はお断りしています。

摂食障害の治療について述べるにあたり、まず精神科と心療内科の違いを説明しましょう。

簡潔に述べると、精神科は精神科医で、心療内科は内科などの一般科の医師も多くいます。

もう少し具体的に述べれば、心療内科は体の病気のなかで、その病気の発症にストレスなど心理的要因が関係していて、ストレスを治療で解決しないと体の治療ができない病態(心身症)を対象としています。

たとえば喘息(ぜんそく)の患者さんがストレスで容態が悪化したというとき、その患者さんが精神病とはいえません。喘息悪化の要因は精神病ではなく、ストレスという心理的負担が原因で体の調子が悪化しているということになります。

そういった患者さんの心理的な要因に対するアプローチをするとともに、体の病気を治すのが心療内科の役割です。

摂食障害は行動異常を治すことが目的であり、前述したように一人ひとりの患者さんがさまざまな背景を抱えています。精神科だけの病気でもなければ、内科だけの病気でもありません。

精神科的側面では認知行動療法や心理教育、対人関係療法、家族療法など、多種多様なアプローチを行っています。しかし、私たちが究極的に目指しているのは患者さんの自立です。つまり、患者さんが食べる・食べない・吐くといった症状を使わなくてもしっかりと自分らしい生活ができるということになります。そこが当面目指している治療のゴールであり、そこに向けて数々のツールを用いてアプローチしています。

治療というと症状がまったくなくなることを目指すように思いがちですが、症状をゼロにするという発想は私の中にはありません。ゼロにするのではなく、「普通に生活していて、気が付いたらそのような症状がなくても生活できていた」という状態を目指すという発想のもと、治療を行います。

『摂食障害に対する誤解――摂食障害を理解するために』でも述べましたが、摂食障害は患者さんにとって“治ることが怖い病気”です。病気が治ることは怖くないという体験を患者さん自身が実感しなければ治っていきません。実体験があって初めて治療がスタートできるのであり、食べないのはよくないこと、食べ過ぎるのもよくないこと、という知識レベルで変わることは不可能に近いといえます。情動的に「怖くないのだ」と分かっていただかなければなりません。それゆえに、患者さん一人ひとりの体験に基づいてしか治せない病気なのです。だからこそ過去のヒストリーを治療者が十分に理解することが必要になります。

このような病気であるがゆえ、摂食障害の治療には10年も20年もかかることが珍しくありません。ご高齢の方、70歳過ぎになっても一向に治らないということも珍しいことではありません。

摂食障害の治療に時間がかかりすぎている現状は、なんとか打開しなくてはならないとも感じています。慢性化することなく半年や1年で治っていく病気にしなければ、患者さん・治療者双方の負担が大きすぎてしまいます。

まだ発見されていませんが、バイオロジカルなメカニズムはあるはずだと考えられています。つまり、体重が減りすぎることが心理面のみによるものだとは考えにくく、どうしてもそうならざるを得ないシステムが体内のどこかにあるはずです。そして、それを解除するシステムもあるのではないかと考えています。基礎研究が遅れているため時間はかかりますが、これから治療ペースを早め、摂食障害の患者さんがスムーズに治っていく体制を作っていきたいと考えています。

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