インタビュー

顔面神経麻痺の診断と治療-重症度を評価して対応することの重要性

顔面神経麻痺の診断と治療-重症度を評価して対応することの重要性
村上 信五 先生

名古屋市立大学医学部付属 東部医療センター 特任教授・高次ウイルス感染症センター長

村上 信五 先生

この記事の最終更新は2016年02月27日です。

顔面神経麻痺を発症したとき、医療機関を受診して治療を開始するまでの日数によって、その後の回復の経緯が大きく変わってくるといいます。顔面神経麻痺の第一人者である、名古屋市立大学病院耳鼻いんこう科診療科部長の村上信五教授にお話をうかがいました。

ベル麻痺とハント症候の治療はステロイドと抗ウイルス薬による薬物治療が中心です。早く開始するほど予後がよい(回復が早い)ということがわかっています。軽症例は多少治療が遅れても治りが遅くなるだけですが、重症例は発症から3日〜5日、特に最初の3日が勝負だと言ってもいいでしょう。そこでしっかりと治療ができれば麻痺は回復しますが、その時期を逃してしまうと、重症例では顔面神経減荷術(がんめんしんけいげんかじゅつ)という手術が必要になります。(参考記事「顔面神経麻痺の原因-発症原因の多くはウイルス感染である」

重症化する頻度というのは、ベル麻痺で約30%、ハント症候群では半分程度です。ですから、早期に適切な治療が必要になります。もともとハント症候群は帯状疱疹ウイルスによるものなので、神経障害性が強い傾向があります。

これに対してベル麻痺の原因でもっとも多いのは単純ヘルペスなのですが、単純ヘルペスウイルスは帯状疱疹ウイルスより神経障害性が弱い傾向があります。ベル麻痺の原因には単純ヘルペスウイルスI型以外のものが含まれていますが、全体としてみると予後はよいといえます。たとえばベル麻痺の自然治癒率は約70%、ハント症候群であれば30%です。一定数の方は自然治癒で時間さえかければ放っておいても治るということになります。したがって、すべての患者さんに本当に治療が必要かといえば、そうではありません。しかしながら、放っておいても治るといっても、治療をしなければ回復が遅くなるのです。そういった面では、やはり麻痺のある患者さんには何らかの治療はしたほうがよいと考えます。

治療に用いるステロイドや抗ウイルス薬は、多少なりとも副作用がありますし、費用もかかります。すべての患者さんにまったく同じ治療をするのではなく、麻痺の重症度に応じて薬の量を変えるのが基本的な治療です。

麻痺の重症度を診るのは、第一にプロフェッショナルである医師の眼です。加えて電気診断を行えば、ほぼ重症度と麻痺の予後診断ができます。電気診断は誘発筋電図という検査ですが、麻痺が起こって一週間ほど経って顔面神経を電気刺激して、表情筋の筋電図を測定します。麻痺しているといっても、目が半分ぐらい閉じる、左右差があっても頬が少し動くなど、多少なりとも動く状態であればたいていの場合治ります。ところが、明らかに額にまったく皺ができない、目が閉じない、あるいは小鼻と頬を隔てる鼻唇溝(びしんこう・ほうれい線ともいう)がまったく動かないという方は、先に述べた電気診断が必要になります。

ただし、瞼を下げる筋肉だけは支配している神経が違うので、そこに惑わされるとわかりにくくなることがあります。お年寄りで初めからまぶたが下がっている人は特にわかりにくい場合があります。私たちがみて麻痺側の顔がほとんど動かない重症の人でも、その半数程度は麻痺が治ってくるということが経験上わかっています。ある程度経験を積んだ医師であれば、電気診断をしなくても顔の動きを診るだけで、麻痺が治ることがわかりますし、重症例については治るかどうかはその時点ではわかりませんが、前述したように、顔がまったく動かない人のうち半分は治り、半分は治らないので、そのどちらになるのかという「神経の障害度」を調べるのが電気診断ということになります。

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