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インタビュー

肺がんに対する手術と定位放射線治療の成績の比較

肺がんに対する手術と定位放射線治療の成績の比較
早渕 尚文 先生

高邦会高木病院 放射線治療センタ-長

早渕 尚文 先生

この記事の最終更新は2016年01月21日です。

かつては末期のがんに対し使用されていた「放射線治療」ですが、1990年代頃からの技術の画期的な進歩により、現在はがんの根治を目指すための治療法として、多くのがん患者さんに用いられています。本記事では、手術可能な早期肺がんに対する手術と定位放射線治療の比較試験の結果を、高邦会高木病院放射線治療センター長の早渕尚文先生にお話しいただきました。

定位放射線治療とは、高精度で位置決めを行い、放射線をがんの形状に可能な限り合致させて3次元的に集中照射する治療法です。そのため、周囲の正常組織への被ばくはゼロではありませんが最小限にとどめられます。定位放射線治療の適応疾患は原発性肺がんや転移性肺腫瘍、肝腫瘍などです。実際に肺がんに対し定位放射線治療を行い、照射3か月後に腫瘍が消失した例をお見せします。

久留米大学で定位放射線治療を行った症例

実際に日本各地で行われた肺がんの定位放射線治療の成績を手術成績と比較した結果は、変わらないか、それ以上というものでした。しかし、これは信ぴょう性がやや低い「後ろ向き試験」(レトロスペクティブ・スタディ)の結果です。次項では、手術可能な早期肺がんに対し実施した、より信頼度の高い「前向き試験」(プロスペクティブ・スタディ)の概要と結果をご紹介します。

※後ろ向き試験と前向き試験の違い

  • 後ろ向き試験(レトロスペクティブ・スタディ):現在すでに起きている事象を過去へと遡ることで分析し、因果関係などを調査する方法。研究者による先入観などのバイアスが入りやすいとされている。
  • 前向き試験(プロスペクティブ・スタディ):現在を起点とし、これから生じる(まだ起きていない)事象を追跡調査する方法。時間はかかるものの信ぴょう性は後ろ向き試験より高い。

手術可能な早期肺がん(組織型は不問)に対し、肺門部リンパ節郭清を含む手術と定位放射線治療を比較した海外で行われた前向き試験、2つの結果をまとめて解析したものです(Chang JY, et al  Lancet Oncol 2015)。

放射線治療は腫瘍のみに対し限局して照射

  • 肺野型 54Gy/3fr(1回18グレイで3回照射)
  • 肺門型 50Gy/4fr(1回12.5グレイで4回照射)または 60Gy/5fr(1回12グレイで5回照射)

手術は腫瘍切除だけでなく、リンパ節転移が多い肺門部リンパ節も郭清(※切除すること)

結果が出る前には、放射線治療では肺門部リンパ節郭清(がんの微少転移の可能性のあるリンパ節を切除する外科的治療法)は行わないので、切除していないリンパ節からの再発リスクが高く、放射線治療の方が成績は悪いだろうと予測する医師も多く見受けられました。

ところが、実際には治療成績に有意差(偶然とは考えられない確かな差)があり、放射線の方がよいという意外な結果が出ました。このような差が生じた原因は、手術の方が侵襲性が高く、下記のような合併症が生じたからであると考えられます。

定位放射線治療群

グレード3が3例(10%)、咳、胸痛、肋骨骨折

死亡例やグレード4以上はなし。

外科治療群(手術)

術死1例(グレード5)。

グレード3、4の合併症が12例(44%)。

呼吸困難、感染、胸痛、出血、瘻孔形成、貧血、体重減少など。

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