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インタビュー

悪性リンパ腫に対する放射線治療の効果は?

悪性リンパ腫に対する放射線治療の効果は?
早渕 尚文 先生

高邦会高木病院 放射線治療センタ-長

早渕 尚文 先生

この記事の最終更新は2016年01月24日です。

血液やリンパ節、あるいは様々な臓器に存在するリンパ球ががん化し、リンパ節や臓器に腫れやしこりが生じ、進行すると全身に広がる「悪性リンパ腫」は、血液の悪性3大腫瘍のひとつに数えられます。悪性リンパ腫の治療は抗がん剤と放射線治療が基本とされていますが、それでも悪性リンパ腫が発生した臓器によっては手術を選択する施設や医師は多いと、高邦会高木病院放射線治療センター長の早渕尚文先生はおっしゃいます。本記事では、悪性リンパ腫に対する抗がん剤+放射線治療と手術の比較試験の結果、加えて治療成績が向上した現在においても放射線治療が積極的に行われない理由についてお伺いしました。

悪性リンパ腫は俗に「血液のがん」とも呼ばれています。血液中のがん化したリンパ球は全身を巡るため、腫れやしこりは体中のいたるところに生じます。この悪性リンパ腫には抗がん剤と放射線治療が有効であり、基本となる治療法とされています。例えば目の周辺のリンパ組織から発生した腫瘍が巨大な腫瘤を生じて片目を開くこともできなくなってしまった患者さんが、放射線治療と抗がん剤治療を受けた後には、両目ともにしっかりと開き、完全に治癒されていました。

しかし、これだけ効果があるにもかかわらず、胃の悪性リンパ腫(胃初発非ホジキンリンパ腫)に対しては、どこの病院でも外科で胃の全摘出手術をされていました。悪性リンパ腫は浸潤性がとても高く、部分切除では残った胃から再発してしまうため、胃を全て摘出しなければばなりません。すると、とりこんだ食べ物が腸へと直接落ちて下痢などの症状を引き起こす「ダンピング症候群」など、様々な問題が発生してしまいます。また、これだけの合併症に耐えても治療成績はよくはありませんでした。あらゆる文献を調べましたが、胃悪性リンパ腫で全摘手術を受けた方の5年生存率は60%から70%が多かったのです。

私達は全国の病院の先生方と協力して研究グループを結成し、胃の悪性リンパ腫を手術しないで抗がん剤と放射線治療を行う前向き試験を行いました。その結果は、5年生存率95%、10年生存率90%という驚くようなよい成績でした。手術をしないでも、抗がん剤と放射線治療がこれだけよく効くことが分かれば、あえて治療成績も悪くQOLが低下してしまう胃の全摘出手術を選択することはないのではないでしょうか。

ここまでお話ししてきたように、悪性リンパ腫だけでなく、肺がん食道がん、そして前立腺がんにおいても、早期の腫瘍に対する放射線治療の成績は手術成績に匹敵します。さらに合併症が少ないというメリットもあり、QOLの維持にも有効であることがわかっています。

では、なぜもっと積極的に放射線治療が行われていないのでしょうか。

その背景には、外科系専門医の方が最近の急速に進歩した放射線治療に関する認識不足があると私は考えます。また、今回お話しした様々ながんに関する学会の構成員はほとんど外科医であり、このような環境下では「放射線治療を先に行おう」という声は上がりにくいとも思われます。

加えて、放射線治療を専門とする医師(「放射線腫瘍医」といいます)は全国で1000名程度しかおらず非常に少ないということも、私たちが抱える大きな問題であるといえます。放射線治療の患者さんは大幅に増えたのに、専門医はそれほど増えていないのです。専門医が不足しているため、私自身も毎週高木病院と福岡山王病院という2つの病院で診療を行っています。放射線腫瘍医だけでなく、放射線治療専門技師、放射線治療品質管理士、さらに放射線治療に詳しい看護師も必要です。このような放射線治療を専門とするチームが作られなければ、放射線治療のさらなる普及や前進は目指せません。技術の向上により放射線治療は進歩しましたが、人員の養成はまだまだ進んでおらず今後の課題であるといえます。

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