インタビュー

放射線治療による緩和治療の効果と放射線治療の副作用

放射線治療による緩和治療の効果と放射線治療の副作用
早渕 尚文 先生

高邦会高木病院 放射線治療センタ-長

早渕 尚文 先生

この記事の最終更新は2016年01月25日です。

放射線治療はがんを治す「根治的治療」だけでなく、痛みや麻痺、悪臭といった症状を制御するための「緩和治療」においても有効です。終末期医療というネガティブなイメージの強い緩和治療ですが、患者さんの肉体および精神的苦痛を和らげ、QOL(生活の質)を維持するために不可欠な治療です。放射線治療が有効な緩和治療にはどのようなものがあるのでしょうか。高邦会高木病院放射線治療センター長の早渕尚文先生にお話しいただきました。

緩和治療というと疼痛の緩和などが一般的に知られていますが、放射線療法が有効な緩和治療は下記のように多岐にわたります。

  • 骨転移による痛みや神経の麻痺の緩和
  • 脳転移による麻痺や諸症状の緩和
  • 腫瘍による出血や悪臭の除去
  • 腫瘍による痛みや腫れのコントロール
  • その他の症状緩和

がんが進行してリンパ節転移が巨大になると、麻薬を使わねばならないほどの疼痛に悩まされる場合があります。また、がんが肋骨に噛みつくような形で進行してしまったり、本来体重を支えるべき脊椎(背骨)に転移してしまったりすると、立ったり座ったりする時に痛みが生じるだけでなく、寝返りを打つだけでも酷い痛みに襲われるようになります。放射線治療による緩和治療では、このような疼痛を緩和・消失させることが可能です。

次に、進行乳がんに対する緩和治療の具体的な症例についてお話します。手術ができないほどに進んでしまった乳がんの方がいらっしゃいました。一番の問題は、入院されている部屋全体に広がってしまうほどの悪臭でした。また、このケースでは出血もあったため、患者さんご自身も大変な苦痛を感じられていたかと思います。そこで放射線治療を行ったところ、このような悪臭や出血を除去することができ、患者さんも大変満足して退院されることができました。

次に、大腸がんが脳に転移してしまい麻痺症状が現れたため放射線治療を行ったケースについてお話しします。進行がんに対する「緩和治療」として治療を行いましたが、驚いたことにその患者さんは合併症を起こすこともなく、5年後も元気に生活されていらっしゃいました。40代のお若い患者さんでしたので、私としても喜ばしく感じました。

放射線治療による緩和治療の効果は、上記の様々な例からもわかるようにとても大きいものです。しかし、これと同時に「緩和治療を行うのは、多くの場合は予後が短いと診断される患者さんである」ということもご理解いただきたいと思います。というのも、放射線治療による緩和治療を受けられたあとに患者さんが亡くなってしまうことも少なくはなく、しばしばご家族の方に「放射線治療をしたことにより亡くなってしまった」と誤解されてしまうことがあるからです。このような誤解をなくすことも、私たち放射線治療専門医の課題のひとつでしょう。

放射線治療の副作用についても誤解を受けることがあります。2002年に行った一般市民の方70名を対象にしたアンケートでは、次のような回答が得られました。

<質問>

お腹に治療目的で放射線を照射したとき、どのようなことが起こると思いますか?

<回答(抜粋)>

  • 頭髪が抜ける/気持ちが悪くなる/下痢をする/体が熱くなる/鼻血がでる

一般の方は上記のようなイメージを持っていらっしゃることがわかりましたが、お腹に放射線をあてて頭髪が抜けることはありません。放射線治療とともに抗がん剤治療を受けている患者さんも多く、これが「お腹への照射で脱毛が起こった」と誤解されてしまうひとつの原因かと思われます。とはいえ、放射線治療の副作用はゼロではありません。次の項目では、実際に生じ得る副作用についてお話します。

<全身>

  1. 血液:白血球、特にリンパ球の減少
  2. 放射線宿酔(食欲低下や嘔気など…最初の4~5日)

<照射局所>

  1. 粘膜炎
  2. 皮膚炎
  3. 脱毛
  4. その他(味覚障害、唾液腺障害、等)

※血液を除いて、放射線があたったところの障害。

ただし、私自身は放射線治療で放射線宿酔を起こしている患者さんを見たことがありません。放射線宿酔は最初の4~5日で治まるとされていること、つまり慣れれば治まることから、私は放射線治療をはじめて受けるときの「緊張」と「ストレス」、さらには「先入観」が原因で引き起こされているのではないかと考えています。また、皮膚炎が起こってしまう場合があるのは事実ですが、適切な治療を行えば4週間以内にきれいに治すことができます。

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