インタビュー

放射線治療を専門とする医療チームの必要性

放射線治療を専門とする医療チームの必要性
早渕 尚文 先生

高邦会高木病院 放射線治療センタ-長

早渕 尚文 先生

この記事の最終更新は2016年01月26日です。

放射線治療が画期的な進歩を遂げた今、がんに対する放射線治療の普及とさらなる前進のために不可欠なのは専門的な医療スタッフの養成であると、高邦会高木病院放射線治療センター長の早渕先生はおっしゃいます。本記事では、専門医だけでなく放射線治療専従の看護師や専門技師など、スペシャリスト達による「チーム」で患者さんの治療にあたることの重要性とメリットについてお話しいただきました。

放射線治療普及のために、まずは全国に1000名程度しかいない放射線腫瘍医を増やす必要があります。それとともに、放射線治療品質管理士や放射線治療専従の看護師、そして交代制ではない放射線治療専門の技師も増やす必要があります。

10年以上前にある大学病院で放射線治療による死亡事故があり、私はその事故原因の調査団の団長を務めたことがあります。事故を起こしてしまった病院には放射線治療に精通した技師はおらず、たくさんの技師が毎日交代制で医師の指示どおりに放射線照射装置のスイッチを押すという方法をとっていました。ところが、医師が患者さんの状態に応じてコンピュータに入力した放射線量の指示が技師たちにうまく伝わらず、必要以上の放射線を照射し続けてしまったのです。放射線治療専門の技師がいたならば「この指示はおかしい」とすぐに気づけるものであったため、この事故は未然に防げた可能性があります。このような経験から、放射線治療専門技師の存在は、リスクの回避のために大変重要であると考えています。

また、放射線治療専従の看護師も養成せねばなりません。放射線治療科を設けている施設でも、看護師の方は外来での様々な業務を任されていますから、放射線治療だけにかかりきりになることはできません。

しかし、患者さんを診る機会が最も多いのは看護師です。たとえば私の場合は二つの病院で診療を行っているため、一方の病院には週に1度しか赴くことができません。大学病院のように1日100人近くの患者さんが来られる施設でも、医師は曜日制で診察にあたっているため、患者さんと最も接する時間が長いのは看護師なのではないかと思われます。ですから、医師に代わって放射線治療患者の悩みを聞いたり、副作用の程度を観察したりできる看護師が、チームの一員として治療に携わることこそ理想であると考えます。

また、ほとんどの患者さんは「放射線治療は怖い」という先入観を抱いているので、その不安を解消するためには、日々顔を合わせる医療スタッフによる「スキンシップ」や「やさしさ」といったものが重要になってくるとも感じています。

私が勤務する高木病院の放射線治療センターには、医師2名のほか、受付・看護師・専門の技師・専門の品質管理士が揃っています。年間200名以下の放射線治療例の他施設と比較すると人員は充実しているといえますが、医師だけで治療の全てを行おうとするのは危険なことですから、この程度の人員は最低限必要であると考えています。

日本では人口の高齢化がすすんでいます。侵襲性の高い外科手術にかわり、放射線治療がより適切なものとして選択されるケースはこれからも増えていくでしょう。しかし、すべての病院に放射線治療装置の設置が可能であるとは思えません。

そこで、放射線治療施設がある病院では、専門スタッフの確保のほか、近隣病院から放射線治療を必要とする患者さんを受け入れるためのネットワークの整備が必要です。同時に、泌尿器科医や食道外科医など外科系の先生方にも放射線治療の効果と進歩を知っていただき、「放射線治療は副作用が酷い」といった誤解を解いていかねばなりません。放射線治療装置を新たに設置した病院では、これまで放射線治療なしでやってきたのですから、まず放射線治療の有用性をアピールする必要があるため、院内スタッフに対する啓蒙活動も必要です。

最後になりますが、放射線治療の普及のために最も重要なのは、実際に治療を受けて回復された患者さんによる、経験に基づいた「口コミ」であると感じています。「放射線治療を受けてよかった」という声こそが、治療法選択に悩みや不安を感じている患者さんの背中を押すものになると考えています。

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