インタビュー

前置胎盤による大量出血の止血法②「動脈結紮術」を図解

前置胎盤による大量出血の止血法②「動脈結紮術」を図解
牧野 真太郎 先生

順天堂大学大学院医学研究科 産婦人科学教授、順天堂大学医学部附属浦安病院 産婦人科科長

牧野 真太郎 先生

この記事の最終更新は2016年01月30日です。

子宮の下部に胎盤が形成される「前置胎盤」では、胎盤の剥離面からの大量出血が最大のリスクとなります。記事2「前置胎盤の止血法にはどのようなものがある?「圧迫縫合法」を図解」では、子宮下部の子宮壁を糸できつく締め付けることで圧迫止血する「圧迫縫合法」を紹介しました。しかし、前置胎盤の場合、この方法でも出血をコントロールできないことは往々にしてあります。本記事では、動脈の血流を遮断することで出血を止め、子宮摘出を回避する「動脈結紮術(どうみゃくけっさつじゅつ)」について、順天堂大学医学部婦人科講座准教授の牧野真太郎先生にご解説いただきました。

圧迫縫合法でも止血が難しい場合には、子宮への血流を減らすために「動脈結紮術(どうみゃくけっさつじゅつ)」を行います。多くの分娩後の出血(弛緩出血:しかんしゅっけつ)では、子宮へと血液を送る動脈である内腸骨動脈(ないちょうこつどうみゃく)や子宮動脈の結紮を行います。しかし、子宮の低い位置に胎盤が形成される前置胎盤の場合は、本来下肢へと血液を供給する「外腸骨動脈(がいちょうこつどうみゃく)」の血流も増加するため、通常の動脈結紮術では止血できないケースが多々あります。

そのため、順天堂大学では側副血行路(そくふくけっこうろ:血行を遮断したときに形成される血管の迂回路)も含めた血流を遮断するために、子宮に近い部分で動脈を段階的に結紮していく止血法を用いています。この止血法は“stepwise uterine devascularization(順天堂方式)”と呼ばれています。

①まず、帝王切開術にて赤ちゃんをとり出し子宮下節横切開部よりも約2㎝ほど下方で、子宮筋層ごと子宮動脈上行枝を結紮します。

②次に、卵巣機能を温存する(守る)目的で、卵巣固有靭帯で結紮を行います。このとき、下方に並走する尿管を損傷しないよう注意する必要があります。

(※1994年にAbdRabbo SAにより報告されたstepwise uterine devascularizationでは、卵巣動脈静脈を結紮します。順天堂方式とは、この点と次に述べる子宮動脈本幹の結紮などが異なります。)

③再び尿管を確認し、子宮動脈本幹を結紮します。側副血行路を考慮して、できるかぎり子宮側(尿管交差部よりも子宮側)で結紮します。

閉腹時には、止血できているかどうかを十分に確認し、状況に応じて次回帝王切開などに備えた処置も行います。これらの止血技術の導入により、順天堂大学では、前置胎盤での出血による子宮摘出をほぼ回避することが可能になりました。

しかし、“stepwise uterine devascularization(順天堂方式)”を使用しても外腸骨動脈系の血流の一部は完全に遮断することが難しく、止血できないケースも存在します。

また、閉腹後に再出血してしまい、バルーンタンポナーデやTAE(動脈塞栓術)で止血を試みることもあります。それでも出血をコントロールできない場合は、母体の命を守るために子宮全摘出を行います。

ここまでにご紹介してきたように、子宮を温存したまま止血する方法はいくつもあります。しかし、大量出血は短時間のうちに起こるため、これらのステップは約5~10分のうちに迅速に行われなければ、患者さんの命は危機にさらされてしまいます。また、母体死亡という最悪の事態を防ぐために、各症例に合わせて「何をどこまで行うのか」を即時に見極め、治療法を素早く判断することも重視しています。

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