インタビュー

子どもに対する在宅ホスピス緩和ケアとは

子どもに対する在宅ホスピス緩和ケアとは
鍋谷 まこと 先生

淀川キリスト教病院 副院長、日本小児心身症学会 代議員、大阪地域発達支援ネットワーク研究会 代...

鍋谷 まこと 先生

この記事の最終更新は2016年02月06日です。

「ホスピス」には、がんなどで終末期を迎えた患者さんをケアする施設というイメージが定着しているようです。一方、そこに「子ども」という言葉が加わると、どうでしょうか。言葉から受ける悲しい印象の度合いを深める方も少なくないかもしれません。しかし、それは正しい認識でしょうか?大阪・淀川キリスト教病院の「ホスピス・こどもホスピス病院」院長の鍋谷まこと先生に、お話をうかがいました。

ホスピスは1967年、英国ロンドン郊外で、シシリー・ソンダース博士(医師)が開設した「聖クリストファー・ホスピス」に始まります。チームを組んで、主にがんの末期患者の心身全体の苦痛をケアしていこうという施設です。もともと中世ヨーロッパの教会で病人や巡礼者を泊めたことがホスピスの起源で、日本では1981年に静岡・浜松の「聖隷ホスピス」、1984年に「淀川キリスト病院(YCH)ホスピス」が開設されました。

YCHのホスピスは、施設としては日本で2番目ですが、ホスピスプログラムは1973年に日本で最初に始めています。

本来ホスピスとは施設ではなく、終末期の患者さんを援助するためのプログラムの総称で、患者さんとご家族を中心に、医師、看護師、ソーシャルワーカーなどの専門職とボランティアとで構成するチームによるケアが特徴です。つまり患者さんのご家族も含めた全人的な緩和ケアをしています。

さまざまなスタイルがあって、病院内の病棟や階を定めて行うケース(院内病棟型・院内独立型)や、完全にホスピスとして独立した施設(完全独立型)もありますし、一般病院内に緩和ケアの専門家のチームがいるところなどもあります。在宅ホスピスは患者さんの自宅でのケアを行うため、訪問診療・看護などと施設で一時的に患者さんをお預かりするレスパイトケアなどの態勢を整えているところのほか、デイケアなどもあり、患者さんが終末期であることは前提としないケースがあります。

特定非営利活動(NPO)法人「日本ホスピス緩和ケア協会」のWebサイト(http://www.hpcj.org/list/relist.php)によると、2015年11月1日現在の「緩和ケア病棟入院料届出受理施設」は300施設 6135床ですから、これが「院内独立型」「完全独立型」「院内病棟型」のホスピス・緩和ケア病棟(医療保険制度による承認施設)の開設状況になります。

YCHは2012年11月1日、本院の近くに日本で初の医療型「ホスピス・こどもホスピス病院」(完全独立型)を開設しました。ホスピス病棟15床、「こどもホスピス」病棟12床で、成人のホスピスと、子どものホスピスを同一施設に持っている施設は世界でも類がありません。

まず小児の緩和ケアでよく用いられるのが2003年に示された「ACT/RCPCH(Royal College of Paediatrics and Child Health=英・王立小児保健協会)」の次の定義です。

「致命的な難病の小児および若者のための緩和ケアとは、身体的、精神的、社会的、霊的(スピリチュアル)要素を含む包括的かつ積極的なケアへの取り組みである。そしてそれは子どもたちのQOL(生活の質)の向上と家族のサポートに焦点を当て、苦痛を与える症状の管理、レスパイト(家族の小休止のための一時的)ケア、終末期のケア、死別後のケアの提供を含むものである」

私たちも「こどもホスピス病棟」を開設するにあたって、この定義を重視しました。そして小児がんや難病の子どもたちが病院にいながら家庭と同じ、もしくはそれ以上の安らぎと癒やしを感じることのできる、ある意味で病院らしくない病院をめざしました。

YCHの「成人ホスピス入院条件」

原則、以下の条件を満たす終末期がんを持った成人患者さんとなります。

・終末期がんであることの告知を受けている

・生命予後が2、3カ月以内と予測されている

・在宅療養を希望しない

・抗がん治療や民間療法を希望しない

・ホスピスへの入院をご本人とご家族が希望している

となっています。もちろん「こどもホスピス」の入院条件は、これとは違いますが、最初にお母さんら保護者にはっきり伝えるのは(症状が急激にあらわれて、すぐに対応が必要な生命的危機にある)急性期患者のための病院ではないので、急性期の治療が必要な場合は、そのための病院を選ばれたほうがよいということです。

ここは癒やしや、ゆったりと自宅のように安心して過ごせることを目的にした場所ですから、緩和がメーンですと申し上げます。

とはいえ、保護者の方からすると、割り切れない部分は確かにあります。具体的には、先進的な化学療法なども受けながら癒やしも得たい、ということです。ですから私たちも、その患者さんを治療している急性期病院と連携をしながら、今は落ち着いているからYCHにいるけれど、何かあったら急性期病院に行くということも実践しています。

具体的には開院から2年で入院した子どもたちは「悪性疾患対象の緩和医療入院数」は14人(人工呼吸器装着3人)です。うち脳腫瘍が10人、白血病が1人などで、院内で8人を看取り、自宅で3人、他院で1人が亡くなりましました。在宅の難病対象の短期入院は203人が登録しており、このうち3割が人工呼吸器を装着、約4割が気管切開、約8割が経管栄養(全て母数は203人)という状態でした。

先に挙げた小児緩和ケアの定義には、「致死的な難病の子どもとその家族のQOL向上のための全人的ケア。診断時に始まり、療養生活、ターミナル期を経て、死後まで子どもと家族が望む限り継続的に、望む場所でケアを提供する」とあります。私たちは、この文章を参考にして必ずしも「『こどもホスピス』における看取り」にこだわらず、子どもが在宅を望んだ場合にはその可能性を最後までご家族と一緒に考え、ご本人やご家族の希望を最大限に尊重するようにしています。

患者さんのお母さんから「ホスピスは暗くてもう終わりというイメージを持っていて、医師からホスピスを紹介されたときはショックを受けた」というお便りをいただいたことがあります。でも、見学をして実際に利用すると、誤解だったということにすぐに気づかれたとのことで「たくさんの楽しい思い出と、ゆったりした親子の時間を持つことができました」という言葉が綴られていました。

 

※お知らせ※

「ホスピス・こどもホスピス病院」は2017年2月末日に閉院し、その機能を淀川キリスト教病院(本院)へ移転致します。

 

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  • 淀川キリスト教病院 副院長、日本小児心身症学会 代議員、大阪地域発達支援ネットワーク研究会 代表世話人

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