インタビュー

小児ホスピス緩和ケア、少子化が進む日本が抱える課題とは

小児ホスピス緩和ケア、少子化が進む日本が抱える課題とは
鍋谷 まこと 先生

淀川キリスト教病院 副院長、日本小児心身症学会 代議員、大阪地域発達支援ネットワーク研究会 代...

鍋谷 まこと 先生

この記事の最終更新は2016年02月09日です。

少子高齢化が進む日本では小児病棟の閉鎖や縮小などが問題になっています。医療費の抑制が課題となるなかで老人の在宅医療への関心が高まっていますが、小児緩和ケアの領域ではどうなのでしょうか。これまでは助けることが難しかった生命を救うことができるようになった一方で、常に人工呼吸器を着けていなければならない子どもが多くなっている現実があります。大阪・淀川キリスト教病院の「ホスピス・こどもホスピス病院」院長の鍋谷まこと先生にお話をうかがいました。

日本では少子化による小児科の減少が問題になっていますが、現実には小児科の仕事が少子化によって減るというより、小児科の役割が変わってきているというのが私の実感です。

統計によって違いはありますが、発達障害の子どもは4~7%の割合で出生するといわれています。現実にはそれらに対応できる医師は足りていません。症状が生命に関わる急性期を脱したあとは退院して自宅に戻っていかれるのですが、障害や後遺症が残る子どももいます。そこで緩和ケアが非常に大切になってきます。つまり、今後の症状の変化も考慮して急性期医療と緩和医療は連携していかなければならないのです。小児科の役割が変わってきたというのは、そのスパンが成人の緩和ケアとは違うことが背景にありますし、WHO(世界保健機構)が緩和医療を重要課題とするなかで小児緩和ケアには独自の位置づけが必要だとされているのも、そのような背景があるからでしょう。

医療費抑制の意味もあって、国も施策的に在宅医療を進めようという流れになっています。また人工呼吸器も機能が発達して小型化が進み、技術的にも在宅医療の環境は改善されてきています。とはいえ、子どもの患者さんが自宅にいると、お母さんを中心としてご家族は24時間サポートケアをしなくてはいけませんし、患者さんによっては、1時間に1回は痰(たん)の吸引をしないといけないというケースもあります。いつ人工呼吸器のアラームが鳴るかわかりませんから、在宅医療の環境が技術的に改善されたといってもご家族には負担です。

ですから、介護をする方に休息を与えるために患者さんを一時的に預けることができるレスパイトケアの充実が小児在宅ホスピス緩和ケアにはとても大切です。

淀川キリスト教病院(YCH)の「こどもホスピス」のレスパイトケアには約300人の患者さんが登録しており、うち95%が難病で、その他ががんです。ですから、がんがほとんどを占めるといってもいい成人のホスピスとは決定的に違います。

これまではレスパイトケアは医療の分野として考えられてこなかったこともあって、保護者の方のなかには利用に罪悪感を持つ方も少なくありません。預けるときにお母さんがお子さんに「ごめんね」などと謝ることもあるほどです。

ですから、保護者の方がそのような気持ちにならないように「こどもホスピス」は子どもがゆっくりとして楽しめる場であるように整え、なおかつそれをわかってもらうことが必要になってきます。

国の施策としての在宅医療の推進されている9割方の背景には、高齢者が増えてベッドが足らなくなるとか、社会への医療費負担が大きくなることへの危惧があるのでしょうが、子どもに関しては違う意味があります。子どもを支える家族のことを高齢者の患者さんの場合とは違った姿勢で考えることが必要になってくるのです。

ですからYCHの「こどもホスピス」には、自宅のようにご家族でゆっくり過ごせたり一緒に食事をできる場所もありますし、映画を観たりカラオケを楽しんだりすることもできます。日本で病棟自体を小児科のホスピスとした初めてのケースで、非常にチャレンジングな試みだったと思っています。しかし、国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)に同じようにレスパイトケアを行う施設「もみじの家」が2016年中に開設されるなど、日本でも動きは広がってきています。

構造的には最高のものをつくったという思いはありますが、日本では初めての試みで実績もなかったので、開院当初はレスパイトでの入院料の算定基準とした小児入院医療管理料の診療報酬は一番低い「5」とされました。経営的には苦しく、ベッド数(12床)など色々な工夫をすべきだったとは思っています。

現在、レスパイトは重症心身障害児の医療施設の空床利用による短期入院という制度を利用して、すべて保険の範囲内でまかなわれ、特に個室料もかかりません。緩和ケアの対象疾患の場合(小児がん)には、成人のホスピスと同様に緩和ケア入院料が適用されます。

小児の場合には、悲しみにくれる親のケアも含めそのケアは大変なのですが、特に加算等は配慮されておりません。この場合も個室料等はいただいておりませんので、基本的にすべて保険適用部分のみで賄っています。

大阪市に続き大阪府も市も少しずつ補助金をつけてくれるようになってはいますし、当院と同じように患者さんを預かるところは増えていますけど、当院もレスパイトは常にいっぱいの状態です。

大阪府では、18歳以下の重症心身障害者のうちで人工呼吸器をつけて自宅で過ごしている方が200人~250人いるとみられています。このうち約100人がYCHの「こどもホスピス」のレスパイトケアの登録をしていますから、多くの方から必要とされていると感じますし、保護者の方の視点から考えればもっと増えてほしい、というところでしょう。

 

※お知らせ※

「ホスピス・こどもホスピス病院」は2017年2月末日に閉院し、その機能を淀川キリスト教病院(本院)へ移転致します。

 

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  • 淀川キリスト教病院 副院長、日本小児心身症学会 代議員、大阪地域発達支援ネットワーク研究会 代表世話人

    鍋谷 まこと 先生

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