インタビュー

日本に小児緩和ケアを根づかせるために-今後の展望

日本に小児緩和ケアを根づかせるために-今後の展望
鍋谷 まこと 先生

淀川キリスト教病院 副院長、日本小児心身症学会 代議員、大阪地域発達支援ネットワーク研究会 代...

鍋谷 まこと 先生

この記事の最終更新は2016年02月10日です。

2016年4月に国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)に重い病気などのために在宅で常に医療ケアを必要とする子どもを短期間預かる子どもホスピス「もみじの家」が開設される予定です。とはいえ、まだまだ国内の公的病院では初の試みです。少子高齢化が進む日本で小児緩和ケアは今後、根づいていくのでしょうか。2012年11月、アジアで初めての子どもホスピスとしてスタートした大阪・淀川キリスト教病院の「ホスピス・こどもホスピス病院」院長の鍋谷まこと先生に、お話をうかがいました。

病院内に小児緩和ケアチームが配置されている小児病院や大学病院が増え、小児緩和ケアもかなり一般的な分野になってきました。しかし、一般の病院では自分たちとは関係ないと考えている小児科医も多いというのが現状です。また患者さんの側でも「ホスピス」という言葉に暗いイメージを持ったり、レスパイト(家族の小休止のための一時的)ケアの利用に罪悪感を抱いたりするケースがあります。そういう意味では病院と患者さん双方の理解の進むことが重要だといえます。その双方の意識を変えていくのは、すでに小児緩和ケアに携わっている病院側のスタッフの役割だと考えます。

成人のホスピスでは死が避けられない状態となったときの「エンドオブライフ・ケア」が主な役割となりますが、「こどもホスピス」の場合は「エンドオブライフ・ケア」にも対応できる小児緩和ケア病棟となりますから、在宅ホスピス緩和ケアと一体になったレスパイトケアが大きな比重を占めます。

化学療法は高次機能病院で受けながら、寛解期には私たちの「こどもホスピス」を利用する小児がんの家族がいらっしゃいました。寛解期には帰宅を望まれていたのですが、気管切開による人工呼吸管理が必要で自宅では無理だったのです。患者さんは発症から1年以上も両親と一緒に3人で寝たことがなかったので、こちらの個室で久しぶりに揃って過ごせたことを喜んでおられました。そして患者さんは数か月「こどもホスピス」で家族との生活をされたあと亡くなりました。

つまり緩和ケア、特に小児の場合は病気の初めの頃から患者さんやご家族が持つ不安に関わり、慢性期そして「エンドオブライフ・ケア」への連続性を意識することを忘れてはいけないのです。

病院のスタッフにとっても子どもの死を看取ることはショッキングでとても悲しいですし、私自身も、ご家族の苦しみに引き込まれるような体験もしました。ここで経験をしたスタッフが様々な機会に外でその経験を伝えていくことが、小児緩和ケアの日本での定着や進歩につながっていくでしょう。また、看護師たちが小児在宅医療を学ぶことも国が進めており、昨年から「こどもホスピス」に研修に来るようになり半年で25人を受け入れました。病院や在宅で病気治療などをしている子どもたちに遊びを届ける専門職「ホスピタル・プレイ・スペシャリスト」も見学に来られます。

極端な言い方に聞こえるかもしれませんが、人間は必ず亡くなります。もちろん自分の子どもが亡くなるのは悲しいし、つらいことです。しかし、亡くなった患者さんのご家族と後日お話しして、「こどもホスピスで過ごせてよかった」と次の生活へ踏み出される姿も見ますと、人間は歴史とともに成り立っていて、その歴史は多くの人々の死の上に成り立っているため、死は単なる終わりではないと思えます。

だからこそ患者さんの入院中には、我々スタッフは落ち込むのではなく患者さんのご家族と一緒に今をどのように良い時間にするのかに集中するようにしています。

「ホスピスは家族のリハビリをするような機能もあるんですね」と、おっしゃる方もいますが、リハビリは「再獲得」という意味です。それよりは、むしろ「再生」をめざしています。

淀川キリスト教病院の「ホスピス・こどもホスピス病院」のように成人ホスピスと「こどもホスピス」が同じ施設内にある例は世界的にも珍しいようです。地域での在宅医療との連携も子どもだけでなく成人も一緒に行うことができる利点を生かし、よりよい日本型の新たな「こどもホスピス」の形を世界に発信していきたいです。

 

※お知らせ※

「ホスピス・こどもホスピス病院」は2017年2月末日に閉院し、その機能を淀川キリスト教病院(本院)へ移転致します。

 

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  • 淀川キリスト教病院 副院長、日本小児心身症学会 代議員、大阪地域発達支援ネットワーク研究会 代表世話人

    鍋谷 まこと 先生

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