インタビュー

晩婚化や晩産化が女性に与える影響について

晩婚化や晩産化が女性に与える影響について
福原 正生 先生

福岡山王病院 副院長・産婦人科 部長

福原 正生 先生

この記事の最終更新は2016年02月15日です。

婦人科疾患においては治療の選択肢が広がる一方で、女性の結婚年齢や初産年齢は上昇しているといいます。多様な生き方が可能となった現代において、晩婚化や晩産化が女性に与える影響について福岡山王病院 産婦人科部長の福原正生先生にお話を伺いました。

婦人科疾患の特徴のひとつは、同じ診断名で、同じような症状であっても、患者さんの年齢や置かれている状況によって、治療の第一選択が全く違ってくるということです。

すでに何人か子どもがいる患者さんであれば、チョコレート嚢腫(子宮内膜症の一種で卵巣の中に発生するもの)があって、筋腫もあるとなれば卵巣と子宮の全摘術をお勧めします。この場合、術式は全て腟から行う腟式の子宮全摘術(TVH)が可能ですので、おなかには傷が残ることはありません。しかし、まだ結婚もしていない、子どももまだひとりもいない、だから何とか子宮も卵巣も残したい、という患者さんであれば、別の治療法が第一選択となります。

筋腫や内膜症(チョコレート嚢腫など)といった子宮や卵巣の疾患は、主に30代半ば以降から40代前後で起こってくる病気です。昔であれば、10代で結婚や妊娠・出産することも珍しくなく、30代ともなれば子どもを生み終えている年齢でした。しかし、近年は晩婚化や晩産化が進み、婦人科疾患の好発年齢になっても結婚も出産経験もない女性が増えているのです。

1995年から18年間に渡って、良性の子宮疾患に対する手術療法に関する研究を、前任地である浜の町病院から現在の福岡山王病院に移って以降もチームで行いました。その中で、女性の平均初婚年齢に関しては、1990年では25.9歳だったのが2011年には29歳へと上昇しています。また、第一子出産時の平均年齢についても、 1990年では27歳だったものが、 2011年には30歳と、初産年齢も高くなっているのです。(表参照※厚生労働省「出生に関する統計」の概況から)

平均初産年齢

第一子出生時の平均年齢

1990年

25.9歳

27歳

1995年

26.3歳

27.5歳

1999年

26.8歳

27.9歳

2003年

27.6歳

28.6歳

2007年

28.3歳

29.4歳

2011年

29歳

30.1歳

(※「良性子宮疾患に対する手術療法の変遷について」からの抜粋 出典 :厚生労働省「出生に関する統計」)

「妊孕性」といって、妊娠する能力の高い20代から30代前半くらいまでの未婚・未産女性が増えている状況を考えると、手術に関して子宮や卵巣を温存したいと願う気持ちも当然のことなのだと思います。

また、子宮全摘術と子宮温存術を行った女性の平均年齢については、子宮全摘術の場合は45~46歳あたりを推移(1995-2012年)しているのに対して、温存術は、1995年で32.7歳だったのが2012年には38.4歳へと上昇しています。さらに、これら子宮温存術を行った患者さんの不妊症の割合についてみてみると、20%前後から20%台後半へとわずかに増加しているのです。これは、温存術を受ける女性の平均年齢が高くなっていることが背景にあるものと考えられます。

しかしその一方で、温存術を受けた女性の全てが挙児(子どもを持つこと)を希望しているかというと、そういうわけでもありません。温存術を受けた方の中には、生涯結婚せず、また出産もしない非婚・非産という方もおられるのです。つまり、子宮温存という選択肢が増えたことで、残せるのなら子宮を温存したいという女性が増えてきたのだと考えられます。

女性を取り巻く環境はこの20年で大きく変わり、また同時に婦人科領域における治療の選択肢も大きく広がりました。これら時代の変化にともなって、不妊症のプロフィールも変わりつつあります。というのも、従来の不妊症治療というのは、妊孕性の高い年齢層で妊娠できない方が受けるものでした。ところが、いまは妊孕性の低い年齢層の方が妊娠を希望して治療を受ける時代なのです。

腹腔鏡をはじめとする婦人科疾患治療に関する技術は確かに進歩しましたが、人間のからだというものは、太古の昔からさほど進化してはいないのです。つまり、妊娠率は35歳を過ぎると明らかに低下します。卵巣の機能も加齢(年齢を重ねること)にともなって確実に低下していきます。医療技術がいくら進歩したとはいっても、妊娠・出産ということに関しては、ある程度の限界があるということも理解しなければならないのだと思います。

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