インタビュー

子どもを末期腎不全に進行させないためにできる治療と予防。薬物療法から食事療法まで

子どもを末期腎不全に進行させないためにできる治療と予防。薬物療法から食事療法まで
幡谷 浩史 先生

東京都立小児総合医療センター 総合診療科/腎臓・リウマチ膠原病科 部長

幡谷 浩史 先生

この記事の最終更新は2016年04月18日です。

記事1『子どもの慢性腎臓病(CKD)とは。腎不全との関係は?』では、慢性腎臓病CKD)の子どもが末期腎不全に進行すると、たとえ0歳児からでも透析が必要になる可能性があることをご説明しました。子どもの頃から透析をすることは大きな負担がかかるため、末期腎不全に進行させないための予防や対策が必要とされます。慢性腎臓病(CKD)の子どもを末期腎不全に進行させないために、何をすればよいのか、また何ができるのか、東京都立小児総合医療センター総合診療科・腎臓内科部長の幡谷浩史先生にお話を伺いました。

子どもの場合、末期腎不全に陥るケースのほとんどが先天性腎尿路奇形(腎臓や尿の通り道の尿道、膀胱などが生まれつき典型的な形態とは異なっている状態)によるものです。この病気は乳幼児健診(3歳児検尿など)や学校検尿で見つけられるものもあり、しっかりと健診・検尿で子どもの尿異常の有無を調べておくことが重要になります。しかし、特に尿を濃くする力が弱い体質の場合、現在の尿検査だけでは異常が分からないこともあるため、検査方法の変更が現在検討されています。

保存期腎不全(透析が必要なほど重症ではない段階の腎不全)の管理技術が向上したおかげで、慢性腎臓病CKD)の進行を抑えることができるようになってきています。慢性腎臓病(CKD)の子どもの予後(治療後の経過)が劇的に改善したわけではありませんが、不必要な制限が減って生活の質(QOL)は向上してきており、また、末期腎不全になるまでの期間も延ばすことが可能になり始めました。

※奇形:学術的に、先天的に形態の異常が生じている状態のこと

慢性腎臓病CKD)をコントロールする方法の主体は薬物療法になります。

薬物治療として用いられるのは、降圧薬(腎保護薬)、利尿薬(生まれつき慢性腎臓病の患者さんに使うことは少ないです)、経口吸着炭製剤、カリウム吸着薬、リン吸着薬、活性型ビタミンD製剤、エリスロポエチン製剤などです。

食事療法については、子どもと大人で内容が異なります。成人における食事療法では老廃物などの腎負荷を減らすことを目的に食事のたんぱくを制限します。しかし、子どもの場合はたんぱく制限による腎保護の効果ははっきりせず、長期間続けることによる悪い面(成長・生活の質など)を考慮すると一般的な治療とはいえません。

子どもの慢性腎臓病CKD)にあらわれる症状の一つに成長障害があります。当然のことですが、適正なエネルギーが無ければ子どもは成長することができません。子どもは成長期であること、成長するためにエネルギーが必要であることを考えて、食事の量は制限しません。その代わり、どうしても腎臓から排泄することができないために蓄積してしまうカリウムやリンを減らす工夫が重要になります。

塩分に関しては、大人の慢性腎臓病(CKD)の場合であればたんぱく質とともに塩分を制限するのが一般的です。しかし、先天性腎尿路奇形が基礎疾患の場合は、塩分が過剰に尿に漏れてしまう体質のため、その際には塩分を加えることさえあります。一方、腎機能低下が進行し,塩分貯留になった場合には血圧が上がってくるため、基礎疾患が先天性腎尿路奇形でも塩分制限をする必要があります。

具体的な食事内容として、エネルギーは通常の子どもと同等に摂っていただき、たんぱく・リンは過剰に摂取しないようにします。保存期腎不全であれば、たんぱく質を過剰に摂りすぎない程度に考えていただければそれで問題ありません。塩分は尿へ漏れる量や血圧によります。食事に関しては、栄養の専門家と相談しながら方針を決めることもあります。

また、透析をしている子どもはリンのコントロールが難しくなるため、親御さんに対しては、給食の牛乳は控えること、学校で牛乳を飲んだ日は家で乳製品を控えること、果物の過剰摂取は控えさせること(果物に多く含まれるカリウムも腎臓に一定の負担がかかるため)、100%果汁ジュースは過剰に与えないことをお願いしています。

子どもの慢性腎臓病CKD)に対しては、食事はもちろんそれ以外の様々な観点でも「なるべく制限をかけないこと」が大切だと考えています。

人生において幼少期・思春期の経験はかけがえのないものですし、成長していく過程で貴重な体験です。様々な制限をかけて透析までの期間をほんの少し伸ばしたところで、本当にその子どもの人生を有意義なものにできるでしょうか。私はそれよりも、幼稚園や学校に行かせて、様々な経験をできるだけ健康な子どもと同じようにさせることのほうが大切だと思います。

ただし、ここで難しいのは安静の度合いです。一部の腎疾患の場合(慢性糸球体腎炎など)、本当に安静が推奨されるべきなのかわからない点が残っています。少なくとも急速に腎機能が悪くなっていたり血圧が高くなっていたりする場合であれば、多くの腎臓専門医は「安静が必要」と考えています。

反対に、安定している状態では腎機能が悪くても安静が必要か分かりません。そのため、慢性腎臓病(CKD)の子どもには、授業で行われる体育やウォーキングなどの有酸素運動は一緒に参加して、他の子どもとなるべく同じものを経験してもらうようにお話ししています。

慢性腎臓病(CKD)は一生付き合っていく必要がある病気です。そのため、その子どもの人生をトータル的に考えて、何が最適かを決定していく必要があります。

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