インタビュー

ヒトの進化とホルモンの関連-肥満・糖尿病・高血圧症などの現代病の発症にはホルモンが関係している

ヒトの進化とホルモンの関連-肥満・糖尿病・高血圧症などの現代病の発症にはホルモンが関係している
高橋 裕 先生

奈良県立医科大学 糖尿病・内分泌内科学講座 教授

高橋 裕 先生

この記事の最終更新は2016年02月24日です。

ホルモンの働きを見ていくと、ヒトの進化の過程で必要に応じて発展してきたことが浮かび上がってきます。そして、なぜ現代病とも呼ばれる疾患が増えているのかも明らかになってきます。神戸大学大学院医学研究科 糖尿病分泌内科学 准教授の高橋裕先生に下垂体腺腫治療の注意点やホルモンとヒトとのかかわりについてお話を伺いました。

下垂体の手術は顕微鏡や内視鏡を使った手術が一般に行われていますが、手術が専門的なため、熟練した医師の数は限られています。手術を行っている病院は全国にたくさんありますが、欧米の報告では年間50例以上手がけている病院とそれ以下の病院では、手術成績や合併症の数に差があるという結果が出ています。私が患者さんに手術を勧めるときには、必ず下垂体腫瘍手術の経験豊富な病院で手術を行ってくださいということを伝えています。

現在、下垂体腺腫における新しい治療薬の開発が次々に進んでいます。最近、クッシング病先端巨大症の治療薬として新たなソマトスタチンアナログであるパシレオチドが使えるようになりました。また、先端巨大症の治療薬であるオクトレオチド、ランレオチド、パシレオチドは、毎月注射をしなければいけないという負担がありますが、現在注射に代わる飲み薬の開発も進んでおり、患者さんのQOL向上が見込まれます。このような薬物療法には高額なものもありますが、さいわい機能性下垂体腺腫や下垂体機能低下症は国の指定難病に認定されており医療費が収入によって助成されますので、専門医に必要な検査を受けた上で申請について相談して下さい。

一方で、先端巨大症の一部では治療が難しいことがありますし、クッシング病ではまだまだよりよい薬が必要な状況です。ですから、私たちは、このような難治性下垂体腺腫の治療方法につながるさらによい薬をつくることを研究の目標に掲げています。私たちは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)や腫瘍を培養する技術(オルガノド)を応用して、有効な薬剤を効率的にスクリーニング(ふるい分け)する方法について検討を進めています。

近年、ホルモンと疾患のかかわりがどんどん解明されています。そのなかでも私たちは、ホルモンとヒトの進化とのかかわりについての研究も進めています。ヒトがヒトたる由縁(ゆえん)は、他の動物と異なりコミュニケーションをとり、集団生活が送れる社会を築いてきたことです。そこでは下垂体後葉から分泌されるオキシトシンが重要な役割を果たしています。オキシトシンはもともと母性本能に重要ですが、ヒトとヒトとの信頼関係やコミュニケーションに重要であることがわかってきました。

また、ヒトの歴史のほとんどは飢餓との闘いでした。そのような過程を生き延びてきた結果、体にとって必要な塩分や糖分・脂肪分をおいしいと感じ体内に蓄えるように報酬系というシステムが進化するとともにホルモンが栄養分を調節するような仕組みになっています。例えば、血糖を下げるホルモンはインスリンしかありませんが、血糖をあげるホルモンはカテコラミン、グルカゴン、成長ホルモン、コルチゾールと少なくとも4種類あり、飢餓状態の血糖値を維持してきました。

ところが、今では空腹に耐えることなく簡単に美味しい食事やスイーツが手に入るようになり、つい食べ過ぎてしまう状況が、肥満、糖尿病高血圧脂質異常症などの生活習慣病を引き起こします。このように飢餓に耐えるために適応してきた身体が飽食の時代になって、肥満、糖尿病や高血圧などの現代病が生まれたと考えられています。逆に飢餓に耐えるために適応してきた身体にとっては腹八分目にすることや運動を行うことが健康のために重要であるということを意味しています。

このようにホルモンとヒトの進化の関係をさらに明らかにすることによって、疾患の理解や原因、治療法の解明にもつながると考えています。

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