インタビュー

くも膜下出血の治療-手術後も根気強く闘う必要がある

くも膜下出血の治療-手術後も根気強く闘う必要がある
塩川 芳昭 先生

杏林大学 脳神経外科 教授、杏林大学付属病院 副院長

塩川 芳昭 先生

この記事の最終更新は2016年03月04日です。

くも膜下出血を起こした破裂動脈瘤の再出血を防ぐ手術法に「クリッピング法」と「コイル法」があります。どちらにもメリット・デメリットがあり、患者さんに合わせて選択することが重要です。本記事では、杏林大学 脳神経外科主任教授ならびに副院長の塩川芳昭(しおかわ よしあき)先生に、くも膜下出血の治療法についてお話しいただきます。

脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血が起こった場合、脳の状態をよくするために次のような治療を行います。

  1. 呼吸や循環を正常に戻す
  2. くも膜の下に広がった血液を外へ逃がす
  3. 脳の圧を減らす

また、動脈瘤の再出血を防ぐためは、破裂した動脈瘤を塞ぐ必要があります。その方法としてクリッピング法(開頭手術)とコイル法(血管内手術)があります。

開頭し、脳動脈瘤の頚部(根元)を脳動脈瘤クリップで挟みこむ方法です。髪の毛の生え際に沿って頭皮を切開し、額の外側の骨を切除して、脳の隙間から手術用顕微鏡で観察しながら脳動脈瘤まで到達します。手術する部分を顕微鏡で大きく拡大させ、脳動脈瘤の根元を脳動脈瘤クリップで挟み込みます。

クリッピング手術(塩川先生提供)
クリッピング手術(塩川先生提供)

医療用のコイルを動脈瘤のなかに詰める方法です。全身状態が重症であったり、高齢で体力の衰えている場合、開頭手術の難しい場所(脳底動脈先端部)にできている脳動脈瘤や、一部の内頚動脈瘤にはコイル法が用いられます。局所(全身)麻酔をかけて、股の付け根からカテーテル(医療用の管)を送り込み、脳動脈瘤に達したカテーテルの先端から白金製のコイルをだします。レントゲン画像をみながら、脳動脈瘤のなかで毛糸球をくるくる巻くようにコイルを巻いていきます。

開頭手術と血管内手術

クリッピング法とコイル法どちらを選択すべきかという明確な決まりはなく、施設や医師の意向によって選択される場合がほとんどです。手術法にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、患者さんや出血の状態などを判断して選択されるのが望ましいです。クリッピング法とコイル法で異なる点は、「術中破裂の危険性」「長期の治療効果」「全身麻酔による負担」「脳の深い場所にある脳動脈瘤の治療が可能かどうか」の4つです。

コイル法では脳動脈瘤にコイルを入れるため、手術中に脳動脈瘤が破裂する危険性があります。術中破裂への対応が不十分な場合、命の危険性もあります。また、コイルでの塞栓が不十分であると長期的に脳動脈瘤が再発する危険性もあります。一方、全身麻酔を用いるクリッピング法では患者さんの負担は大きくなりますし、脳の深い場所にある脳動脈瘤の治療は難易度が高くなります。

クリッピング法とコイル法の比較

 

クリッピング法

(開頭手術)

コイル法

(血管内手術)

術中破裂の危険性

対応可能

対応の難しい場合あり

長期の治療効果

高い

再発する場合がある

全身麻酔による負担

大きい

小さい

脳の深い場所にある動脈瘤への治療

難易度が高い

比較的容易

コイル法は再発が多いと考えられてきましたが、長期的にみると、治療効果がクリッピング法と変わらないという報告があります。コイル法は開頭しないため患者さんの負担が小さく、首尾よくうまくいけば侵襲性が低いといわれていますが、危険性が低いとはいえません。つまり、低侵襲=危険性が低いということではありません。術中破裂などのように、コイル法では十分に対応できない場合があります。ですから、繰り返しになりますが、それぞれの患者さんの状態に合わせて手術法が選択されるのが望ましいと考えます。

脳血管攣縮とは、クモ膜下腔の血液に囲まれた脳の血管が縮むことをいいます。生体の防御反応かもしれませんが再出血を防ごうと血管が縮んでしまい、それにより脳梗塞という新たな脳卒中を引き起こす危険性があります。脳血管攣縮は、出血後4日から2週間が危険な時期です。決定的な治療はまだありませんが、早めにくも膜の下に広がった血液を洗い流し、血管が縮まないような薬剤を使用します。

くも膜下出血は、破裂した動脈瘤を治療したあとも安心できません。それは先に述べた脳血管攣縮の危険性があるほか、1〜2ヶ月後に、正常圧水頭症(脳脊髄液の流れが悪くなり、脳が水浸しになる)が起きる場合があるからです。典型的な正常圧水頭症では、クモ膜下出血後にお元気だった方がだんだんとトンチンカンになり、歩行がおぼつかなくなって尿失禁をきたします。しかしこの状況は脳脊髄液を脳の隙間(脳室)から腹腔に導く管を埋め込む比較的侵襲の少ない手術で対応可能です。後遺症によってはリハビリが必要な場合もありますし、経過観察のためにしばらくの期間は外来通院が必要となります。

 

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