インタビュー

国立がん研究センターが提供するがん情報とは

国立がん研究センターが提供するがん情報とは
東 尚弘 先生

国立がん研究センター がん対策情報センターがん臨床情報部部長

東 尚弘 先生

この記事の最終更新は2016年03月14日です。

インターネットにはさまざまな情報があふれており、どの情報を信用すればよいのか迷われた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。本記事では、国立がん研究センターが提供する医療情報について、国立がん研究センター がん対策情報センター がん臨床情報部 部長 東尚弘先生にお話しいただきました。

 

インターネットの普及にともない、多くの情報から自分に必要な情報を取捨選択することや、正しい情報を判断することが非常に難しくなってきていると感じます。その影響なのでしょうか、臨床(病院での診療)を離れている私も、さまざまな方から「がんになってしまったがどうしたらよいのか」や「いい先生はいないか」という相談を受けることがあります。相談内容はそのほかにも、患者さんが病院の待合室でちらっと耳にしたような情報(たとえば、がんに効く「きのこ」があるらしいなど)や、先進医療とは何か、それを施してくれれば治るのではないかというものもあります。

しかしこれらは回答が非常に難しい相談です。先進医療は厚生労働大臣が「保険給付の対象とすべきか評価を行うことが必要」と認めた先進的(高度技術、そうでないものも含む)な医療のことをいい、標準治療として保険適応になっていない治療法です。つまり、現段階では多くの方に効果があるというコンセンサス(合意)が得られていない治療といえます。ですからきちんと効くとは言い切れません。

またがんに効くというきのこも、厳格な科学的検証により証明されていませんので標準的な治療ではありません。たとえ効いたという患者さんがいくらかいたとしても、プラセボ効果(薬効がなくても思い込みによって症状が改善すること)によってたまたまその人に効果があったのかもしれません。

一般社会で、特にインターネット上に広まっている医療情報は多くの患者さんに当てはまる情報と、個人にのみ当てはまる情報(「個人の感想」ともいいます)とが錯綜していて、一般の方にはどちらなのか区別が難しいことがあります。その中で、がん対策情報センターでは多くの患者さんに当てはまる標準的な情報に絞って情報を提供するようにしています。

 

情報の発信者によって意見が異なったり、内容が変わるような情報は出さない方針をとっています。患者さんのなかには、「これを飲んだら今まで治らなかったがんが治る」というような、一歩進んだ革新的な治療法を求めている方もいるでしょう。そのような情報と比較すると、正しいがん情報とは、患者さんからみてみると面白みが足りないなどと思われるかもしれません。

しかし、がん対策情報センターが提供しているものは、一般に正しいとされている情報であり、多くの患者さんに知っておいてほしい、個人に左右されない情報を地道にコツコツと出し続けています。

 

ただ、「正しい」情報とは何かということについても簡単にわかるものではありません。私が公衆衛生や統計などを行う立場になってから感じたことがあります。それは絶対的に正しい数字というものは存在しない、ということです。どれほど正しい計算の手順を踏んでも、どうしても得られる数字には誤差が生じてしまいますし、数字の導き出し方によっては、ある程度の幅がでてしまうものです。

そのため、医療情報で用いられる数字(例:平均寿命が◯%改善など)には、誰がどのような手法でその数字を導き出したのか、どの論文から引用した数字であるかということは、書籍でもインターネット上のサイトでも明記が必要なのではないかと感じます。

また、医学の進歩には数字の解釈が非常に重要です。ある抗がん剤が「効く」というだけではなく「どれくらい効くのか」、つまり寿命が3ヶ月延びるのか、それとも1年延びるのかというのは非常に重要な問題ですし、これらの数字がどのように導き出されたかによって信ぴょう性は変わってきます。夢かもしれませんが、日本全体が数字をしっかり開示する体質になり、一般の方もどれくらい効果があるのかというところまで落としこむ文化を作っていきたいと考えています。

 

さらに、数字の解釈や受ける印象は人によってさまざまです。「5%の方が亡くなります」と「95%の方が助かります」という伝え方は結論としては同様のことをいっています。しかし、「5%の方は亡くなります」という伝え方はひどいと感じる方もいるのではないでしょうか。そのこと自体に問題はありません。解釈が人によって異なるということなのです。

しかし、人によって解釈が異なりますので、知らずに患者さんを傷つけてしまうということも起こりえます。ですから、医師が何でもできるのが理想ですが、それが無理な場合はインフォームドコンセントの専門家のような役職をつくるのもひとつの手かもしれません。医師は数字をどのように患者さんに提示すればよいか、また患者さんはどのように受け止めたらよいかについて、インフォームドコンセントの専門家が患者さんと一緒に考える体制ができるのが理想かもしれません。