インタビュー

眼科における医学教育

眼科における医学教育
加藤 浩晃 先生

京都府立医科大学 眼科学教室、京都大学医学教育推進センター

加藤 浩晃 先生

この記事の最終更新は2016年04月16日です。

実は日本人の20人に1人は緑内障患者であるという事実をご存知でしょうか?このような統計を知っていれば、もっと緑内障の早期発見に意識が向くかもしれませんが、多くの人はその事実を知りません。今回はこのような現状を変えるべく、眼科専門医として臨床を行う一方で、京都大学医学教育推進センターに在籍し、医学教育に携わられている加藤浩晃先生に医学教育についてのお話をお伺いしました。

一つは新しい治療法の開発、そしてもう一つは早期発見や予防です。私は約10年間医師として診療に携わる中で、眼科領域の啓発を通して、まずは早期発見・予防に努めることの重要性を感じていました。しかし、実際患者さんに啓発を促そうとしても、限られた診療時間でできることは少なく、教育セミナーや公開講座を開いても私が伝えられる人数にも限界がありました。そこで、まずは医療者に早期発見・予防の重要性を伝えて知ってもらい、その医療者が半径5mの身近な大切な人に伝えていって欲しいと感じ、この医療者に対する医学教育を専門的に学び・研究するため医学教育の道を志すこととなりました。

2014年には医学教育を学ぶために京都大学医学教育推進センターに大学院生として在籍することにしました。そこではじめて、医師の生涯教育の中に眼科がほとんど含まれていないということを知り、衝撃を受けたことはよく覚えています。現在全医師のうち、眼科を専攻する医師は約3%程度です。つまり残りの97%の医師は国家試験の勉強を終えると、その後眼科について学ぶ機会はほとんどないということです。そこで私は医師の中でも幅広い疾患と対面するプライマリケア医を対象とした、眼科セミナーを始めることにしました。

イギリスで「GP(General Practitioner)」と呼ばれている「かかりつけ医」を対象とした論文で、「GP」が眼疾患と出会ったときその診断の約60%が誤診であったとされていて、そのうち10%は重大な眼疾患であったという報告があります。今後日本にもプライマリケア医は増えていくと考えられています。非眼科医でも基本的な眼科疾患について継続的に知識を持つことができる教育体制を整えていく必要性を感じています。

さらに眼科教育を医学生への卒前教育まで広げることを考えた時、医師国家試験予備校で非常勤講師をするという選択肢が出てきました。現在医学生に対する教育は大学に一任されていますが、大学は臨床・研究・教育の3本柱を全て担っており、大学病院で働く医師にはその負担が非常に大きくなっているという問題があります。

また、私自身、大学で教員として教える場合、その大学の生徒にしか伝えることができませんが、予備校から映像授業を発信すれば、全国の医学生を対象とすることができて、多くの学生に眼科のTipsを伝えることができることにも魅力を感じました。
現在では全国の医学生の約8000人のうち7000人以上が映像授業を見て、眼科に進まない医学生にも必要な眼科の知識を伝えることができています。ツイッターで3500人以上にもフォローしてもらっており、映像授業で直接できないところをツイッターで質問してもらうと回答するように、一方的な知識の伝達で終わることないインタラクティブな学びを意識しています。私自身は自分が難解な書籍を読んで時間をかけて学んだことを、次の世代にはわかりやすくより短い時間で伝えられるようになりたいと思っています。進歩し続けるIT技術を現場に応用して医学教育を生涯の仕事として続けられればと思っています。

眼科領域ではありませんが、現在新たに考えている取り組みのひとつとして、「医療マンガ」を使った医学教育に着目しています。日本はマンガ大国でもあり、ほとんどの人がマンガを読んだことがあると思っています。医師もまた例外ではなく、多くの医師はマンガを読んできた経験がありますし、私もその一人でもあります。

特に手塚治虫氏の「ブラックジャック」は私の医師としてのあり方を考えるきっかけを与えてくれた作品でした。作品の中に出てくるセリフで、「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね…」という有名な言葉があります。これはブラックジャックの師匠である本間先生が、ブラックジャックに最後に遺した一言でした。自分は小学生の時にブラックジャックと出会ってこの話を読んでとても影響を受け、患者さんがどう生きるか、いかに生きるかに焦点を当てて医療を行いたいと思うようになりました。その時に、自分の体の中で私自身は「見えない」ということが一番つらいと感じ、失明する人を一人でも救おうと眼科医という道を選び、現在の失明原因の1位である緑内障を専門にしました。自分にとってマンガが与えてくれた影響はとても大きいと感じています。

医療マンガは読むことによって学生のモチベーションが上がるという効果はもちろんですが、卒後のキャリアを考えるきっかけになるとも考えています。最近では病理医・麻酔科医など患者さんや低学年の医学生からは見えづらい科にスポットライトを当てた作品も多く、卒後の幅広いキャリアイメージが持ちやすくなっていると思います。また医師だけではなく、看護師や歯科医師を主人公にしたマンガもあり、これらのマンガはチーム医療を行う上で他職種理解を促進する材料にもなると考えています。

現在は日本で出版された200タイトル以上の医療系マンガのほとんどを読み、研究・整理している段階ですが、今後さらに具体的に医療教育にどう繋げていけるのかを検討していきたいと考えています。