インタビュー

眼科と遠隔医療

眼科と遠隔医療
加藤 浩晃 先生

京都府立医科大学 眼科学教室、京都大学医学教育推進センター

加藤 浩晃 先生

この記事の最終更新は2016年04月16日です。

眼のトラブルは日常的に多くあり、眼の診察は眼科医だけでなく眼科以外の医師もせざるを得ない状況があるという現実があります。そこで現在、非眼科医の先生方が眼の診察をせざるを得ない状況の時に安心して診療を行う方法が考案されつつあります。今回は新たな眼科領域の診療サービスについて、引き続き京都府立医科大学の眼科専門医である加藤浩晃先生にお話をお伺いしました。

元々知り合いのプライマリケア医が眼の診察をしなくてはいけない状況で眼の診察に困ったときに相談をメールでもらう機会が度々ありました。またプライマリケア医の先生方からの要望で、プライマリケア学会の生涯教育の一環として学会主催のセミナーなどでも非眼科医がこれだけは知っておきたい必要最低限の眼科の知識を話す機会もありました。すると、しだいに眼科診療をせざるを得なくて困っていたプライマリケア医の先生方から眼科診察や実際の在宅などの患者さんに対する質問が段々と増えてきました。同時に、非専門領域の診察なので、困りながら悩みながら診察しているということも分かりました。

そこで、そのような眼科診察をせざるを得ない先生方が安心して専門領域でない眼の疾患の診察をサポートする必要性を感じました。実は以前から「ヒフミル君」(株式会社エクスメディオ提供)という非皮膚科医師を対象とした、オンラインで無料で利用できる遠隔皮膚疾患診断支援サービスが始められていることも知っており、そのサービスを眼科でも応用できないかと考え、株式会社エクスメディオの協力のもと「メミルちゃん」という非眼科医のための遠隔眼科疾患診断支援サービスを立ち上げることになりました。

メールだと眼科専門医側が欲しいと思った情報をプライマリケア医の先生から送っていただけないことや、プライマリケア医の先生がとても丁寧に病歴を書いてくださっても診断や治療には必要のないところだったりすることがありました。そこで問診項目を決めて、選択式にすることで、眼科専門医側も本当に必要な情報だけを聞くことができるようにしました。それによって入力する非眼科医の先生も相談に余計な時間がとられないという点もこのサービスのメリットとなっています。前述の通り、プライマリケア医が遭遇する眼科疾患の約8割は前眼部病変のため、実際にユーザー医師によって有用性を確認し、このようなサービスを提供するに至りました。

具体的には、非眼科医が患者の眼の症状をデジタルカメラやスマートフォンで撮影し、その画像と問診内容を共にアプリケーションから送付します。それに対して登録している眼科専門医が24時間以内に、「おそらくこのような疾患で、このように治療するといかがでしょうか」というようなアドバイスをして診断や治療方針・紹介の必要性などを返信するというシンプルなサービスになっています。

医師に対する遠隔医療での治療支援である「ヒフミル」医師が専門以外の診察をしている際の助けとなりたいという気持ちから無料で行っており2015年10月に総務省による「ICTイノベーション創出プログラム(I-Challenge!)」において、先進的情報通信技術実用化支援を受け、現在は補助金によって運営されています。

私としては非常に必要なサービスだと思っており、無料で医師が使えるようにと考えています。しかし現状のサービスを継続するためには、より多くの医師の登録と活用が必要であり、使って頂けない場合、国からの補助金の継続も難しくなるかもしれません。今はぜひ多くの医師にこのサービスを知って頂ければと思っています。

「メミルちゃん」のサービスの流れ
「メミルちゃん」のサービスの流れ
「メミルちゃん」アプリケーション図
「メミルちゃん」のアプリケーション図

一人で悩んでいる医師をサポートできるという画期的なサービスである反面、現時点では少しずつ課題も見えてくるようになりました。サービスを開始してまず感じたのは、専門医と非専門医では専門用語に齟齬が生じることがあるということでした。実は医療の世界では、同じ略語を専門科によって全く異なる意味で使用することがあります。また、眼科医の中では当たり前のように使っている共通用語でも、非眼科医の先生には伝わらないこともあります。どこまでが共通用語として使用できるのか、共通認識が持てるのかといったコミュニケーションの壁は、患者さんと医師の間だけではなく、専門医と非専門医の間にも生じていることがわかりました。

また、送られてくる画像の質を向上させる必要性も感じています。画像自体の質(ピンボケや画素数)は機器の改良やデバイスの発達を期待しているのですが、送られてくる写真で眼科医が確認したい部位が含まれていなかったり、ちょっとした手技の差でうまく写せていないことがあります。例えば、下の瞼を引いて(あっかんべーのようにして)目が赤い写真を撮ると言ってもその引っ張り方は色々な状態で画像が送られてきます。

上まぶたをめくる「上眼瞼の翻転(ほんてん)」などは少し難しい手技ですが、プライマリケアの先生方にもトレーニングしていただくと、さらに正確な診断につながると考えています。

現在診療責任は基本的には対面で行った医師が負うものとなっています。そのためこの支援サービスはあくまでもアドバイスという立ち位置であること、またアドバイスを行う医師に対して診療報酬はつかないといった問題もあります。現在は国からの補助金で運営されていますが、長期的にはこういった遠隔医療サービスに対応して制度が整えられればと思っています。

現在のサービスは、有志の眼科専門医によって成り立っていますが、地域医療がその地域の医師同士で完結できれば情報共有や実際の患者紹介といった意味で患者さんにとっても利便性が高く、理想的だと考えています。ただ、地域で働く医師に今の状況でさらに遠隔相談の仕事を増やすことは負担の増大になると考えられるため、その基盤としてこの遠隔診療支援が必要だと考えています。

さらにこういった遠隔医療サービスは、東南アジアなどの海外でも応用できるのではないかと考えています。海外では医師が少なくその医師の大半は内科と外科で、専門性の高い皮膚科や眼科が非常に少ないという国もあります。そういった国や地域でも、このような遠隔診療支援サービスによって飛躍的に医療の質が向上することが期待できるのではないでしょうか。