インタビュー

原因のない不調や「未病」を治す漢方医学の考え方-西洋医学との違い

原因のない不調や「未病」を治す漢方医学の考え方-西洋医学との違い
貝沼 茂三郎 先生

富山大学附属病院 和漢診療科 診療科長・特命教授

貝沼 茂三郎 先生

この記事の最終更新は2016年04月13日です。

何らかの不調を感じて病院を受診したとき、「漢方薬」を処方された経験があるという方も多いでしょう。漢方薬は、西洋医学ではなく漢方医学の考え方に基づき、症状や疾患だけでなく一人一人の体質などをみて処方されるものです。私たちに元々備わっている“不調を治す力”を引き出す漢方医学の概要と、西洋医学との違いについて、漢方外来で診療を行っている九州大学大学院医学研究院地域医療教育ユニット准教授の貝沼茂三郎先生にご解説いただきました。

臨床の場では、西洋医学に基づく治療のみでは不十分と思われるときに、漢方薬を併せて処方することは珍しくありません

実際に、現在何らかの薬剤と共に漢方薬を服用されているという方も少なくはないでしょう。しかし、西洋医学と漢方医学の考え方には大きな違いがあります。

西洋医学では、患者さんの疾患の原因を突き詰めて解明し、その原因に対する治療を行います。たとえば、がんに対する「分子標的治療」(がん細胞にターゲットを絞った治療)などが、その代表として挙げられます。

また、西洋医学では「肝臓が専門」というように、患者さんを「臓器ごと」にみるという特徴もあります。このような西洋医学の在り方は非常に重要であり、私自身も非常に必要であると考えています。なぜなら、医師がそれぞれに専門領域を持ち、研鑽を積んで最新かつ高度な治療を行うことで、過去には治る見込みのなかった疾患が現在では治癒するものになっているからです。

しかしながら、人間の体は血液のみ、また臓器のみにより成り立っているわけではありません。全身の様々な神経・免疫・内分泌が関連し合うことで、健康な心身の状態は維持されています。

漢方医学とは、このような観点に立って一人の患者さんの「全体」をみるといった特徴を持っており、これが西洋医学の考え方との最大の違いであるといえます。

また、漢方医学の考え方の背景には、「私たち人間の体には、もともと自分の病気を自分で治そうとする力(自然治癒力)が備わっている」という考え方が存在しています。

端的な例を挙げると、人間は誰もががん化する可能性がある細胞を持っていますが、生涯がんに罹患しない人も大勢います。これは免疫細胞であるNK細胞(ナチュラル・キラー細胞)が常に全身をパトロールしており、異物(がん細胞)を見つけるたびに排除しているからです。

このように、人間の体には自らを守る機能が備わっており、全身のバランスが崩れたときに、この機能が働かなくなって不調が生じると考えるのが漢方医学なのです。

診察では、患者さんには何が不足しており、また何が過剰になってしまっているのか、つまりバランスがどう崩れているのかを、「その人の全体」をみて考えます。治療は、西洋医学のように病原体を駆逐するわけではなく、バランスが崩れてしまっている部分に“つっかえ棒を入れて支える”ようにアプローチするものとイメージしていただくと、理解が進みやすいでしょう。

また、漢方治療は、崩れた部分をつっかえ棒で支えるだけで終わるのではなく、その支えをとることまでを目標としています。たとえば、年中体調を崩している虚弱体質の方を、一晩眠ればスッキリと不調が消え去るような健康的な体質へと導くことが、漢方治療のひとつのゴールなのです。漢方治療の最終目標については、次の記事「漢方治療、いつまで続ければよい? 漢方治療の対象者と目標」で詳しく解説します。

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  • 富山大学附属病院 和漢診療科 診療科長・特命教授

    貝沼 茂三郎 先生

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