インタビュー

炎症性腸疾患の治療について

炎症性腸疾患の治療について
平井 郁仁 先生

福岡大学筑紫病院 准教授 、福岡大学筑紫病院 炎症性腸疾患センター 部長、日本大腸検査学会 会員

平井 郁仁 先生

この記事の最終更新は2016年04月19日です。

慢性的な下痢や腹痛などを主な症状とする炎症性腸疾患は、日常生活にも影響をおよぼし生活の質(QOL)を低下させてしまうことも少なくありません。しかし、適切な治療を受けることによってQOLを維持しながら通常の生活を送ることも可能です。福岡大学筑紫病院消化器内科の平井郁仁先生に炎症性腸疾患の治療法についてお話をうかがいました。

炎症性腸疾患は比較的若い年代の患者さんが多いため、成長していく過程の中で病気の治療に向き合わなければなりません。これから迎える人生の節目、例えば高校入試や大学入学、結婚や妊娠・出産などのほか、就職といったようなイベントに考慮した治療が必要になるのも炎症性腸疾患の特徴のひとつです。そういう意味においては、オーダーメード的な治療が求められる疾患ですが、同じ炎症性腸疾患でもクローン病潰瘍性大腸炎では治療法が異なります。

潰瘍性大腸炎は、良くなったり、悪くなったりする寛解(かんかい)と再燃(さいねん)を繰り返す慢性的な腸の疾患です。治療には、内科的治療と外科的治療がありますが、病態の重症度や病変の場所および範囲によって治療法は異なります。

寛解と再燃を繰り返す潰瘍性大腸炎では、症状が悪化しているとき(活動期)には「寛解導入療法」、症状が落ち着いているとき(寛解期)には「寛解維持療法」を行います。また、炎症の起こる部位には、直腸周辺を主な病変とする「直腸炎型」、直腸から脾湾曲部までの「左側大腸炎型」、全ての大腸に病変を有する「全大腸炎型」などがあり、重症度と病態を組み合わせて治療法を選択します。

寛解導入療法では、全大腸炎および左側大腸炎型の場合、軽症から中等症では、5-ASA製剤の経口剤や注腸剤の投与に加えてステロイド注腸などを行い、重症例では、プレドニゾロンの経口あるいは点滴治療を行います。直腸炎型では、軽症から重症例まで、5-ASA製剤の経口剤あるいは座薬やステロイド座薬、5-ASA製剤やステロイド注腸などを行います。そのほか、難治性の場合にはステロイド依存例とステロイド抵抗例を分類して治療法を選択します。一方の寛解維持療法では、非難治例と難治例に分け、非難治性では5-ASAによる経口および局所製剤、難治性には5-ASA製剤に加えてアザチオプリンなどの免疫調整剤を使用します。

潰瘍性大腸炎に対する手術の絶対的適応としては、

①内科的治療に反応しない重症や劇症例

②大量出血

③穿孔(大腸が破れる)

④中毒性巨大結腸症

がん化またはがんの疑い

⑥副作用のためステロイド剤が使用できない

などがあります。この他、個々の症例の状態に応じて外科手術が必要な場合があります(相対的適応といいます)。

潰瘍性大腸炎と同様に、症状が悪化している活動期には寛解導入を目的とした治療を行い、寛解導入後には維持療法を行います。完治は難しいため、治療は病勢のコントロールやQOL(生活の質)の向上を目的に行います。

治療法は、病変の部位や炎症の程度、合併症の有無などに応じて選択します。再燃時などでは入院が必要になる場合もありますが、軽症から中等症の場合には一般的に薬物療法や栄養療法で寛解導入が可能で、寛解維持療法および日常生活上の注意点などに気をつけてもらえば、通常の生活を送ることができます。

栄養療法というのは、通常の食事を少し減らして栄養剤を摂取する治療法です。 クローン病は、食べ物をある種の異物としてとらえることで各種の免疫反応やサイトカイン(免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質)により炎症を起こすと考えられているため、食事による「抗原性」を少しでも減らすことを目的としているのです。食事に関しては特に食べてはいけないというものはなく、規則正しい食生活をこころがけるととともに、摂取によって悪化する食品類などを理解することも必要です。

薬物療法では、5-ASA製剤やステロイド、免疫調節剤などを使用しますが、栄養療法と薬物治療を併用することで、効果が底上げされるという研究結果が報告されています。近年、炎症性腸疾患の病態が少しずつ明らかになってきたことで薬物療法が進歩しています。効果的な薬剤も数多く導入され、普及しています。中でも抗TNF-α抗体と呼ばれる抗体製剤は2002年以降から盛んに用いられており、潰瘍の完全消失(粘膜治癒といいます)をも可能にし、クローン病の自然史を変えつつあるといわれています。こうした治療の薬物療法の進歩で内科治療が成功することが増えてきましたが、腸の狭窄や合併症のため腸管切除術や狭窄形成術、人工肛門造設術などが必要な症例もいぜんとして少なくないのが現状です。将来的にはさらに内科治療が進歩し、患者さんの生活の質がますます向上することが期待されています。

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