インタビュー

強皮症の治療-新薬の登場によって治療の選択肢が増えている

強皮症の治療-新薬の登場によって治療の選択肢が増えている
佐藤 伸一 先生

東京大学 医学系研究科皮膚科学 教授、 東京大学医学部附属病院 副院長

佐藤 伸一 先生

この記事の最終更新は2016年04月18日です。

2016年現在、強皮症の治療に関する臨床試験が複数進められています。新しい薬の登場は、治療の選択肢を増やすことになります。東京大学医学部皮膚科学教室 教授 佐藤伸一先生はこれらの臨床試験を進めておられます。本記事では、新しい新薬についてお話しいただきました。

強皮症の症状は患者さんによって異なります。

したがって、その患者さんの病態にあわせて治療が行われます。強皮症は近年研究が進んでおり、臨床試験としてではありますが、新しい薬が患者さんに使用され効果がえられています。新しく研究が進められている薬、ならびにその薬によって効果がえられる症状は以下のとおりです。

肺線維症は患者さんの予後(病気の経過の見通し)を決める重要な疾患です。

肺線維症に対してどのような治療を行うかによって予後が改善できるかどうかが決まります。肺には酸素と二酸化炭素を交換する肺胞(はいほう)があります。この肺胞の周りには毛細血管が流れる“間質”とよばれる組織があります。この間質が慢性的に線維化することを肺線維症といいます。肺線維症になると息切れや痰をともなわないせきなどがあらわれます。症状が悪化すると酸素がうまく取り込めなくなり息苦しくなります。

20年前は“座して診るのみ”というような考え方がありました。肺線維症においては何をしても効果がなく、むしろ治療すればするほど治療の副作用がでてしまうため、何もしないほうがよいという消極的な姿勢でした。その姿勢が、10年前のシクロホスファミドの登場によって少しずつ変わってきました。強皮症におけるシクロホスファミドの臨床試験の結果では、肺線維症が改善するという結果が得られ、シクロホスファミドは肺線維症の標準的な治療となりました。

ところが、当初効果があったシクロホスファミドですが、軽症の患者さんには改善がみられましたが、重症の患者さんには効果が得られませんでした。また、長期服用によって不可逆性(元に戻せないこと)の無月経症を起こしてしまうため、若い女性に使用してしまうと妊娠の可能性を失ってしまうことになります。

そこで現在私たちは、リツキシマブという悪性リンパ腫に対する治療薬を強皮症の治療薬として用いる研究を行っています。臨床試験の結果では強皮症における肺線維症に非常に効果があることがわかっており、呼吸器機能がシクロホスファミド使用時よりも改善がみられました。臨床試験では、従来のシクロホスファミドでは効果が不十分な肺線維症の患者さん、若い患者さんにリツキシマブを投与しています。現在、医師主導の治験*に移行するための準備を行っています。

医師主導治験:医師自らが治験を企画・立案し、治験計画届を提出して治験を実施すること

皮膚硬化では亡くなることはありませんが、手足が不自由になり正座もできなければQOL(生活の質)が非常に下がります。現在は、副腎皮質ステロイドが使用されていますが、多量を長期に服用すると感染症の増悪、骨粗しょう症、消化管潰瘍などの副作用がでてしまいます。そこで現在進めているのがトシリズマブという、関節リウマチの治療薬を強皮症の治療薬として用いる臨床試験です。現在5例の患者さんに使用していますが、非常によい効果が得られています。トシリズマブによって、ステロイドの用量を減らすこともできますので、ステロイドに伴う副作用も減らすことができます。

ボセンタンという薬は血管を広げ血流をよくする薬です。強皮症では、血流が悪くなることで、皮膚(特に指先)の潰瘍、壊疽が起こる場合があります。ボセンタンはこれらの症状に非常に効果があります。服用してから効果があらわれるまで1か月程度かかりますが、患者さん自身も実感できるほどの効果が期待できます。

肺高血圧症の治療薬は、以前まではカルシウム拮抗薬しかありませんでした。現在はポンセタンやPD5阻害薬(ホスホジエステラーゼ5阻害薬)などのカルシウム拮抗薬に代わる治療薬が登場しています。肺高血圧症は早期に発見できれば早期からコントロールできる可能性が高まってきました。

近年ループス腎炎(全身エリテマトーデスによって生じる腎障害)に保険適用となりました。現在は強皮症でも保険で使用できるよう、臨床試験の準備を行っています。先述したとおり、強皮症は免疫異常をベースにしていると考えられているため、ミコフェノール酸モフェチルで免疫異常を抑えることで強皮症の症状を抑えることができると期待できます。

ミコフェノール酸モフェチルは現在標準治療であるシクロホスファミドに変わる治療薬と期待されています。シクロホスファミドは副作用の観点から長期的に服用することが難しいです。そこで、欧米ではシクロホスファミドとミコフェノール酸モフェチルを二重盲検試験*で比較しました。効果は同等でしたが、副作用はミコフェノール酸モフェチルのほうが非常に少ないという結果でした。これを受けて、欧米ではシクロホスファミドからミコフェノール酸モフェチルに移行しつつあります。日本でもミコフェノール酸モフェチルなどの新薬が適用になることで、治療の選択肢が広がります。

二重盲検試験:治験薬を服用する群と治験薬以外を服用する群にわけ、患者さんだけでなく治験担当医師を含む医療スタッフにもどちらの薬を使用しているか知らせずに行う治験方法

5〜6年は治療を続ける必要があります。これは発症5〜6年の間に強皮症の主な症状が出現する確率が高いためです。もちろん、治療はそれ以降も継続することが多いですが、最初の5〜6年は特にしっかりと治療をする必要があります。例えば、強皮症(特に抗トポイソメラーゼⅠ(Scl-70)抗体の場合)は、発症してから最初の2年程度で症状の80%があらわれ、約5〜6年でほとんどの症状があらわれます。その間病態を悪化させないように治療に取り組むことが重要です。その間を悪化させずに乗り切ることができれば、その後は自然に改善することがありますので、決して短くはない期間ですが、一緒に目標を持って頑張っていきましょう。

これまで述べたとおり、新しい薬の研究が進んでおり治療の選択肢が増えています。ですから患者さんには難病だからと気を落とさず、希望をもって治療に臨んでいただきたいと思っています。我々医師も、これ以上治療法がありませんという状況は非常に苦しいですし、それ以上に患者さんが苦しむことになります。治療の選択肢をたくさん用意しておくことが、私たち東京大学医学部皮膚科学教室が研究を行う意義であると考えています。ただし、先述した臨床試験は限られた施設でしか行われていませんので、専門医リストを参考にして専門医を受診していただきたいと思います。(関連記事:「強皮症の症状-強皮症を疑うチェックリスト」

近年インターネットの普及にともない、正しい情報を判断することが難しくなってきていると感じます。しかし、強皮症は早期に専門医を受診して治療を行えるかどうかによってその後の人生を大きく変えます。ですから、専門以外の医師だけではなく患者さんにも正しい知識をもっていただくことが重要であると考えています。患者さんが病気に対する正しい知識をもたないと、不必要な心配をし、前向きになれず精神的につらい思いをされるのです。

このようなことを少しでも減らすために、新しい治療を研究していくとともに、今後は現在発刊されているガイドラインの改訂や医師向け患者さん向けの本も作り直す予定です。強皮症の治療は日進月歩です。正しい情報を発信し続けることもわれわれ専門医の使命だと感じています。

(※参考:「全身強皮症診療ガイドライン」

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