インタビュー

摂食嚥下障害の検査と治療

摂食嚥下障害の検査と治療
戸原 玄 先生

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーショ...

戸原 玄 先生

この記事の最終更新は2016年04月22日です。

摂食嚥下障害(せっしょくえんげしょうがい)の検査には大きく分けて嚥下造影検査(VF:Videofluoroscopic examination of swallowing)と嚥下内視鏡検査(VE:VideoEndoscopic examination of swallowing)の2つがあります。検査結果に基づいて行われる治療や手術の適応などについて、東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 老化制御学系口腔老化制御学講座 高齢者歯科学分野 准教授の戸原玄先生にお話をうかがいました。

嚥下造影(えんげぞうえい)といって、造影剤を使う検査があります。これはバリウムを飲んでいただき、その様子を横と正面から撮影して、飲んだものがどのように通過していくのか、またその際にどこがどのように動いているのかを見る検査です。

嚥下造影検査よりも多く行われているのが経鼻的(鼻を経由する)嚥下内視鏡検査(VE)です。検査に使用する機器が比較的安価であることに加え、私の場合は往診が非常に多いので、往診に持って行けるという点が大変便利です。

鼻から内視鏡を入れるので多少の不快感はあるかもしれませんが、痛みはそれほどありません。検査の際に暴れられてしまうような方以外であれば、ほとんどの方に検査が可能です。

摂食嚥下障害の精査
左:嚥下造影検査 右:嚥下内視鏡検査

歯科的な治療のひとつにPAP(Palatal Augmentation Prosthesis:舌接触補助床)というものがあります。舌が萎縮するなど動きが極端に悪くなると、舌が上顎に触れることができなくなり、食べ物や飲み物を送り込むことができなくなることがあります。

このような場合、厚みのある入れ歯状のものを入れることで上顎の天井を低くし、舌が届くようにするというのがPAPです。保険適用になっていますので、保険診療の範囲内で作ることができます。進行性の疾患がある方でも関係なく使うことができますし、特別な訓練も必要ありません。私も時々患者さんに使いますが、かなり効果が期待できる方法です。

舌接触補助床作成画像
舌接触補助床の設計から調整まで

 

PAP装着イメージ
PAP装着イメージ

 

病気の種類でいえば、著しい球麻痺(きゅうまひ)症状(延髄の障害による舌・咽頭・喉頭などの麻痺)が手術の適応ということになりますが、球麻痺といっても軽いものであれば手術をする必要はありません。

たとえば唾液の誤嚥(ごえん・誤って気管に入ること)が非常に多く昼夜を問わず吸引が必要であるなど、介護するご家族の疲弊が限界に達しているような場合には、誤嚥を防止する手術を検討します。ただしその場合も、患者さんが1年以内にお亡くなりになるような状況ではなく、その手術をすることによって5年ぐらいは安全に過ごせるであろうという見通しでなければ、なかなか手術に踏み切ることはできません。

嚥下障害の手術はその目的によって大きく2種類に分かれます。ひとつは先に述べた誤嚥の防止で、もうひとつは飲み込みやすくするために喉の形状を変えるものです。

飲み込めるように喉の形を変える手術の場合、体はある程度元気で喉だけが麻痺しているという方に対して行うことが多くなります。一方、誤嚥の防止のみを目的に手術を行う場合は、体もあまり動かず寝たきりで、唾液の誤嚥も多いために在宅で介護するには吸引が欠かせないという方が対象になります。

抗けいれん剤を服用していると、基本的に力が抜けて頭がぼんやりする傾向があります。もちろん必要があって処方されている薬ではあるのですが、食べる機能を考えれば決して良いものではありません。また、抗精神病薬や吐き気止めの薬の中には、パーキンソン症状を引き起こすものがあり、副作用によって飲み込めなくなってしまっている方も少なくありません。

このような薬の使用を減らすことによって嚥下機能が改善することがあります。これも条件を整え、良くない条件を取り除くという意味では、ひとつの環境調整といえるのかもしれません。

胃ろう(口から十分な栄養がとれない患者さんのために、内視鏡を使ってお腹と胃に作った小さな穴のこと)の患者さんの嚥下機能を調べたところ、77%の方は誤嚥なく食べることができたという結果が出ています。(※近藤和泉:在宅療養中の胃瘻患者に対する摂食・嚥下リハビリテーションに関する総合的研究報告書,平成23-25年度厚生労働科学研究費補助金長寿科学総合研究事業)もちろん、その77%の方たち全員がすぐに食事ができるというわけではありませんが、食べる訓練をすることは可能でした。

残念ながらその方たちに訓練を継続していただき、食べられるようになった期間や人数のデータを取ることはできていませんが、感覚としては半分には満たないものの、おそらく2〜3割の方は誤嚥なく食べられるようになるのではないかという感触を得ています。意識障害や重度の廃用(使わないために体の機能が低下すること)がなければ、多少なりとも誤嚥なく食べることができる方は多いのではないでしょうか。

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  • 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授、東京医科歯科大学病院 摂食嚥下リハビリテーション科 科長

    戸原 玄 先生

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