インタビュー

便秘症治療の現状と課題

便秘症治療の現状と課題
味村 俊樹 先生

自治医科大学 医学部 外科学講座 消化器一般移植外科学部門 教授

味村 俊樹 先生

この記事の最終更新は2016年04月25日です。

指扇病院副院長・排便機能センター長の味村俊樹先生は便秘・便失禁など排便機能障害の研究・診療における日本のトップランナーとして「慢性便秘症診療ガイドライン」の作成にも尽力されています。しかし便秘に対する正しい知識はまだ十分広まっておらず、他の病気と同じように治療に取り組む例は少ないといいます。味村俊樹先生に便秘症治療の現状と課題についてお話をうかがいました。

これまでの記事でお話ししたことから、一般内科などで慢性便秘症の患者さんを診る場合、診断から治療に至る流れは以上のようになります。しかし、実際にはなかなかこのような形で診療が行われることは少ないというのが現状です。

問診・診察の結果、排便回数減少型であればまず食物繊維の摂取量をチェックします。しかし便秘の方に対して食物繊維を摂るように食事・栄養指導を行っても、保険適用にはなりません。これに対して糖尿病高血圧などの生活習慣病に対する食事・栄養指導は当然、保険適用になっています。つまり、これだけ多くの方が困っているにもかかわらず、便秘は病気として認められていないのです。

高齢の方の場合はなかなか食習慣を変えられるものではありませんから、難色を示す方には無理強いをせず、便の量を増やして食物繊維と同じ効果が得られるポリカルボフィルカルシウムなどの薬剤を使用します。ただし、まだ若い方の場合にはできるだけ栄養指導を受け、食習慣を改善することをおすすめします。便秘を治すことも大切ですが、食物繊維を適量摂り正しい食習慣を身につけることは将来の生活習慣病予防に役立つからです。もしそれを薬に頼ってしまうと、一生その薬を使い続けなくてはなりません。

記事4「便秘の食事・生活習慣指導と薬物療法」でもご説明したように、下剤の使い方などに対する誤解は少なくありません

私が英国のセント・マークス病院留学時に師事していたマイケル・カム教授は、2005年に発表した「慢性便秘症に対する迷信と誤解」という論文(Myths and Misconceptions About Chronic Constipation. Am J Gastroenterol 100: 232-242, 2005)の中で次のように述べています。

「常用量の下剤が大腸に有害である可能性は低い」

「刺激性下剤に耐性が生じることは稀である」

「下剤が濫用されることはあるが、嗜癖(addiction:くせ)になる可能性はない」

「食物繊維の豊富な食事で改善する患者もいるが、重症の便秘患者は食物繊維摂取を増やすと便秘症状が悪化する場合が多い」

(※参考リンクhttp://www.nature.com/ajg/journal/v100/n1/full/ajg200534a.html

私は何も便秘に対して最先端の医療を行うべきだと言っているのではありません。糖尿病高血圧などの生活習慣病と同じように,普通に治療をするべきだと考えているのです。

・患者さんに薬を出して好きなように使ってもらうのではなく、正しい薬の使い方を指導する

・正しい使い方ができていない患者さんに対しては排便日誌をつけてもらい、モニターしながら投与量を決める

これらは糖尿病や高血圧の治療では当然のごとく行われていることです。それがなぜ便秘の治療では行われないのでしょうか。糖尿病の患者さんにいきなりインスリン注射を指示することはありません。まず食事・栄養指導を行い、次に経口糖尿病薬で血糖値をコントロールします。同じように便秘に対しても最初から刺激性下剤を使うべきではないと考えます。

記事冒頭の「一般医家における慢性便秘症診療のアルゴリズム」では,「専門施設への紹介」の後に専門的検査である大腸通過時間検査や排便造影検査を行うことを示していますが、実際にはその手前の段階で8割方の患者さんを治すことができます。食物繊維の摂取や酸化マグネシウムの投与といった、いわゆる「診断的治療」によって治せる方が多いのです。それでも良くならない方だけが専門的な検査や治療を受ければよいのです。

幸いなことに近年、ルビプロストンという新しい薬が使えるようになり、一般内科の医師の間でも便秘治療に対する関心が高まりつつあります。私も,便秘でお困りの方がひとりでも多く適切な治療を受けられるよう、「慢性便秘症診療ガイドライン」の作成などを通じて、正しい便秘診療の普及に努めていきたいと考えています。

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