インタビュー

気管形成術の進歩と発展―東京都立小児総合医療センターにおける気管形成術とは

気管形成術の進歩と発展―東京都立小児総合医療センターにおける気管形成術とは
小森 広嗣 先生

小森こどもクリニック 院長、東京都立小児総合医療センター外科 元医長(診療科責任者)

小森 広嗣 先生

この記事の最終更新は2016年06月05日です。

生まれつき気管が細くなっている先天性気管狭窄症では、気管形成術によって太い気管をつくる治療が行われます。東京都立小児総合医療センターでは、気管が左右に分岐している部分で狭窄が生じている場合、手術後の再狭窄を防ぎ内腔が十分に拡がった状態にするために「逆Y字切開」という方式をとっています。東京都立小児総合医療センターで行っている気管形成術の特色と術後の経過などについて、外科で診療科責任者を務める医長の小森広嗣先生にお話をうかがいました。

東京都立小児総合医療センターでは、気管分岐部における気管狭窄に対して、従来の縦切開によるスライド式気管形成術ではなく、気管分岐部の逆Y字切開法による形成を行っています。

従来行われていた縦切開による術式では、気管の分岐部付近の拡張が不十分になってしまうことがあり、またそのすぐ上のところで狭窄が起きてしまう問題がありました。そこで我々は、左右の気管支にかけて逆Y字に切開を加えて縫合する術式を開発しました。この工夫によって従来の術式よりも内腔が拡がりやすくなります。

気管分岐部で左右に切り込むことにはリスクもあります。切り込んだことでかえって瘢痕(はんこん・傷が治るときにできるしこりのような組織の変性)で狭くなると困るのですが、あらかじめ切り込むポイントを明確にして、硬い軟骨のフラップを上側から被せるとその部分が強度を増します。

 

軟骨Flapによる拡大術(画像提供:小森広嗣先生)

特に肺動脈スリング(心臓から肺に向かう肺動脈が気管に絡まるような形で肺につながっている先天異常)を合併している場合、気管分岐部付近の強度が非常に弱くなっているため、通常の術式で形成しただけではその部分の強度不足が残ってしまいます。そこで左右に切り込んで硬い軟骨を上からかぶせることによって、本来のいわゆる馬蹄形の骨に近いイメージで、全周の強度が強くなるのです。

従来の縦切開では限界があり、強度的に弱いポイントが残ってしまいます。

逆Y字切開を行っていなかった場合は、窒息のリスクはなくなっても人工呼吸器を外すことができない場合があります。また、その結果として気管を切開しなければならないことも起こってきます。東京都立小児総合医療センターでは逆Y字切開法を行うことで抜管率(ばっかんりつ・人工呼吸器を外せる割合)が高くなりました。

中にはもともと喉頭軟化症(喉頭の軟骨組織が弱い状態)がある場合や、片肺で換気の補助が必要な場合、あるいは結果的に中枢の問題が残って、いわゆる寝たきりで気道確保が必要な場合もあります。しかしそういった子どもたちを除けば、抜管ができなかったというケースはありません。

今後はより厳しい症例も増えてくると考えられますので、100%の抜管率を保証できるものではありませんが、少しの工夫で大きな違いを生むこともあると考えています。非常にシンプルな部分ではあるのですが、切り込み方や縫合の仕方などは、積み重ねていくと洗練されてくるところがあります。我々のような外科としては、「その術式自体の安定度をより高める」ということを常に考えています。

手術直後のいわゆる急性期さえ無事に乗り切ることができれば、その後の生活で気をつけていただかなければならないことは特にありません。年に1回は必ずCTと気管支鏡の検査を受けに来ていただくようにしているだけです。

ご家族に対してはいつも「1ヶ月が勝負です」ということをお伝えしていますが、その中でも術後1週間から2週間が特に重要です。やはり縫合不全のリスクとして一番注意しなければいけないのは術後1週間であり、2週間をすぎて何もなければ、その後にまず問題は起きないということができます。

もちろん手術をして窒息の心配がなくなっても、風邪をひくと治りにくかったりゼイゼイしたりするということはあります。我々としては、「もう窒息することはありませんから安心してください」とお話をしているのですが、ご両親は子どもが窒息状態に陥ったときの記憶がトラウマとなっているため、風邪をひいてゼコゼコし始めると「本当に大丈夫なのだろうか」と心配になってしまうというお話はよく耳にします。

幼い子どもは成人よりも回復が早いという事実も勿論あります。人工呼吸器をつけて1ヶ月間寝かされていた子どもが元気に走り回れるようになる姿を見るたびに、大人との違いを感じます。成長の要素もあるでしょうし、その中の自己調整というものもあります。勿論急性期には手術で救命する必要があるのですが、子どもが自分自身で回復している面もあるということを感じています。

 

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