【インタビュー】

膝の人工関節手術と経過 術後のリハビリや入院期間はどの程度か

公開日 2017 年 03 月 07 日 | 更新日 2017 年 10 月 02 日

膝の人工関節手術と経過 術後のリハビリや入院期間はどの程度か
山本 謙吾 先生

東京医科大学整形外科学分野 主任教授

山本 謙吾 先生

 

膝の人工関節手術には、人工膝関節単顆置換術(UKA)や人工膝関節全置換術(TKA)があります。現在の膝の人工関節は耐久性に優れ、確実にリハビリテーションを行うことで長期にわたり同じ人工関節での生活が可能となります。引き続き、東京医科大学病院整形外科主任教授の山本謙吾先生に、膝の人工関節手術についてお話しいただきました。

膝の人工関節手術の種類―人工膝関節単顆置換術(UKA)と人工膝関節全置換術(TKA)の違いは?

膝の人工関節手術には大きく分けて2種類あり、膝の状態の程度によってどちらの手術が適応されるかが異なってきます。

人工膝関節単顆置換術(UKA)

人工膝関節単顆置換術(UKA)は、関節の損傷が内側か外側のどちらかに限定されている、比較的軽度な状態の疾患に適応されます。損傷している部分のみを人工物に置き換える手術であるため損傷部位以外を温存できて膝への負担が少なく、術後の運動機能の回復も早いといったメリットがあります。

人工膝関節単顆置換術(UKA)は1980年代からある手法ですが、これまではあまり普及していませんでした。ただし、2000年代に入って以降新法が開発され始め、侵襲性を低くする目的で使われることが多くなり、症例数が増えてきています。

人工膝関節全置換術(TKA)

人工膝関節全置換術(TKA)は膝関節の損傷が左右両方まで及んでいる、重度な状態の疾患に適応されます。膝関節を完全に入れ替えるため、手術での負担は比較的大きくなってしまいますが、痛みの再発が予防できるというメリットがあります。

人工膝関節単顆置換術(UKA)と人工膝関節全置換術(TKA)の比率は?

このふたつの術式は、病変の範囲によって使い分けられますが、東京医科大学のような規模の大きい病院にいらっしゃる患者さんは重症の方が中心です。そのため、東京医科大学の場合、比率としては人工膝関節全置換術(TKA)の適応が圧倒的に多くなっています。

**人工物を使用しない膝関節手術が適応になる場合もある**

今回は人工膝関節手術についてお話ししていますが、軟骨の損傷がみられない軽度の損傷の場合は、骨切術(骨を切って角度を変え、関節の変形を正す治療法)を行って対応することもあります。適応の幅は狭いのですが、人工物を使わない治療法は術後感染の危険性が少ないというメリットもあり、また人工関節自体に抵抗を感じる患者さんもいらっしゃるため、患者さんが希望される場合は医師と相談しながら決定していきます。

膝の人工関節手術の流れ―人工膝関節単顆置換術(UKA)と人工膝関節全置換術(TKA)

人工膝関節全置換術の様子
東京医科大学整形外科の実際の手術風景(画像提供:山本謙吾先生)

人工膝関節置換術では、変形してしまった膝関節の表面を取り除き人工関節に置き換える手術が行われます。膝の人工関節も人工股関節と同様、ミリ単位でサイズの異なるものが作られており、患者さんに最適な大きさ・太さ・長さの人工インプラントが使用されます。

人工膝関節全置換術(TKA)に用いられる膝の人工関節

手術では、全身麻酔あるいは腰椎麻酔、硬膜外麻酔をかけたのち、膝の前あるいは横の皮膚を切開して、損傷している膝の骨をすべて取り除きます。そこへ代わりとなる人工関節を挿入します。膝を固定するため、特殊なセメントを使用する場合もあります。切開した皮膚は、医療用のホッチキスかもしくは糸で縫合します。

人工膝関節全置換術(TKA)

膝の人工関節手術で左右両膝を手術する場合は別々に行う

左右両膝に人工膝関節置換術を行う場合、左右の手術日は同時ではなく、異なる日程となります。患者さんから特別な希望があれば対応することもできますが、原則的には手術のリスクを少しでも下げ、かつリハビリの期間を短縮するため別々に行っています。

1回目の手術から2回目の手術を行うまでの期間は条件によって異なりますが、基本的にはヘモグロビンや赤血球などの血液データが正常値に戻り、術前に自己血の貯血ができる状態になるまでとされます。これに加えて、筋力の回復程度も考慮します。手術を行ったほうの脚の筋力が戻っていないときに反対側の膝にも手術をするとリハビリが遅れてしまうためです。

膝の人工関節手術の手術時間や入院期間はどのくらい?

膝の人工関節手術の手術時間は人工股関節手術とほぼ同じで、一般的に約30分~1時間程度です。膝の人工関節手術の入院期間も人工股関節手術と差はなく、術前の検査入院を含めて約3週間程度の入院が目安になります。

膝の人工関節手術の費用は? 高額療養制度の活用

人工股関節手術と同様、高額療養制度が適応されます。東京医科大学は術前の段階で、費用について患者さんにご説明する時間を設けています。

 

高額療養制度一ヶ月あたりの自己負担限度額

年齢

世帯所得の状況

限度額の計算式

医療費が200万円の場合
(計算式による)

70歳
未満

健保:標準報酬月額83万円以上の方
国保:年間所得901万円超の方

252,600円+(医療費-842,000円)×1%

264,180円

健保:標準報酬月額53万円以上83万円未満の方
国保:年間所得600万円超901万円以下の方

167,400円+(医療費-558,000円)×1%

181,820円

健保:標準報酬月額28万円以上53万円未満の方
国保:年間所得210万円超600万円以下の方

80,100円+(医療費-267,000円)×1%

97,430円

健保:標準報酬月額28万円未満の方
国保:年間所得210万円以下の方

57,600円

57,600円

住民税非課税の方

35,400円

35,400円

70歳
以上

健保:標準報酬月額28万円以上
課税所得:145万円以上

80,100円+(医療費-267,000円)×1%

97,430円

健保:標準報酬月額26万円以下
課税所得145万円未満

44,400円

44,400円

住民税非課税の方

24,600円

24,600円

住民税非課税の方(所得が一定以下)

15,000円

15,000円

引用元:厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jiritsushienhou04/index.html

膝の人工関節手術で再手術の可能性は?

人工股関節にも同様のことがいえますが、膝の人工関節はかつて耐久性が10年程度であり、60代で手術をした場合は再手術が必要となることが多くありました。しかし、現在は人工物の質が向上し、耐久性は20年以上にまで延びてきているため、人工関節の劣化による再手術の可能性は減少傾向にあるといえます。勿論、20年以内に人工関節がすり減って緩んでしまった場合は再手術が必要です。

膝の人工関節手術の合併症を防ぐために―静脈血栓症への対策に抗血栓薬は有効か?

東京医科大学で膝の人工関節手術を行う場合、術後の合併症対策のために患者さんには術前検査入院をしていただき、全身検査を行います。

膝の人工関節手術後に最も起こりやすい合併症は静脈血栓症で、人工膝関節全置換術(TKA)を受けた方の場合では約半数が発症しているともいわれます(無症候性のものを含みます)。この原因ははっきりと分かっていませんが、膝の人工関節手術の場合は手術時にターニケットという膝を圧迫して血を止める道具を使うため、それが影響する可能性もあると考えられています。

ターニケットによる下肢圧迫

静脈血栓症を予防するために抗血栓薬が処方される場合もありますが、残念なことに抗血栓薬を使用していても膝の人工関節手術後には静脈血栓症が起こってしまうのが現状です。むしろ使用することによって術後の出血量が多くなり、リハビリテーションに影響が出てしまうため、予防効果として確実であるかどうかは疑問が残ります。ただし、より重症の合併症である肺梗塞を予防する意味では抗血栓薬が非常に重要となりますので、抗血栓薬の使用に関しては意見が分かれるところです。

膝の人工関節手術後、リハビリテーションは「関節の曲げ伸ばし」と「太ももの筋肉のトレーニング」が重要

人工膝関節手術を行った後は入院してリハビリテーションを受ける必要があります。リハビリテーションの内容としては、大きく分けて「膝関節の硬直を防ぐ関節運動(関節可動域訓練)」と「太ももの筋肉を鍛えるトレーニング(筋力強化訓練)」の2点です。

膝関節を曲げたり伸ばしたりするリハビリテーション「関節運動」

関節運動

関節可動域訓練とは、膝関節をスムーズに動かせるように繰り返し膝の曲げ伸ばしを行うリハビリテーションです。術後の状態を放置しておくと膝関節の可動範囲が徐々に狭くなってしまい、歩行や階段昇降などの日常生活動作に支障をきたしてしまうので、膝が120度曲がるようになることを目標にして毎日運動を行っていきます。

(※120度は、自転車をこぐために必要な膝の角度と考えられています)

大腿四頭筋(太ももの筋肉)を重点的に鍛える筋力トレーニング

大腿四頭筋(太ももの筋肉)を中心に鍛え、強化していきます。膝の人工関節の手術後は大腿部の筋力低下が著しいため、放置しておくと膝を完全に伸ばせなくなってしまったり、立ち上がりや歩行が困難になったりする恐れがあります。そのため、術後には筋力トレーニングを実施して機能を回復させることが大事です。

運動を行う上では、決して無理をせず痛みを感じるまではやらないようにしましょう。運動は勢いをつけずゆっくりと行い、翌日に痛みが残った場合は回数を少なくして、膝を痛めないように注意します。

筋力トレーニングは手術していないほうの脚も行い、同じ動作を各脚20回繰り返します。

筋力トレーニングについては、膝の曲げ伸ばしや脚上げ、お尻上げといったメニューを東京医科大学病院が作成したパンフレットで紹介しています。

東京医科大学では人工膝関節の術後のリハビリテーションについて独自にパンフレットを作成しており、患者さんに詳細を説明しています。

膝の人工関節手術の後、日常生活では何に注意する?

人工膝関節の術後に日常生活を送るうえでは、以下の3点を意識しましょう。

  • 正座が必要な活動を避ける
  • 静脈血栓症の予防を徹底する
  • なるべく外出し、歩行する

正座が必要な活動を避ける

そもそも人工膝関節では正座ができない方が多いのですが、日常生活や習い事などの際無理に正座になり、膝を深く曲げてしまうと膝の人工関節が破損してしまうことがあります。

静脈血栓症の予防―下肢はなるべく動かすようにする

前述したように、静脈血栓症は膝の人工関節手術の後で最も多い合併症です。最悪の場合、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしてしまうことがあります。

人工膝関節の術後は定期的に下肢の運動を行い、血液の循環を良くすることが重要です。

なるべく外出し、歩行する

記事1『人工股関節の手術と経過 術後のリハビリや入院期間はどの程度か』でも述べたとおり、退院後は家にこもりきりにならず、定期的に外出しましょう。医師から許可がおりるまでは杖を使用し、1日5000歩程度を目安に歩くことで膝関節の硬直や筋力低下を防止します。

 

人工関節(山本謙吾先生)の連載記事

関連記事

「変形性膝関節症」
のページへ