インタビュー

慢性膵炎の症状・原因・治療ー膵炎のリスクを高める飲酒量とは?

慢性膵炎の症状・原因・治療ー膵炎のリスクを高める飲酒量とは?
糸井 隆夫 先生

東京医科大学病院 消化器内科 主任教授

糸井 隆夫 先生

この記事の最終更新は2016年06月23日です。

長期にわたり、背中の左側やみぞおちに鈍く重みのある痛みの症状が現れる「慢性膵炎」。原因のほとんどはアルコールによるものであり、治療でも薬剤や内視鏡を用いた対症療法のほか、禁酒・断酒などの生活指導が肝要になります。発症すると膵がんにかかるリスクも健康な人の8倍~26倍にまで上昇してしまうという慢性膵炎の原因と治療、危険な飲酒量について、東京医科大学消化器内科教授の糸井隆夫先生にお伺いしました。

慢性肝炎の原因となるアルコール

慢性膵炎とは、膵臓に持続性の炎症が起こり、破壊された細胞が線維化して硬くなってしまうことで、膵臓本来の機能が失われてしまう慢性疾患です。

慢性膵炎の原因のほとんどは、アルコールによるものです。

1日純エタノール80g(日本酒4合弱、ビールなら4本)を10年以上

日本人と外国人では消化酵素の分泌量にも差があるため、同じ量のお酒を飲んだ場合、おそらく日本人のほうが膵炎をはじめとする疾患のリスクが高まるものと考えられます。

この他の原因として、胆石や原因不明(胆石が胆管から十二指腸に落ちてしまい、原因が特定できなくなったものも含む)など、急性膵炎の原因と同様のものや、急性膵炎が治まり、慢性膵炎となるパターンもあります。

また、遺伝により起こる遺伝性膵炎の場合、幼少期から腹痛や下痢、嘔吐などの急性膵炎様発作を繰り返して慢性膵炎へと進行します。この疾患の患者数は海外では多いものの、日本では100家系以下と報告されています。(2011年の厚生労働省による全国調査では、82家系214症例)

全体:アルコール性56%、原因不明18%、その他(胆石、膵管癒合不全、脂質異常)7%

男性:アルコール性70%

女性:原因不明45%、アルコール性24%

遺伝性膵炎:常染色体優性遺伝、トリプシノゲン遺伝子、幼少期から再発性膵炎(このうち50%が慢性膵炎)

急性膵炎の典型症状は、みぞおちを中心とした腹部の刺すような痛みであると述べました。一方の慢性膵炎では、比較的重く鈍い痛みが、背中の左側やみぞおちに現れます。夕方になると、背部に痛みが現れるという患者さんも多くいらっしゃいます。

また、急性膵炎とは異なり、慢性膵炎では下痢や下痢に伴う体重の減少もみられます。頻度は高くないものの、便が薄い黄色みを帯びて水に浮く脂肪便が認められる場合もあります。これら軟便化の原因は、消化酵素を含む膵液を分泌する細胞(膵臓の外分泌細胞)が障害されるため、消化・吸収不良が起こるためです。

膵臓は、消化酵素を含む膵液の分泌(外分泌)と共に、血糖値を正常に保つインスリン分泌(外分泌)も行っています。

そのため、慢性膵炎により膵臓が線維化して正常な機能が損なわれると血糖値を調整できなくなり、結果として糖尿病を合併する症例が非常に多く見受けられます。

文献によって数値は8倍~26倍と異なるものの、慢性膵炎の患者さんは健常人に比べて明らかに膵がんを発症するリスクが高くなっています。これは、慢性的な炎症が長期的に持続することによるものと考えられます。さらに遺伝性膵炎では、健常人の50倍の確立で膵がんになりやすいともいわれています。

しかしながら、膵がんとは非常に難しいがんであり、なぜ浸潤がんになるのか、また、早期がんから進行がんに至るまでにどのような流れを辿るのか、現時点では解明されていません。そのため、慢性膵炎と診断されている方が膵がんを予防するためにできる治療や検査も確立されていないという課題があります。

ただし、慢性膵炎糖尿病を合併している患者さんの場合、膵がんの発見に至る過程にはひとつの特徴があります。それは、今までコントロールがうまくいっていた血糖値に突然ばらつきが生じ、CTによる画像検査をしてみたところ膵がんがみつかるというものです。

ですから、糖尿病を専門に診る科の先生にも、「血糖コントロールがうまくいかなくなったら膵臓の検査をしていただきたい」とお伝えしています。膵臓はエコーでは鮮明に細部まで写らないため、造影CT検査を行っていただくのがよいでしょう。

このように、慢性膵炎の患者さんを診る際には他科との連携と互いの知識や情報の共有が必要です。

慢性膵炎を疑う場合、腹部超音波検査、もしくはCT検査を必ず行います。石灰化や膵石症などの画像所見がみられれば、多くの場合確定診断がつけられます。

慢性膵炎腹部超音波
慢性膵炎(膵石)の腹部超音波像:写真提供 糸井隆夫先生
慢性膵炎の膵石のCT像
慢性膵炎(膵石)のCT像:写真提供 糸井隆夫先生

外来で行えるEUSは、患者さんの体に負担が少ない低侵襲な検査であり、膵臓の実質や膵石を調べることが可能です。そのため、慢性膵炎の診断において、最も有用な内視鏡検査のひとつといえます。

現在、膵臓の線維化の程度を調べるEUSを用いた検査のひとつにエラストグラフィーというものがあり、今後はこのエラストグラフィーの活用が期待されています。

稀に、膵管狭窄や胆石があり、治療を行う目的でERCPを行うことがあります。ただし、ERCPは侵襲が高く検査後に急性膵炎を合併(検査後膵炎)するといったリスクもあるため、現在は検査の時点ではERCPはほとんど行われていません。

これに代替するものとして、現在は膵管や胆管を同時に描出できるMRCP(MRI装置を用いた検査)が行われるようになっています。

また、全ての症例において行うわけではありませんが、膵臓から分泌される消化酵素量の減少をみるため、膵臓の外分泌試験を行うこともあります。

慢性膵炎の中には膵がんとの鑑別が難しいものもあります。この場合には、超音波内視鏡(EUS)を用いた針生検(EUS-FNA)を実施し、膵臓の組織を採取します。

慢性膵炎の経過は、重い腹痛が繰り返し続く「代償期」と、膵臓細胞が破壊されて機能が損なわれる「非代償期」に大きくわけられ、それぞれ治療法が異なります。

慢性膵炎により膵臓が線維化すると、膵管が狭窄し(細くなること)膵液がスムーズに流れず痛みが生じます。これが代償期の症状のメカニズムです。

そのため、膵管を緩めるための薬剤を用い、膵液の流れを改善していきます。

また、炎症と痛みを抑えるため、非ステロイド性消炎鎮痛薬を投与します。

線維化により膵臓が正常に機能しなくなると、分泌される消化酵素量が減少し、消化吸収不良が起こります。これが軟便化や下痢、それに伴う体重減少の原因となります。ですから、非代償期には、下痢症状を抑えることを主目的とし、膵消化酵素剤により不足した酵素を補います。

このように、慢性膵炎の治療は基本的に薬物療法がメインとなります。

膵管の中に石があり、膵液の流れを阻んでいる場合には、この石を砕いて排石するためのアプローチを行います。このとき使用する装置が、体外から石に向けて強力な衝撃波をあてる「体外衝撃波結石破砕療法(ESWL)」です。ESWLによる治療も保険が適用されます。

また、膵液の流れが悪く、黄疸が出ている場合には、細くなった膵管に内視鏡を使ってチューブを挿入し、流れを改善させる治療を行うこともあります。

東京医科大学では全体の約2%と極めて稀ですが、ESWLや内視鏡を用いた治療を複数回行わねばならず、患者さんにかかる負担が大きい場合には手術も考慮します。手術では胆管や膵管にチューブを挿入し、小腸とつなぐことで膵液の流れを改善させます。

慢性膵炎の治療は、上記の通り根治ではなく、症状を抑えて「患者さんが病気と上手に付き合っていく」ために行うものです。既に膵臓の機能低下をきたしているため、急性膵炎とは違い、急激に悪化して死亡してしまうような疾患ではありません。

最も生活に支障をきたすものはインスリン分泌の悪化ですが、これもインスリン注射により補うことができます。

ただし、膵がんができてしまうと死亡率は非常に高いものとなりますので、定期的ながんのスクリーニング検査は必要になります。

慢性膵炎の説明をする糸井隆夫先生

慢性膵炎の患者さんに対する「生活指導」は非常に大切です。まずは、とにもかくにも「禁酒・断酒」をするようにしましょう。

食事の際には脂っこいものを控え、低脂肪食を心掛けることが大切です。ただし、有症状の慢性膵炎の患者さんの場合、痛みへの恐怖や下痢症状から自ずと脂っこい食事はとらないようになる傾向があるため、医療者が厳しく指導することはあまりありません。

しかし、脂っこい食事以上に膵臓を働かせてしまう「飲酒」は、なかなかやめられないという患者さんが多々いらっしゃいます。ですから、私は患者さんに慢性膵炎の治療にかかる医療費などをご説明し、時には「禁酒・断酒できないなら、今後きちんとした診療を続ける事は難しいですよ」と厳しく生活指導を行うこともあります。実際に、こういった指導でお酒を我慢できるようになる患者さんも多くいらっしゃいます。

本記事をお読みになられている患者さんやご家族の方も、ぜひ「アルコール分解は、高脂肪食以上に膵臓を消耗させる」ものであると知っていただき、禁酒・断酒の努力をしていただきたいと、医師からのメッセージとしてお伝えします。

 

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