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胚培養士になるには――胚培養士の役割や仕事内容を紹介

胚培養士になるには――胚培養士の役割や仕事内容を紹介
有地 あかね さん

田園都市レディースクリニック 培養室長

有地 あかね さん

河村 寿宏 先生

田園都市レディースクリニック 理事長、田園都市レディースクリニック あざみ野本院 院長

河村 寿宏 先生

目次
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初婚年齢や初産年齢の上昇に伴い不妊症患者さんが増えるとともに、昨今不妊治療の必要性や知識は、徐々に一般へと浸透しつつあります。そして、不妊治療の中でも高度生殖医療(生殖補助医療)を実施する患者さんは年々増加しています。しかし、その一方で、高度生殖医療において重要な役割を果たし、年々需要が高まっていく“胚培養士(はいばいようし)”の存在は、それほど広く知られていません。

そこで今回は、田園都市レディースクリニック理事長の河村(かわむら) 寿宏(としひろ)先生と、田園都市レディースクリニック培養室長の有地(ありち) あかねさんに、高度生殖医療(生殖補助医療)を支える胚培養士の仕事について教えていただきました。

不妊症の治療方法のうち、胚培養士の仕事が関係してくるのは、主に高度生殖医療(生殖補助医療)と呼ばれる分野です。

日本産科婦人科学会が発表したデータによると、2018年の1年間での生殖補助医療の治療周期数は45万周期を超えています。

また、日本で体外受精、顕微授精、凍結胚移植により誕生した子どもの数を年別に示したものでは、2018年の1年間の出生児数は約57,000人いることが分かっています。

凍結胚移植の周期数がもっとも多く、現時点において日本で誕生している、いわゆる体外受精児の約87%が凍結胚移植により生まれてきています。

これほどまでに、生殖補助医療で子どもを出産する患者さんが増えているため、生殖補助医療には欠かせない胚培養士の重要性も年々高まってきているのです。

胚培養士の仕事には、1.検卵、2.精子精製、3.媒精、4.顕微授精、5.受精確認・分割確認、6.胚の凍結、7.凍結胚の融解をあげることができます。

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培養室へは、入念な手洗いとエアーシャワーを通ってから入室する(ご提供:田園都市レディースクリニック)
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顕微鏡をのぞきながら胚の状態を確認する胚培養士の姿(ご提供:田園都市レディースクリニック)

採卵室で採取した卵胞液中の卵子は“卵丘細胞(らんきゅうさいぼう)”と呼ばれる細胞に包まれており、顕微鏡で確認しながら胚培養士が卵子を回収します。回収された卵子は受精が行われるまでの間、インキュベーター(培養器)で保管されます。

採取した精液から不純物を取り除くほか、運動性の高い精子を集めるため遠心分離するなどの工夫をしています。

精液から不純物を取り除き、よい精子を選別する方法

当院では、体外受精や顕微授精に精子を使用する際、Pure Ceptionというメディウム*を用いて、密度勾配遠心分離法**にて精子を選別しています。精液中の不純物は、その過程でART用異物除去フィルターにかける際と、遠心分離機にかける際に取り除くことが可能です。

*メディウム:培養液のこと。

**密度勾配遠心分離法:上部から下部へ密度が大きくなる密度勾配を設けた遠心機で遠心分離することで、密度の異なる物質を分離させる方法。

また、精子は成熟精子の細胞密度がもっとも高く、未成熟精子は細胞密度が低くなります。また、死滅した精子は細胞膜の透過性が変化し水分が細胞内に浸透するため、密度が低下します。そのため、Pure Ceptionを使って精液を遠心分離することで、精液中の不純物、奇形精子、死滅精子、未成熟精子などを取り除くことができます。

授精方法の1つである媒精では、精製した運動性の高い精子を卵子の入ったディッシュ(顕微授精の時に使用する精子や卵子の操作用の皿)に入れ、自然に受精させます。

もう1つの授精操作の方法である顕微授精では、倒立顕微鏡を使用し、精製した精子の中から運動性が高く形態のよい精子を1つ選び、卵に注入していきます。ヒトの卵子は約0.1mm、精子は約0.06mmであり、顕微授精は胚培養士の行う作業の中でも、もっとも熟練した技術を必要とします。

採卵を行った翌朝、媒精(体外受精)後、顕微授精後の卵子の様子を確認します。卵子が受精して胚に成長しているか、胚は順調に分割を繰り返して成長を続けているかを観察します。

通常の妊娠では、卵子は受精後4日から6日ほどかけて分割を繰り返しながら子宮内部へと移動し着床、妊娠が成立します。高度生殖医療に使用する場合も同程度の日数をかけて胚の成長を見守ります。この胚を子宮内部へ戻すのは医師の仕事になるので、胚培養士が成長を見届けるのはこの段階までです。

余剰胚がある場合や、卵巣過剰刺激症候群(OHSS:ovarian hyperstimulation syndrome)の予防目的などで、胚を凍結保存することがあります。これも胚培養士が行います。このとき胚にダメージを与えることがないよう凍結保護液を使用し、液体窒素を用いて凍結されます。

凍結保存していた胚を移植当日に融解します。このとき、融解液を使用して胚を融解し移植できる状態にして担当の医師へと引き継ぎます。まれに凍結胚が元の状態に戻らず、患者さんへの移植が中止になるといったケースも存在します。しかし、当院では99%以上の凍結胚が元の状態に戻っています。

胚培養士は、受精率を高めるために日々新しい技術について勉強しています。2021年時点で開発された、胚培養の新しい技術には以下のものがあります。

タイムスラプス培養
タイムラプス装置(ご提供:田園都市レディースクリニック)

数年前から“タイムラプス培養システム”という、胚の培養システムが普及しはじめました。タイムラプス培養システムとは、10、15分ごとなど一定の間隔で、培養器内で胚を撮影し、それを連続して映すことで動画のように胚を観察することができる装置です。当院でも導入しており、15分間隔で撮影をしています。

タイムラプス培養システムの利点は、観察ごとに胚を培養器から出す必要がないため、一定の条件を保ちながら胚を培養することができます。また、一般的に受精卵は1つの細胞から最初の分割で2つになります。しかし、最初の分割で1つの細胞がいきなり3つに分割するケースもあるということが分かってきました。そして、分割が進んだ割球が融合していく胚もあり、これらの胚を患者さんに移植することによって、妊娠成績が低下する可能性が指摘されています。

しかし、タイムラプス培養システムを使用することによって、胚の分割の過程を観察することが可能になるため、正常に分割が進んだ胚を優先して移植することにより、妊娠成績も向上します。

最近普及してきた機器として、“ピエゾICSI(イクシー)”というものがあります。顕微授精の際、従来から行われているICSIを使用する方法では、精子の入ったガラス針を卵子に刺して、精子を卵子細胞内に注入します。一方、ピエゾICSIでは、先端がフラットなガラス管に微小なパルス(電流)をかけて、卵細胞膜に穴を開け、ガラス管に入った精子を注入します。

従来のICSIで高い受精率を得るためには、高度な技術を必要とします。しかし、ピエゾICSIはそれに比較して、技術的に易しいといわれています。そのため、胚培養士は比較的短時間でのトレーニングでピエゾICSIの技術を取得することが可能です。また、施設によっては、ピエゾICSIにより、従来のICSIの方法よりも受精率が上昇したと報告されています。

しかし、当院では胚培養士の日々の努力により、従来のICSIを利用する方法でも、ピエゾICSIによって得られたとされる受精率よりも高い受精率が得られています。そのため、すでに受精率の高い当院では、20年以上もの歴史がある従来のICSIを用いています。

卵子紡錘体可視化システムとは、顕微授精を行う際に特殊なレンズとフィルターを用いることで、卵子内の紡錘体*を可視化するというものです。紡錘体を避け、傷つけることなく受精を行うことができるため、高い受精率を得ることが可能です。当院でも、卵子紡錘体可視化システムを導入し、顕微授精による受精率向上のために努めています。

*紡錘体:微小管という細胞の運動や形を保つことに関係している細胞骨格の束が多数集まって作られる、細胞内の構造。

当院の胚の培養には以下のような特徴があります。

当院では、使用している機器の管理を徹底的に行っています。たとえば、インキュベーターの中のガス濃度は毎日しっかりと計測しています。また、pHに関しても必ず1か月に1回測定し、最適な胚培養環境を維持管理しています。

当院では、顕微授精を行う際、PVP(ポリビニルピロリドン)という分子化合物を使用しない方法を採用しています。2021年現在、多くの施設がPVPを使用しているため、当院の1つの特徴といえます。

顕微授精では、高速で運動している精子をインジェクションピペット(顕微授精を行う針)でとらえて精子を不動化させます。そして、針の中に精子を吸収し、卵子細胞質内に穿刺注入(せんしちゅうにゅう)します。その際に、PVPを使用すると、精子がディッシュやインジェクションピペットに付着しにくくなります。また、精子の運動性を減弱化できるため、顕微授精の操作がよりしやすくなるのです。

しかしながら、PVPを使用した顕微授精では、微量ではありますが精子とともにPVPも卵子細胞質の中に注入されることになります。PVPが卵子細胞質内に入ることは安全なのかというエビデンス(科学的根拠)は、まだ明らかになっていません。

このような理由から、安全性が確立されていないPVPを卵子細胞内に注入しなくても高い受精率を保てるのであれば、使わないに越したことはないと私たちは考えています。そのため、高度な技術と訓練が必要となりますが、当院ではPVPを使用せずに顕微授精を実施しています。そして、PVPを使用しているクリニックと同等以上の受精率を実現させています。

体外受精は内容や施設により金額の差が生じます。当院における費用の目安は以下のとおりです。

  • 完全自然周期体外受精……180,000円/回
  • 刺激周期体外受精……230,000円/回
  • 胚移植……60,000円/回
  • 顕微授精……60,000円/回
  • 胚凍結保存……50,000円/回
  • 凍結胚融解……50,000円/回

(いずれも自由診療、税別)

上記の体外受精の費用には採卵、精子処理、媒精、培養、胚移植などに必要な材料費が含まれます。なお、体外受精の費用は、3回目の採卵からは40,000円減額、5回目からはさらに40,000円減額となります(完全自然周期では、3回目から20,000円減額、5回目からはさらに20,000円減額)。

採卵に至るまでに、通常検査費用(超音波検査、ホルモン検査)として、30,000~50,000円程度、注射の排卵誘発剤使用の場合の薬剤費用として50,000~100,000円程度が、上記費用に加算となります。

なお、体外受精などの高度生殖医療には公的な助成制度である“特定不妊治療費助成制度”があります。金額等は各自治体によって異なりますので、ご自身が居住されている自治体に確認しましょう。

また、体外受精には以下のようなリスク・問題点があります。

  • 必ずしも妊娠できるわけではない
  • 排卵誘発剤使用に伴う卵巣過剰刺激症候群
  • 採卵に伴う痛み、出血、感染
  • 採卵時の麻酔の副作用(アレルギー症状、呼吸抑制など)
  • 多胎の頻度の増加。多胎による問題には、母体側のリスクとして妊娠高血圧症候群妊娠糖尿病など、胎児側のリスクとして流早産のリスクの上昇、胎児の発育遅延、出生児の低体重(2,500g未満)、先天異常、新生児での死亡率の上昇などが挙げられる。

比較的高年齢の著名人の妊娠・分娩がニュースで報じられるたび、自分もある程度年齢が高くなっても自然妊娠できると思われる方も多いのではないでしょうか。しかしながら、卵子は年齢を重ねるにつれて減少するとともに老化し、特に30歳代半ばからは急速に質が低下して、妊娠しにくくなっていきます。また、高齢になるにつれ妊娠中や出産の際のリスクも高まります。限られたチャンスを逃さないようにするため、不妊症の可能性があるときには早い段階での治療が大切になるのです。

患者さんの状況によっては、限られた時間の中で少しでも妊娠の可能性を高めるため、早い段階で高度生殖医療(生殖補助医療)を医師からご提案することもあります。

不妊治療を受けている患者さんには、「自分たちの赤ちゃんを抱きしめたい」という願いがあります。その願いを叶えるため医師やほかの医療スタッフと共に日々努力をしているのが、胚培養士なのです。

ゃんを抱きしめたい」という願いがあります。その願いを叶えるため医師や他の医療スタッフとともに日々努力をしているのが、胚培養士なのです。

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  • 田園都市レディースクリニック 理事長、田園都市レディースクリニック あざみ野本院 院長

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