インタビュー

血がとまりにくい?画像で見る特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

血がとまりにくい?画像で見る特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
宮川 義隆 先生

埼玉医科大学病院 血液内科 教授

宮川 義隆 先生

この記事の最終更新は2016年08月04日です。

私たちの血液には「血小板」という血液細胞が多数含まれています。血小板には血を止め、傷を治す役割があります。血小板は健康な成人で15~40万/μL程存在しますが、この血小板が極端に減ると出血しやすくなります。さらに、3万/μL以下になると脳出血などの致死的な出血を合併するリスクが高まります。「ITP(特発性血小板減少性紫斑病)」は、血小板が10万/μL以下に減少する血液の難病です。ITPの治療にはステロイドホルモン療法や脾臓(ひぞう)の摘出など様々な方法がありますが、近年では新薬が登場し、患者さんの生活の質(QOL)が大きく向上しています。今回は血栓止血学の第一人者であり、血液難病専門医の宮川義隆先生(埼玉医科大学病院 総合診療内科(血液)・教授)に、ITPの病態から原因、正しい治療法について伺います。

ITPとは、「特発性血小板減少性紫斑病」のことです。血液中の血小板数が10万/μL以下に減少して、手足のあざ、鼻血が止まりにくい、月経の出血量が増えるなどの症状を認めます。小児と30歳代の女性、60歳以上の高齢者に多く、女性の患者が男性よりも約3倍多いのが特徴です。1973年(昭和48年)に国の難病に指定されています。

紫斑病(しはんびょう)とは、あざができる病気の総称です。紫斑病の原因には様々なものがあり、ITP以外にも血友病、血栓性血小板性紫斑病(TTP)、アレルギー性紫斑病などが挙げられます。その他にも、あざは様々な原因によって生じます。

例えば、脳梗塞心筋梗塞の再発予防で内服する抗血小板薬、心房細動の患者が脳梗塞予防のために服用する抗凝固薬(ワルファリンカリウムなど)でも、あざが出やすくなります。また、病気がなくても、老人性紫斑という加齢性の変化でもあざが出ます。

ITPの患者さんは、血小板が減少しているため出血しやすくなります。血小板が5万/μL以下になると、手足に打撲後の紫斑が目立つようになります。血小板が1万/μL以下では鼻血、あるいは口の中の出血に気づくことがあります。なお、女性の場合、子宮筋腫子宮内膜症を合併していると、月経時の出血量が多くなり、鉄欠乏性貧血を合併することがあります。

ITP(特発性血小板減少性紫斑病)患者さんのあざの写真

(紫斑が生じているITP患者の腕 画像提供:宮川義隆先生)

子どもの場合は鼻血が一時間以上止まらなかったり、体中にあざができたり、比較的症状が重い傾向にあります。大人は鼻血が少なく、手足を中心にあざが目立ちます。

女性の場合は月経過多がITPを発見する重大なポイントとなります。重症の方では、10分に1回のペースで生理用品を交換しなければならないという場合もあります。このように、女性では経血の量の急激な増加や生理が長引くなどの症状が現れるため、最初は婦人科を受診される方がいます。そこで血小板の少なさを指摘され、血液内科を受診してITPの診断がつくこともあります。

どうしてITPになるかは不明ですが、血小板が減る仕組みはあきらかにされています。免疫の異常による血小板の破壊亢進と、血小板の産生低下が主な原因です。海外では、免疫性血小板減少症と呼ばれています。

ガラスで作成された血小板の模型

(ガラスで作成された血小板の模型 画像提供:宮川義隆先生、https://www.facebook.com/Dr.MiyakawaNews/)

ITPは、大きく分けて下記の2種類が要因になり発症すると考えられます。

1、免疫異常による血小板の破壊

関節リウマチ全身性エリテマトーデスSLE)といった自己免疫疾患と同様、免疫が誤って自分の血小板細胞を破壊してしまう。

2、造血因子不足による血小板の産生低下

ITPの患者さんでは、トロンボポエチンという造血因子が不足して、血小板の産生が低下している。

ITPの検査では、通常の診察および採血による血小板数の確認、また必要に応じた骨髄検査が行われます。

骨髄検査とは、腰骨に局所麻酔をして骨髄を採取する検査であり、外来で行うことができます。

骨髄検査の手順と骨髄の採取方法

骨髄検査は、特に小児または高齢者などで、白血病などの血液がんを否定することが必要な場合に行います。骨髄検査に「痛い検査」というイメージを持たれている方が多くおられますが、検査に慣れた医師が、しっかりと麻酔の効いている部分に正しく穿刺すればほとんど痛みはありません。検査所要時間も10分程度(※検査後は別途30分程度の安静時間が必要です)と短時間で終了します。なお、骨髄検査には太い針を用いるため、翌日「腰が重い」と感じる方がいらっしゃいます。

1980年代の治療では、とにかく血小板を正常値に戻そうと大量のステロイドを投与していました。ステロイドによって確かに血小板数は増加しますが、大量のステロイドを投与すると重篤な副作用(骨粗しょう症、体重増加、糖尿病など)が生じます。結果として、患者さんをかえって苦しめてしまうという問題がありました。

その後、ITPに関する研究が進み、血小板数が正常値に戻らなくとも3万/μL以上の値が維持できていれば通常通り生活できるということがわかってきました。現在では、ITP治療の目標は「血小板数の正常化」ではなく、「患者さんの死亡リスクを減らし、生活の質(QOL)を上げること」に重きを置いています。

ITP治療の目的には、「出血死防止」および「生活の質の向上」の二段階があります。

第一の目的は、出血死の防止です。

血小板が3万/μL以下に減少すると、脳出血や消化管出血といった臓器出血を起こして死亡するリスクが、健常者の約4倍高くなることが知られています。そのため、血小板が3万/μLを割っている場合、治療を開始します。3万/μL以上あれば、出血死のリスクはほとんどなくなります。

第二の目標は、QOLの向上です。

ITPの患者さんに「生活にどのくらい満足しているか」というQOLのアンケートが欧米で行われ、リウマチや糖尿病などの慢性疾患よりもQOLが低いという結果が出ました。ITPは良性疾患であり、通常通りの生活をしていれば命の危険がなく、痛みもありません。しかし、アンケートでは患者さんのQOLが著しく低いという結果が出ました。

これは患者さんへの精神的負担が大きいからだと考えています。

患者さんは、医師に「あなたは血小板の数が少なく、脳出血を起こす可能性が普通の方よりも高いでしょう」といわれると生活の面で非常に慎重になります。たとえば、「心配だから自転車に乗らない」など、患者さん自身で行動範囲を狭めてしまいます。

また、もしも血小板が3万/μL以下の方が脳出血を起こして救急外来に運ばれても、手術によるリスクが高いため、脳外科医は手術をすることができません。患者さんは「いつ死ぬのだろうか」という不安を抱えながら生活しているといえます。

ファッションや体型についての悩みがあります。夏になり足や肩を出したくても、あざが目立つため長袖・長ズボンをはき、肩にカバンをかけられないなど、服装に制限が生じてしまいます。また、プレドニゾロンの副作用で体重が増加し、何キロも太ってしまう場合があります。

このようなことから、ITPの患者さんのQOLは低下していると考えることができます。

しかし、トロンボポエチン受容体作動薬という新薬が出てから血小板数の大幅な向上、およびステロイドの減量と中止が可能となり、状況は大きく変わりました。(詳細は後述します)

ITPの治療には、ピロリ菌除去、脾臓の摘出(脾摘といいます)、ステロイド療法、そしてトロンボポエチン受容体作動薬による薬物治療の4種類が存在します。

血液中のピロリ菌のイメージ

ヘリコバクター・ピロリ菌の感染がある慢性型ITPの場合、ピロリ菌の除菌により約60%の患者の血小板数が増加します。ピロリ菌表面のタンパクは血小板のタンパクと似ており、免疫がピロリ菌と間違えて血小板を壊してしまうようです。このため、ピロリ菌を駆除すると、血小板が増えるようです。

その他にも、B型肝炎C型肝炎膠原病エイズ悪性リンパ腫などの病気が原因となり、二次的にITPを発症する場合があります。このようにして生じるITPを「二次性ITP」と呼びます。一方、基礎疾患がないITPを一次性ITPと呼びます。

脾摘は約100年の歴史を持ち、ITPの根治が期待できる治療法です。脾摘を受けた方のうち7割はITPが完治して、その後治療を受ける必要がなくなります。特に若い女性の場合、妊娠時に薬を服用しなくてもよいため、脾摘をお勧めしています。

しかし、裏を返せば残りの3割の方は脾摘をしても病状が改善しません。手術前に治療の成功を予測できないため、患者さんにとっては「できれば避けたい治療」になります。実際、セカンドオピニオンで受診される方の多くは「脾摘が怖いので、他の治療法を探している」という相談をされます。

ステロイド療法は約50年の歴史を持ち、有効性の高い治療法ですが、副作用の多さが問題です。たとえばITPを発症した若い患者は、長い間ステロイドを服用し続ける必要がありますが、長期的なステロイドの服用は骨折糖尿病など別の病気を発症するリスクを高めてしまいます。

トロンボポエチン受容体作動薬は、骨髄にある巨核球(きょかくきゅう)という細胞に働き、血小板を増やします。経口薬エルトロンボパグ オラミンと、注射薬ロミプロスチムの2種類がITPに保険適用があり、慢性型ITPの患者さんの約80%に有効です。トロンボポエチン受容体作動薬はステロイドのような副作用は生じません。トロンボポエチン受容体作動薬によってステロイドの中止あるいは減量が可能となれば、患者さんのQOLの改善も期待できます。

トロンボポエチン受容体作動薬のデメリットは、一生治療が必要なこと、高額な薬剤費(年間約200~300万円)がかかる点です。ただし、日本ではITPは指定難病として医療費の公的補助があるため、患者さんは安心して新薬を使うことができます。

欧米では約10年前から脾摘に代わる治療として、広く使われています。Bリンパ球に作用する免疫抑制剤で、約6割に有効です。国内では慢性期の患者に適応があり、脾摘の回避、副作用が多いステロイド製剤の減量・中止が期待できます。国内では医師主導治験の研究成果をもとに、2017年より保険適応となりました。

よく患者さんから「私は治るのでしょうか」という質問を多く受けますが、子どものITPと大人のITPでは経過が異なってくるので一概には述べられません。

ITPには急性型と慢性型の2つの型があり、子どものITPの8割は急性型に分類されます。(詳細は次ページ

急性型の場合は、特別な治療をせずとも半年以内に自然治癒します。一方、大人の場合はほぼ慢性型であるため、一生病気と付き合っていくことになります。慢性型の場合、約8割の方が何らかの治療を受けていて、残りの2割の方は血小板が3万/μL以上であれば特別な治療をせず、様子をみながら通常通り生活しています。

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