インタビュー

快眠センターとは-横断的な連携で睡眠時無呼吸症をはじめさまざまな睡眠障害を治療する

快眠センターとは-横断的な連携で睡眠時無呼吸症をはじめさまざまな睡眠障害を治療する
宮崎 泰成 先生

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 統合呼吸器病学 教授

宮崎 泰成 先生

この記事の最終更新は2016年09月08日です。

東京医科歯科大学の「快眠センター」では、睡眠時無呼吸症を中心に、不眠・過眠など幅広い睡眠障害に対応しています。東京医科歯科大学の特徴を生かした医歯学連携による睡眠時無呼吸症のマウスピース治療や、精神科および神経内科との連携による睡眠障害への取り組みについて、快眠センターのセンター長である宮崎泰成先生にお話をうかがいました。

昼間の耐えがたい眠気は、夜間の睡眠に何らかの問題があることの裏返しとして生じます。もっとも頻度が高いのは睡眠時無呼吸症ですが、そうではないケースもあります。呼吸器内科で睡眠時無呼吸症を診ているような場合には、それ以外の患者さんたちの受け皿がなくなってしまいます。東京医科歯科大学の快眠センターでは、睡眠に関わることはすべて診ようという考えのもとで精神科の医師にもきてもらっています。

ひと口に睡眠障害といっても、うつ病によって睡眠障害になることもあれば、不眠症の場合もあります。「不眠」の定義は、社会的に問題があるということです。睡眠時間が短くても不都合を感じていない、あるいは支障がないという場合は不眠ではありません。ただ短時間しか寝ていないから不眠だというわけではないということです。

睡眠時間は7時間がベストであるとか、7時間睡眠の人は寿命が長いというデータがありますが、それには個人差があります。平均すると7時間睡眠の人の割合が多いということであって、たとえば6時間睡眠や8時間睡眠の人たちも、7時間睡眠の人たちとそれほど差はないと考えてよいでしょう。

私が担当した患者さんの中で、若いプロのダンサーで非常にハードなトレーニングをしている方がいました。訴えとしては8時間寝てもまだ眠いという状況でしたが、この方のように日中にハードワークをしている方たちの場合は、8時間では睡眠が足りず、9時間寝るようにすると昼間の眠気がなくなるということもあります。

必要な睡眠時間は人によって違うのだろうと考えられます。デスクワーク中心の生活を送っている方であれば、それほど長い睡眠は必要としないのかもしれません。これは昼間の活動度によって違ってきます。

睡眠の前半では、深睡眠と呼ばれる質のよい睡眠が得られます。睡眠は1時間半ごとのリズムがあり、深い睡眠に達するのは最初の2サイクルまでで、3サイクル、4サイクル目になるとそれほど深い睡眠が得られません。つまり、朝起きる直前の睡眠はそれほど有効な睡眠ではないということになります。

いわゆる「二度寝」をするとスッキリしたような気がしますが、実はあまり深い睡眠にはなっていないことが多いのです。睡眠の質という意味では、寝付いてから最初の2サイクル=約3時間で深い睡眠をしっかりとるということが重要です。

いわゆる不眠の中では、お年寄りからの不眠の訴えがもっとも多いといえます。しかし、実際にはご本人が感じているほど眠れていないわけではないという方も多くいらっしゃいます。眠れない、あるいは寝なくてはいけないと思う気持ちから早く床に入ってしまい、ベッドにいる時間だけが長く質の悪い睡眠になるということがしばしばみられます。

そのような場合には、眠くなってから床に入るようにしていただき、午後3時以降はコーヒーを飲まない、寝る前にアルコールを飲まないなど、いわゆる睡眠衛生の指導を行っています。

呼吸器内科の領域では、喘息(ぜんそく)が不眠の原因になることがあります。喘息といえば咳が出るという症状が一般的ですが、特に小児喘息から移行している患者さんの中には、ただ胸苦しいだけという方もいらっしゃいます。そのような方たちは、喘息の治療が不完全なために夜間の睡眠の質が悪くなり、昼間に眠くなっているので、改めて喘息の治療をすることでよく眠れるようになります。

アレルギー性鼻炎もやはり睡眠の質を低下させます。鼻をすすっていたり鼻声だったりという鼻炎の症状があるにもかかわらず、それが慢性になっている方はご自分ではいつもの普通の状態だと思っていることがあります。その場合も鼻炎をきちんと治療するとよく眠れるようになり、昼間の眠気がなくなったりすることがあります。

不眠があると糖尿病が悪化しやすく、逆に糖尿病があると不眠になりやすいという相互関係があるといわれています。また、不眠だと心疾患脂質異常症が多くなるなど、不眠と生活習慣病は深い関わりがあるとされています。

実際、不眠を最初に診る医師の6~7割は内科医であり、患者さんが最初から精神科を受診することはあまり多くありません。しかし、生活習慣病でかかっている内科では、ただ薬を出してもらっているだけになってしまい、睡眠の問題を抱えていることに気づかないことが多いのです。

そこでひと言「よく眠れていますか?」と尋ねていれば、そこで治療を始められる可能性があります。内科であってもまず軽い睡眠薬を処方して様子を見ていただいて構わないでしょうし、改善しないようであればそのときには精神科の受診をすすめることもできます。我々の快眠センターでは、睡眠時無呼吸症の専門外来以外に、睡眠障害の外来枠がありますので、そのときに来ていただくことをおすすめします。

中には本当に診断が難しい不眠もありますし、うつ病などの場合には精神科の医師に診てもらう必要がありますが、最初の窓口としては快眠センターに来ていただいて構いません。

提供:PIXTA

過眠とは、日中眠るべきでない場面で強い眠気により居眠りを強いられ、日常生活や学業・仕事に支障をきたすような状態をいいます。

ナルコレプシーは、日中に急激な眠気に襲われ眠ってしまう過眠症です。日本人に多い病気であり、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の柳澤正史先生が発見したオレキシンという脳内の情報伝達物質が関わっていることがわかっています。

ナルコレプシーの疑いで患者さんが紹介されてきた場合、まずは頻度が高い疾患である睡眠時無呼吸症の可能性を考慮し、アプノモニターによる簡易検査(記事1「眠っているときに呼吸が止まる-睡眠時無呼吸症とはどんな病気か」参照)を行います。その結果、睡眠時無呼吸の問題がなければ、睡眠障害の担当医に依頼して診断をしてもらっています。診断は記事1で紹介したPSG(ポリソムノグラフィー)という脳波の検査によって行います。

※関連記事:「ナルコレプシーの検査と診断」

体内時計の狂いによって睡眠リズムがずれる「覚醒リズム障害」も、近年非常に多くなっています。私は東京医科歯科大学の保健管理センター長も併任していますが、深夜まで受験勉強をしたり、スマートフォンを夜中まで見ていたりすることで眠れなくなってしまったという学生が大勢来るようになりました。朝起きられないために講義の時間に間に合わず学業に支障をきたし、留年するということもあります。

覚醒リズム障害の治療では、生活習慣の改善や薬物治療が非常によく効きます。強い光を浴びると覚醒が誘導されるため、朝日を浴びることは有効です。また、メラトニンに作用して睡眠のリズムを調整するラメルテオンという薬があります。この薬は通常の用量の10分の1程度の少量でも効果があり、処方して1週間後に様子をみて調整することでかなりよくなります。

むずむず足症候群(レストレスレッグ症候群)は、足がむずむずしたり、電気が流れているような不快な感覚のためにじっとしていられなくなる病気です。足を動かすことで一時的に改善しますが、このために眠れなくなり、日中も仕事に集中できなくなります。睡眠時無呼吸症にしばしば合併します。

その多くはドーパミンの障害であり、脳の疾患と考えられています。パーキンソン病治療薬の用量を少なくした薬を使うと非常によく効きます。我々は症状からレストレスレッグ症候群を診断し、治療は神経内科の医師が行っています。

レストレスレッグ症候群の診断は難しく、患者さんは整形外科や神経内科、あるいは皮膚科の病気だと思ってさまざまな診療科を受診されていますが、診断がつかずに長年悩んでいたという方が多くいらっしゃいます。このような症状は鉄欠乏性貧血があると起こりやすく、慢性の腎障害、あるいはパーキンソン病で起こることもあるため、これらの病気を見逃さないためには血液検査などを行い、鑑別診断をする必要があります。

ただし、薬が非常によく効くので、血液検査など一定の検査をした上で、早めに薬物治療を開始するようにしています。普段あまり使わない薬の場合、薬物治療の開始はある程度慎重に判断しますが、この病気に関しては薬物治療のメリットが非常に高いので、躊躇することなく速やかに治療を開始すべきであると考えています。

東京医科歯科大学の快眠センターは、睡眠障害の患者さんを最初に診る窓口部門として幅広い知識を持っています。まずここで診断をして、専門的な治療が必要な方については精神科や神経内科など、それぞれの専門医に引き継ぐような体制をとっています。その中でもっとも頻度が高い睡眠時無呼吸症に関しては、医科と歯科との連携が非常に重要となります。

睡眠時無呼吸症の治療の選択にあたっては、記事1でご説明した無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index; AHI)が関係します。簡易型アプノモニター検査でAHIが40以上、終夜ポリソムノグラフィー(PSG)検査でAHIが20以上の場合は持続陽圧呼吸療法(CPAP)による治療が保険適用になります。

CPAPによる睡眠時無呼吸症候群の治療
CPAPによる睡眠時無呼吸症の治療(画像提供:宮崎泰成先生)

AHIによる重症度分類では、軽症:AHIが5以上15未満、中等症:AHIが15以上30未満、重症:AHIが30以上となっています。したがって、AHIが20以上、つまり中等症から重症の方たちはCPAPで治療を行い、それより軽症の方たちはマウスピースで治療するということになります。

ところが、マウスピースは実は重症の人にも効くことがあります。たとえば下顎が小さい方の場合、マウスピースが物理的に下顎を前に出して空間を広げるので、理論的にも非常に有効です。現在は保険適用上の理由から、AHIの数値によって治療法を決定する場合が多いのですが、マウスピース治療はもっと有効に使えると考えています。

 

マウスピースによる睡眠時無呼吸症候群の治療
マウスピースによる睡眠時無呼吸症の治療(東京医科歯科大学快眠センターのHPより)

持続陽圧呼吸療法(CPAP)は非常によい治療法ですが、きちんと継続できていない患者さんが多いという問題があります。治療をやめてしまう方や、機械を借りて医療費を払っているだけの方を合わせると、有効な治療を継続できていない方は3割程度いるといわれています。

CPAPに用いる装置は寝ている間に自然に外れてしまったり、無意識のうちに途中で外してしまったりすることがあります。また、装着に多少手間と時間がかかるため着ける前に眠ってしまい、夜中に起きてから使うということも起こりがちです。CPAPはひと晩に4時間以上、週5日以上行わなければ十分な効果が得られないとされています。

それに対して、マウスピース治療は非常に簡便であり、治療持続性はCPAPと比べてはるかに良好です。ただし、中には顎が痛くなる方もいるため、顎にトラブルがある方や歯の治療中の方には適しません。その点を除けば、入れ歯と同じ作り方で多くの方に受け入れられる治療であるといえます。

ですから、我々としてはCPAPの装置を借りているだけで有効な治療ができていない方たちについては、マウスピース治療に切り替えていくようにしていきたいと考えています。

睡眠時無呼吸症の診断がすでについていても、治療で困っている患者さんがたくさんいます。推定患者数などから計算すれば、おおよそ10万人近くの患者さんが有効な治療を受けられていない可能性があります。その方たちにマウスピース治療を行っていくことはメリットがあると考えています。

しかし、歯科でマウスピースを作る場合は、睡眠時無呼吸症の診断をつけた上で医科からの紹介が必要です。マウスピース治療は医科と歯科がタイアップして一緒に行っていく治療なのです。

我々は医科歯科大学として、歯科領域で専門性の高い治療を数多く手がけているという強みがあります。たとえば歯がほとんどない方でも、入れ歯を使いながらマウスピース治療を行うというような、一般開業医の歯科では難しい高度な治療も可能です。

私が皆さんにまずお伝えしたいのは、検診と同じような感覚でもっと気軽に受診していただきたいということです。糖尿病や高血圧で採血して検査をするのと同じように、簡易型の検査もありますのでぜひ受けていただきたいと考えています。

そして、CPAPとマウスピース治療の両方を組み合わせることによって、CPAPを使うような方たちにもマウスピース治療のメリットを広げていきたいと考えて治療に取り組んでいます。現在CPAPの治療がうまくいかなくて困ってるという方は、ぜひ快眠センターを受診してマウスピース治療を試してみることをおすすめします。

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    宮崎 泰成 先生

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