インタビュー

心サルコイドーシス(心臓サルコイドーシス)とは?その症状と心不全との関係

心サルコイドーシス(心臓サルコイドーシス)とは?その症状と心不全との関係
猪又 孝元 先生

新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学 主任教授

猪又 孝元 先生

この記事の最終更新は2016年10月12日です。

サルコイドーシスとは、肉芽腫という結節が全身のあらゆる臓器に発生する病気です。この結節が心臓に発生した場合は「心臓サルコイドーシス」と呼ばれ、肺や眼のサルコイドーシスと区別されます。この理由は心臓サルコイドーシスが他の臓器のサルコイドーシスと比べて重症化する危険が高いためですが、その危険性に気づいていない医師が少なくないことも事実です。心臓サルコイドーシスの患者さんを早期発見し治療に臨むためには、「病院のシステム」「他科との連携」「心臓専門医の意識」「患者さん自身が心臓サルコイドーシスについて知ること」が重要になります。心臓サルコイドーシスガイドライン作成にも携わられた、北里大学北里研究所病院循環器内科部長の猪又孝元先生にお話しいただきます。

心臓サルコイドーシスのご説明をする前に、まずはサルコイドーシスがどのような病気かについてお話しします。

サルコイドーシスとは、「肉芽腫(にくげしゅ:類上皮細胞やリンパ球などの細胞が集合して生じる結節)」が全身の様々な臓器に発生する病気です。免疫異常が関係しており、治療にはステロイド療法が中心となるため「全身に生じる自己免疫疾患」と考えられています。しかし、現在のところその病態は十分に解明されているとはいいがたい現状です(ニキビを発生させるアクネ菌がサルコイドーシスに関係するとの説もあり、抗生物質が有効と主張する研究グループもあります)。

心臓サルコイドーシスは、上述したサルコイドーシスが心臓に生じ、心臓のポンプ機能や刺激伝達系に影響を及ぼした状態です。進行すると、重症不整脈心不全を引き起こす可能性があります。突然死も稀ではありません。

心臓サルコイドーシスの最大の問題は、この病気が特定疾患(難病指定)であるにもかかわらず、多くの医師がこの病名を聞いて「重病だ」と感じないという点です。

サルコイドーシスによって病気を起こす心臓以外の大多数の臓器(肺、皮膚、眼などに多く発生します)は、基本的には病状が悪化しないことも多く、なかには自然治癒(治療をせずに病気が治る)する場合すらあります。ですから、心臓を専門とする医師以外は、サルコイドーシスと診断がついた場合でも「重症化するリスクは低いだろう」と考え、経過観察にとどめることがほとんどです。

ところが、心臓にサルコイドーシスがある場合は全く状況が異なってきます。

心臓サルコイドーシスは進行性の病気であり、炎症を抑制しなければどんどん病状が悪化してしまいます。つまり、サルコイドーシスが心臓に発生しているか否か(心臓サルコイドーシスを発症しているかどうか)で、患者さんの予後や医療者側の心構えが全く異なるのです。

心臓の病気は下記の二種類に大別されます。

心臓サルコイドーシスでは、ポンプとリズムの両方の機能が障害される可能性があります。ポンプの動きが悪くなって心不全となる方もいれば、リズムの病気と合併して、突然死するほど重篤な不整脈が出現する方もいます。

しかし、このような症状が最初に全面的に出てきた場合、心臓を専門に扱う循環器内科医ですら別の疾患が原因だと判断し、サルコイドーシスを思いつかない、あるいは、見逃してしまうケースが少なくありません。

心臓は、電線のような組織を通して電気信号を送っています。完全房室ブロックはこの電線が断線してしまった状態で、多くは老化虚血性心疾患によって起こりますが、最近ではこの原因としてかなりの割合で心臓サルコイドーシスが含まれていると報告されてきています。

完全房室ブロックの原因が老化である場合、ペースメーカーの装着によって完全房室ブロックは治療できます。ところが、原因が心臓サルコイドーシスである場合は状況が異なります。心臓サルコイドーシスは慢性進行性の疾患であり、炎症が治まらなければ今度はポンプ機能が障害されていきます。ですから、原因が心臓サルコイドーシスであることに気づかず、ペースメーカーでリズム機能を正常化すれば問題ないと考えていると、気がついたときには患者さんの心臓のポンプが正常に動いていないという事態が発生する可能性があるのです。

サルコイドーシスは元来肺や眼、皮膚に生じる頻度が多く、循環器内科医以外の医師がサルコイドーシスの患者さんを診ていることが珍しくありません。しかし、他科の医師が心臓サルコイドーシスを発見するのはときに困難です。また、心臓サルコイドーシスの診断の流れも通常の心疾患とは趣が異なるため、心臓サルコイドーシスを発見できる確率は、循環器内科のうち心臓サルコイドーシスに詳しい医師が診るか否かによって変わってきます。

さらに、病院のシステムにも課題が残っています。いずれかの臓器にサルコイドーシスがあると診断された場合でも、確立したワークフローやシステムのもとで心臓サルコイドーシスの検査を進めていく体制が整っている施設は多くありません。

心臓サルコイドーシスを確実に発見するためには、下記の2点を意識する必要があります。

  1. 心臓専門医以外の医師は、サルコイドーシスの患者さんを診る際に心臓サルコイドーシスの有無に注意を払う
  2. いずれかの臓器のサルコイドーシスと診断された患者さんは、心臓専門医による診断や診察を受けたほうがよいと認識する

サルコイドーシスと診断された患者さん自身が、「私は心臓にもサルコイドーシスがあるのでしょうか」と主治医に質問できるかによって、心臓サルコイドーシスの発見率は大きく改善する可能性があると考えます。

ここからは具体的な検査方法についてご説明していきます。

心臓サルコイドーシスの確定診断には下記に挙げる検査が必要です。

(心筋生検の方法)

心臓サルコイドーシスの最も確実な証明の方法は、心筋生検です。ただし、すべての施設で心臓生検を行っているわけでなく、また、技術者の熟練度によっても診断の感度や正確性が異なってきます。

ふたつ目の有用な検査方法に、PETがあります。PETは通常、がんの診断などに用いられる検査ですが、サルコイドーシス検査においても2013年より保険適用となりました。

3つめの検査は、心臓MRIです。心臓サルコイドーシスの場合、MRIの画像で通常の心筋症の造影パターンを取らないという特徴があります。ここで異変に気づくことができた場合は、PETや心臓生検といったステップに進み、診断に辿り着きやすくなります。

一般的に心筋症診断のワークフローでは、ポンプの病気やリズムの病気の「背後」に潜む原因を探るという点が十分に考慮できなかった経緯がありました。この現状を踏まえて、2017年春には心臓サルコイドーシスガイドラインが公表される予定です。私もガイドラインの執筆に携わりましたが、このガイドラインが世に出れば、心臓サルコイドーシスの診断の可能性はぐっと拡大するでしょう。

ところが心臓サルコイドーシスにおいては、「心臓にのみサルコイドーシスが発生する」という病態があると考えられはじめました。この場合は上記の定義が当てはまらないので、診断が非常に難しくなります。

先ほど、心臓サルコイドーシスを発見することは困難だとご説明しましたが、この理由のひとつには、サルコイドーシスが全身・多臓器疾患という前提であるにもかかわらず、心臓だけに発生するタイプのサルコイドーシス(心臓限局性サルコイドーシス)が最近多数発見されているという点があげられます。この状況が、さらに心臓サルコイドーシスの診断を混乱させているようです。

心臓サルコイドーシスは二つの観点から治療を行います。

1つめは、心臓サルコイドーシスという病態本体に対してのアプローチです。ステロイド療法による心臓の炎症の抑制が中心となりますが、この治療はあくまで「心臓サルコイドーシスをこれ以上悪化させない治療」と考えるのが無難です。炎症によって傷ついた心臓そのものをもとに戻す治療ではありません。ステロイドだけでは、心臓サルコイドーシスによる病状全体を治せないことを知っておいてください。

もう一つの柱は、心臓サルコイドーシスの結果として起きる心不全不整脈に対する治療です。(詳細は『心不全が重症化したとき―重症心不全に対する内科的治療と予防』の記事を参照)

治療を受けるにあたっては、他科との連携が行われている施設で、かつ心臓サルコイドーシスの治療に慣れている医師を選択することをお勧めします。同時に患者さん自身も、サルコイドーシスと診断された時点で、心臓にはサルコイドーシスが起こっていないかを意識できるようになると理想的です。

猪又先生

やはり重要なのは、医師・患者さん双方が、心臓にサルコイドーシスが生じている場合の危険性を十分に認識することです。また、施設全体が「サルコイドーシスの患者さんは全員一度循環器内科医が目を通す」という文化づくりを推進していくことも大事でしょう。

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