インタビュー

網膜の血管が詰まる「網膜静脈閉塞症」とは?高血圧が原因になる

網膜の血管が詰まる「網膜静脈閉塞症」とは?高血圧が原因になる
小椋 祐一郎 先生

名古屋市立大学病院 前病院長、名古屋市立大学 前理事

小椋 祐一郎 先生

この記事の最終更新は2016年11月18日です。

網膜静脈閉塞症とは、網膜の血管が詰まる病気です。血管が閉塞した箇所により、「網膜中心静脈閉塞症」「網膜静脈分枝閉塞症」の2種類に分類されます。重症度は症例によって幅がありますが、治療が必要な場合は「黄斑浮腫」をいかに抑制できるかが患者さんの視力予後に大きく関与することが知られています。また、高血圧の方に発症しやすい病気でもあるため、日常的に血圧や生活習慣病をコントロールすることも大事です。幅広い眼疾患の治療に携わられてきた、名古屋市立大学眼科教授の小椋祐一郎先生にお話しいただきます。

網膜の血管が詰まり、視細胞への血流が途絶えることで、視力低下や視野欠損が起こります。

網膜の血管の病気で最も多いのは、記事1『失明のリスクが高い糖尿病網膜症を予防するには?糖尿病と診断されたら眼科を受診して』記事2『糖尿病網膜症の検査と最新治療―抗VEGF薬からレーザー治療、硝子体手術まで』でご説明してきた糖尿病網膜症であり、網膜静脈閉塞症はこれに次いで頻度が多いことが知られています。

網膜中心動脈は視神経内を経由し、視神経乳頭で枝分かれして網膜全体に広がり、網膜の細胞に酸素や栄養を与えます。網膜動脈と並走する網膜静脈に戻った血液は視神経乳頭で再び一本に集まり、視神経内を通って心臓に戻されます。

網膜静脈閉塞症は、閉塞した血管の場所によって病名や症状、経過が異なります。

網膜静脈の根元が視神経乳頭で閉塞した状態を「網膜中心静脈閉塞症(CRVO)」と呼びます。根元の静脈が詰まるため、網膜全体に影響が及びます。症状には差がありますが、比較的重い場合、眼底一面に大量の出血が起こって虚血状態になり、さらに黄斑浮腫(おうはんふしゅ:「黄斑部」という対象物を見ることにおいて重要な役割を果たす部分が浮腫むこと)が起きて視力が障害されます。

枝分かれした先の網膜動脈と網膜静脈は交差しながら分布しています。網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)は、動脈硬化などで固くなった動脈の血管によって、交差部分の静脈血管内径が閉塞した状態です。閉塞した部分より先の血管から血液があふれ出し、出血や浮腫が起こります。出血している部分の視野は欠損し、また浮腫が黄斑部に及ぶと視力が低下します。

黄斑部は視力維持のために最も重要な組織であり、この黄斑浮腫をいかに抑制できるかによって、網膜静脈閉塞症の予後は大きく変動します。

黄斑部は網膜の中心部に位置し、この部分に多くの視細胞が密集しています。ですから、黄斑部に浮腫や虚血が起こると視力が著しく低下してしまいます。

網膜中心静脈閉塞症の場合は基本的に黄斑浮腫が起こり、網膜静脈分枝閉塞症の場合は閉塞が黄斑部にかかっている場合に起こります。

たとえば、黄斑部にかからない部分に静脈閉塞が起こった場合は視細胞や血流への影響が少ないので視力は悪くなりません。しかし、大抵の場合は黄斑部にかかる場所で網膜静脈閉塞が起こります。

黄斑
正常の黄斑部は真ん中が凹んでいるが、静脈閉塞により灌流が滞り虚血状態になると腫れて膨らむ。

また、緑内障がリスクファクターになることも知られています。

緑内障は眼の眼圧が上がる病気です。(関連記事:「緑内障とは―日本で最も多い失明の原因」

正常眼圧は約10~20mmHgとされ、一方で網膜中心動脈の血圧は平均80mmHg程度とされます。また、網膜の灌流圧(網膜に血液を流すためにかかる圧力)は「80-眼圧」で計算します。

仮に眼圧が30mmHgの場合は自動的に灌流圧が下がるので、血管が詰まりやすくなります。このため、緑内障の方に網膜中心静脈閉塞症や網膜静脈分枝閉塞症が起こりやすいといわれています。

※眼圧の正常値(10~20)はあくまで統計学的に定められた数値です。20より高くても正常な方もいらっしゃいますし、眼圧が正常値でもその人にとって健常かどうかは個人差があります。

網膜中心静脈閉塞症の場合は急な視力の低下、網膜静脈分枝閉塞症の場合はものがゆがんで見える、視野欠損が代表的な症状です。これらの症状が出たら早めに眼科を受診してください。

ただし重症度には幅があります。網膜静脈分枝閉塞症のなかには非常に軽症なケースもみられ、浮腫みも出血も少なく、自然に治ることがあるほどです。一方で、視力が著しく低下するほど重症な方もいらっしゃいます。

網膜静脈閉塞症は一度症状が出てしまうと進行の防ぎようがないので、生活習慣病をコントロールして、血圧やコレステロール値を上げすぎないよう調整することが重要です。

これまでは虚血した網膜にレーザーを当てるレーザー治療あるいは手術が中心でした。しかし、レーザー治療(網膜光凝固術)では黄斑浮腫が引きにくく、視力予後の改善が思わしくないという問題がありました。

その後、記事2『糖尿病網膜症の検査と最新治療―抗VEGF薬からレーザー治療、硝子体手術まで』でもご説明した抗VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor:抗血管内皮増殖因子)薬が網膜静脈閉塞症にも適用となったため、患者さんの視力予後は改善してきています。費用が高いという問題はあるものの、現在では、抗VEGF療法が治療の第一選択となっています。

地域の診療所などでは注射ができないことも多いので、この治療を受ける際は網膜の専門医に診てもらってください。大学病院であれば基本的に網膜専門医がおり、抗VEGF薬を取り扱っています。

抗VEGF療法には2~3年の時間を要します。注射のペースは、治療開始時には毎月、その後2~3か月ごと、半年ごとと期間を広げていきます。

レーザー治療と抗VEGF療法のどちらを行っても状態が良くならない症例の場合は手術をする場合があります。

手術によってある程度は浮腫が解消しますが、このような難治性の症例の場合、完治は難しいでしょう。

抗VEGF療法が治療に導入される以前は高頻度で手術をする医師もいましたが、導入以降、手術の頻度は全国的に減少しています。

重症の網膜中心静脈閉塞症は網膜全体が虚血しているため治療が難しく、抗VEGF薬とレーザー治療の導入前は、患者さんが血管新生緑内障を発症して失明するケースもみられました。現在でも重症例の治療は困難ですが、今はこれらの治療法の導入により、失明まで至る症例はほとんどなくなっています。

なお、網膜静脈分枝閉塞症の場合には血管新生緑内障の発症は希です。

たとえば黄斑部にかからない軽症の網膜静脈分枝閉塞症が起こったとき、患者さんは自分の症状に気がつかないため、放置してしまいます。するとVEGF(血管内皮増殖因子)が産生されて血管が新生されます。新生血管ができてもまだ自覚症状は現れず、ここから出血をきたしてはじめて異変を覚えます。

このように、初期には閉塞に気づかず放置してしまい、出血を起こしてから眼科を受診する患者さんが多くいらっしゃいます。出血自体は半年で自然に引きますが、出血によって生じた浮腫は引かないため、この時点で治療を開始しても視力維持が困難となります。

大抵の場合、すでに内科で管理をしてもらっている方が多いのですが、必要な場合は内科を紹介しています。

血圧計

網膜静脈閉塞症の原因のひとつは高血圧ですが、我々が高血圧の患者さんを診たからといって、目の前の患者さんが将来的に網膜静脈閉塞症になるかどうかは判断できません。

網膜静脈閉塞症は治療のタイミングが非常に重要な病気です。そのため何よりも早期受診と早期治療が大切になります。

治療は、スタートが早ければ早いほど効果があります。以前網膜中心静脈閉塞症に対する抗VEGF療法の治験を行っていたときのデータによれば、すぐに治療を始めたグループは視力が回復したものの、1年後に治療を始めたグループは視力が元に戻らなかったという報告があります。

日常的に血圧や生活習慣病をコントロールして、少しでも「おかしい」と思ったときはすぐに眼科を受診するよう心掛けてください。

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