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インタビュー

神経芽腫の診断の進歩—血清診断法により手術なしで悪性度を診断できる時代へ

神経芽腫の診断の進歩—血清診断法により手術なしで悪性度を診断できる時代へ
細井 創 先生

京都府立医科大学附属病院 小児科 診療部長、京都府立医科大学 大学院医学研究科 小児科学 教...

細井 創 先生

この記事の最終更新は2016年12月27日です。

小児の固形腫瘍の中では脳腫瘍に次いで多い神経芽腫。その多くは自然に小さくなるなど治療の必要がないものですが、中には手術や抗がん剤治療を必要とする悪性度の高いものもあります。その見極めで重要なのが、遺伝子診断です。しかし従来の遺伝子診断は、手術によって腫瘍組織をとる必要があり、全身麻酔を受ける小児ではとくに、患者さんの負担が大きくなるという難点がありました。そこで近年新たに開発されたのが、腫瘍の悪性度の指標となる腫瘍細胞の遺伝子異常を血液検査のみで検出することが可能な血清診断法です。今回は神経芽腫の検査や血清診断法などについて、京都府立医科大学大学院医学研究科小児科学の教授で附属病院小児科診療部長の細井創先生におうかがいしました。

神経芽腫とは、神経堤細胞(交感神経になる前の細胞)から生じる腫瘍を指します。神経芽腫の原発部位は、交感神経細胞が存在する交感神経節や副腎(腎臓の上に位置する副腎ホルモンなどを分泌する内分泌臓器)です。神経芽腫は全てが悪性ではなく、自然と小さくなる良性のものから浸潤や転移をおこす可能性の高い悪性の腫瘍まで存在します。

この神経芽腫は小児、とくに生後から1歳までの乳児での診断が最も多く、小児の固形腫瘍の中では脳腫瘍に次ぐ発生数です。

神経芽腫は、初期段階では無症状であることがほとんどです。病状が進行してはじめて、お腹が異常に大きい、お腹に硬いしこりがあるといった症状が出てきます。幼児期にはすでに全身の臓器に転移していることも多く、転移した臓器によって症状が異なります。たとえば発熱や貧血、頻繁にぐずる、まぶたが腫れる、骨の痛みなどといった症状です。

関連記事:神経芽腫とは

提供:PIXTA

神経芽腫は、1歳半(生後18か月)にまでにみつかった場合の予後は良好、それ以降に見つかった場合の予後は不良とされています。そのため、神経芽腫は早期発見が重要だと考えられてきました。そこで1985年から2003年までの間は、新生児マススクリーニング検査として尿検査による神経芽腫のスクリーニングを行い、可能な限り神経芽腫を早期発見して治療をしようと試みられてきました。

その理由は、神経芽腫のマススクリーニングの開始以降、神経芽腫の患者さんが大幅に増加し、その多くは悪性度の高い腫瘍でなく治療が不必要であったこと。そしてもう一つは、マススクリーニングで陰性と判定された方にも1歳以降に悪性度の高い神経芽腫が生じることがあったことからです。カナダとドイツで追試された結果では、マススクリーニングを行った地域と行わなかった地域で神経芽腫の生存率は変わりませんでした。こうした理由から神経芽腫におけるマススクリーニングはいったん休止されたのです。ただ、その後の研究で、日本では神経芽腫マススクリーニング開始後、神経芽腫乳児の死亡率がマススクリーニングを始める前の2分の1に減っていること、2歳以上の進行例が減っているという報告もされました。最近では、マススクリーニング休止後、乳児期以降の進行例が増えているという予備データも報告されており、現在、死亡率についても詳細に検討する厚生労働省の研究班が立ち上がっています。

神経芽腫の悪性度をはかるには、手術によって腫瘍組織を取って遺伝子診断を行い、特定の遺伝子異常がないかで判断します。この遺伝子異常で有名なのが、MYCNという遺伝子です。この遺伝子は誰でも持っているもので、通常の数は2個(1対)ですが、悪性の神経芽腫になるとこのMYCN遺伝子が50個、100個と増幅します。MYCN遺伝子の増幅がないかをみるために、生検による遺伝子診断が必要になるのです。

しかし先ほども述べたように、乳児期の神経芽腫の患者さんの多くは治療がいらない悪性度の低い方々です。手術や抗がん剤治療が必要な悪性度の高い患者さんは、マススクリーニングを行ったわが国の乳児例で調べると、神経芽腫を持つ100人の乳児のうち2人、つまり2%ほどでした。たった2人の悪性の神経芽腫を見つけるために、ほかの98人の治療の必要のない神経芽腫の患者さんも手術で腫瘍を採取するのかといえば、それは現実的ではありません。だからといって生検を行わずに2人の悪性の神経芽腫の患者さんを看過するのかというと、それも問題です。

そこで私たちはなんとか手術を行わずにMYCN遺伝子をみつけられるような遺伝子診断が行えないか模索し、手術を必要としない遺伝子診断を開発しました。

関連記事:神経芽腫の検査と診断

    :神経芽腫の治療 

提供:PIXTA

その新たな診断方法が、血清診断法です。血清診断法とは、自然に分解されたがん細胞の中から血液中に浸出した特定の遺伝子(MYCN遺伝子)を調べることで、神経芽腫の悪性度を判断する方法です。

がん細胞は通常の細胞と比べて細胞分裂が早く、増殖が激しいことがわかっています。細胞分裂の際、新たに増える細胞だけでなく、一部分解される細胞も存在しています。その際に血液に浸出するDNAは、通常の細胞よりもがん細胞のほうがより多く、がん患者さんの場合はそのがん由来のDNAの数が健康な人の100倍程度も血液中を循環していることがわかりました。

現在では小児の神経芽腫に対しても、血清診断法を用いた臨床試験が始まっています。血清診断法は血液検査のみで悪性度の高い神経芽腫かどうかの診断が可能なため、非常に低侵襲で患者さんに優しい診断法です。ですから、これによって手術を必要とせずに、悪性度の高い神経芽腫を持つ患者さんをみつけられるようになると考えています。

提供:PIXTA

今回解説した神経芽腫をはじめとする小児がんやほかの難病の子どもたちには、長期入院が必要な子どもたちが多くいます。なかには1年、2年と長期にわたり入退院を繰り返す子どももいます。ずっと入院し続け、決して楽ではない治療に耐えるのは大人でも大変なことです。そのような子どもたちが予定の治療を最後まで受けてくれるには、治療中であっても、あるいは治療中だからこそ、励ましとなる学校教育や遊びの時間の提供が重要なのです。

そのためには医師や看護師だけでなく、学校の先生やご家族などの協力が不可欠です。最新、最適の治療が予定通り最後まで行えるのは、我々医師や看護師だけではなく、子どもにとって不可欠の教育や遊びを支援してくれる教師や保育士、それらを心の面からも支える精神科医や心理士などの支援スタッフ、化学療法の副作用で食事がとりにくくなった患者さんに食べやすい、栄養のバランスのとれた病院食を作ってくれる管理栄養士さん、また服薬指導をしてくれる薬剤師さん、歯磨き指導など口腔ケアをしてくれる歯科医や歯科衛生士さんなどの多くの支援スタッフがいてこそなのです。当院は治療環境としてそのようなスタッフが充実しているからこそ、厚生労働省から高い評価で小児がん拠点病院に指定されたと考えています。

具体的には、院内、小児医療センターを出てすぐのところに小学と中学のクラスのある支援学校があり、職員室もあり、学校の先生が常駐しています。高校受験も院内で行い、合格して退院していった子もいます。高校生には医大生のボランティアが家庭教師をしてくれています。院内学級が夏休みなどでお休みのときは、高校生などの年長の患者さんによる学習教室を開催し、学習と交流が行われています。学校の休みの期間、入院中の大学生の患者が「塾」を開いて小学生の勉強を教えてくれたりすることもあります。

ファミリールームやプレイエリアでは、季節な様々な催し物が8名いる保育士さんたちによって企画され、準備され、行われます。書道家の方の書道ワークショップや、祇園祭のお囃子演奏、有名な指揮者とオーケストラ、プロスポーツ選手の励ましの訪問もあります。小児医療センターの鴨川と大文字の見える屋上庭園では、コンサートのほか、お盆には外泊できないこどもと家族のために送り火鑑賞と模擬夜店の催し物を毎年行っています。クリスマスには私たちがサンタクロースの格好をして回診したりします。そこで学習だけでなく同じ境遇の子どもたちや家族が交流し、遊んだり励まし合ったりすることで、情緒の発達や病気に打ち克つ勇気・元気をもらっています。

健康な人では何でもないような「虫歯菌」が、強力な化学療法で、一時的にしろ、免疫力の落ちる患児では命取りなる重篤な全身感染症のもととなることがありますが、歯科衛生士は患児の口腔ケアを指導してくれます。理学療法士さんは、臥せっていることが多い患児にリハビリして筋力の衰えを予防してくれます。また病院の管理栄養士さんは、ベッドサイドまで来て、献立の要望を聴いてくれたり、体調不良時の個別対応や行事食の取り入れ、デザートバイキングをして、患児たちに自分で選択することの喜びを与えてくれています。

 

クリスマスにサンタの仮装で子どもたちを楽しませる細井先生とスタッフ
サンタやトナカイの仮装で子どもたちを楽しませる細井先生とスタッフ(提供:細井創先生)

私は病気の子どもたちを治療しているというよりは、いつも子どもたちに力づけられていると思っています。大人でも音を上げてしまうような強力なつらい抗がん治療を半年、1年、いえ、それどころか再発を繰り返して10年近く闘い続けている子もいます。そんな中には我々小児科医でさえ、予想もしないほどに回復をみせる子もいます。子どもは生来、大人以上に大きな可能性と未知の潜在能力をもっていると私は信じています。

小児がんやその他の希少疾患は、なかなか世間から注目されることのない(光が当たらない)病気かもしれません。昔、私は教え子である医学生に「光が当たらないところにも光を当てるようそんな医者になりなさい」と言ってきましたが、最近になってその考えは少し傲慢だったと感じるようになりました。真の光は治療する医師でなく、病気や障害を持つ子どもたちであり。彼らこそが私たちの進むべき方向を照らす道しるべ、光そのものだというように思うようになったからです。我々は、このように難病という障害をもつ子どもたちこそが世の中の光になるような社会作りをしていかなければならないと思います。それは、結果的に彼らだけでなく、私たち皆にとって暮らしやすい、よりよい社会になると思うからです。

私は、2018年の11月に、京都で、「Child First! 難病のこどもたちが教えてくれる未来の医療、未来の社会」と題して、第60回日本小児血液・がん学会学術集会を会長として開催することになっています。公開講座などもありますので、ぜひ多くの方に参加していただければと思います。

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  • 京都府立医科大学附属病院 小児科 診療部長、京都府立医科大学 大学院医学研究科 小児科学 教授 、京都府立医科大学 医学部医学科 小児科学教室 教授

    細井 創 先生

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