インタビュー

日本の自殺の現状と原因―「死にたい」と「うつ病」は深く関係している

日本の自殺の現状と原因―「死にたい」と「うつ病」は深く関係している
河西 千秋 先生

河西 千秋 先生

人は、急激な環境の変化による過重ストレスや大切な人との離別などにより、時として「自殺」を選択してしまうことがあります。日本国内における自殺は、一体どのような状態なのでしょうか。

札幌医科大学医学部神経精神医学講座 主任教授 河西千秋先生に、自殺の現状と自殺の原因について伺いました。

河西先生

まずお伝えしたいことは、日本の自殺問題は皆様が想像しているよりもはるかに深刻な状態だということです。

1998年に、年間自殺者数は急増し、32,000人を越えました。一方、2015年の自殺者数は25,000人を下回りましたから、数字だけで見ると自殺者数は随分減りました。しかし他の先進国と比べてみると、日本の自殺は人数の多寡だけではなく、人口あたりの自殺率と言う点でも依然として高い水準にあり、現時点で世界最悪水準という状況が長い間続いています。

自殺者数は急増する前の1997年以前の水準まで著減したものの、実は、この世界最悪水準は1997年以前からそうだったわけで、「その状況がさらに悪化してまた幾分か良くなっただけ」だというのが本当の日本の自殺問題の実状です。

では、日本では自殺する方がなぜこれほどまでに多いのか、自殺問題を考えるにあたり、もう少し日本の実態を掘り下げてみましょう。

雑踏

自殺者の性比は、おおまかに言えば、男性7に対し女性3です。これは世界各国でもほぼ共通しています。

男性の自殺者が多くなる理由ですが、仮説としては、男性特有のテンペラメント(気質)に起因しており、男性は本来持っている攻撃性や衝動性が女性に比して高いことが関係していると言われます。健康な成人でみても、自殺未遂後の患者でみても、男性は攻撃性や衝動性が高いことが知られています。このことは、男性が自殺企図手段として女性よりもより致死性の高い方法を選ぶこととも関係していると言われます。

また、女性は一般にコミュニケーション能力、あるいは援助希求能力が男性よりも高く、男性はストレスを一人で抱え込みやすいということも言われています。

これらを実証する研究はありませんが、納得できる仮説です。

高齢者の自殺の推移グラフ 
出典:警察庁ウェブサイト(https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H26/H26_jisatunojoukyou_03.pdf)

一般的に、先進国では高齢者の自殺率は低下傾向で、30代以下の若年層の自傷や自殺の比率の上昇が目立ちます。

ただし、60歳以上の方が全体に占める割合は40%を超えており、今後さらに高齢化が進む日本では、高齢者の自殺問題の推移を注視していくべきでしょう。

※高齢者の自殺の原因については、後に続く『自殺の原因はメンタルの弱さではない』でもお伝えします。

日本の自殺者数と失業率の推移
提供:河西千秋先生

日本の自殺は完全失業率と相関しています。こうした動きは西ヨーロッパや北ヨーロッパではみられません。

ヨーロッパの自殺率が失業率と連動しないのは、精神保健・福祉システムの充実や、失業者の再雇用を容易にする施策が機能していることが関係しているものと考えられます。日本のように、失業が、すなわち自殺につながるような社会は不幸な社会です。

「1人の自殺は周辺の6人に対して強い影響を与える」ということが、WHOの文書に言及されていましたが、実際にはもっと大勢の方が影響を受けると考えています。

たとえば医療現場で生じた自殺の場合、自殺による影響は家族や友人、知人だけでなく医療従事者にも及びます。担当医、担当看護師、担当のコメディカル、たまたまその日に夜勤だった看護師など、発見者や目撃者、あるいはコールがかかって現場に直行し蘇生にあたったスタッフや救急医療スタッフなどです。他にも、同じ病室の患者さん、病棟の患者さんにも多大な影響が及びます。自殺者と同じ境遇の患者さんは自分自身を投影することで自殺のリスクが高まることがあります。

死にたいという意図をもって、あるいは死を予測して図る行動を「自殺企図」といい、その意図がない、もしくははっきりしない状態のものを「自傷行為」と呼ぶのが一般的です。定義としてはこうなりますが、しかし、これらを合わせて自損行為、自殺念慮を合わせて自殺関連行動と言い、自殺企図以外の行動も同じように自殺のハイリスク状態として同じように対応します。

自殺未遂した方をその後約9年以上に渡りフォローされた海外の研究では、そのうち3~12%の方がその後、自殺に至りました。これ以外にも自殺者のうち43%が死の1年以内に自損行為が原因で救急医療を受診しており、また、総合病院に搬送された自殺者の40%以上に、過去の自殺未遂歴があることなどが知られています。

健康な心理状態であれば、人は自ら死を選ぶことはまずあり得ません。ここでのキーワードは、「精神疾患」です。

自殺未遂者の精神疾患分類
提供:河西千秋先生

まず、エビデンスとして、自殺者のうち、少なくとも85%以上の方は、何らかの精神疾患を抱えた状態であったことが、システマティック・レビューなどにより知られています。

ちなみに、WHOの報告では98%とされています。なお、これらの方々の大半は精神科受診をしていなかったことも知られています。図にあるのは、3次救命救急センターに搬送された自殺未遂者のデータですが、同様に、少なくとも80%以上が精神疾患に罹患していることが分かりました。ちなみに80%というのは、パーソナリティ障害単独を除いてのデータです。

主な精神疾患としては、気分障害(うつ病双極性障害)、適応障害統合失調症、物質依存性、不安障害などが該当します。精神疾患は、脳の機能障害です。このように、自殺は脳の機能が異常な状態の中で決断されているのです。

自殺というと、「くよくよしやすい人」や、「神経質な人」が自殺をしやすいなどと誤解されがちです。実際には、内在する「攻撃性」や「衝動性」といったものが自殺の危険性に関連しています。

男性は、健常者でも女性より攻撃性・衝動性が高く、自殺未遂者における研究でも同様です。男性が、激しい方法や確実な方法で自殺を遂げることと関係があると言われています。

自殺予防 メディア関係者のための手引き

自殺は、さまざまな危険因子が複合的に関与し、最終的に精神疾患が関与して生じます。

人が自殺に傾倒していくプロセス
提供:河西千秋先生

メディアにより自殺に関するニュースがセンセーショナルに取り上げられたことがきっかけで発生する「群発自殺」もあります。例えば、学校でのいじめを苦にした自殺や著名人の自殺、あるいは特殊な方法による自殺が繰り返し繰り返しメディアで取り上げられると、その後、まるで流行のように自殺件数が増加することがあります。自殺報道が新たな自殺を誘発する現象のことを「ウェルテル効果」と呼びます。

私達は自分で想像する以上にメディアの影響を受けています。自殺の予防について、詳しくは記事2『自殺の予防と対策-周囲の気づきと相談がポイントになる』でご紹介しますが、メディアにおける報道の仕方が変化すれば、自殺者数は減らせるのではないかと考えています。

世代ごとに自殺の特徴があります。高齢者世代は心理的にも身体的にも変化が著しい世代です。仕事からの引退や子の独立といった人間関係の狭小化や、経済的な退潮が起こり、また身体的な衰えがあり、病気の起こりやすい年代でもあります。

不安や抑うつに陥りやすくするようなさまざまな要因があります。高齢の方の自殺の場合、こういった事柄が動機として多くなります。

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